第七十六話 天へ伸びる道
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティアの中央。
そこには一本の巨大な塔がそびえ立っていた。
雲を突き抜け。
空そのものへと届くほどの高さ。
市民たちは皆、その光景を見上げている。
「なんだあれ……」
「塔?」
「いや、山じゃないのか?」
「急に生えてきたぞ!?」
当然である。
数分前まで存在しなかった建造物なのだから。
アルマはそんな声など気にせず塔を見上げた。
「よし!」
やる気満々だった。
フィーネは額を押さえる。
「本当に行くのじゃな」
「うん!」
「聞いた我が馬鹿だった」
ルナは塔を見上げて目を丸くしていた。
「高い……」
シエルも同じだった。
「落ちたら死ぬよね」
「死ぬな」
フィーネが即答する。
アルマは首を傾げた。
「落ちなければいいんじゃない?」
「その発想が怖いのじゃ」
王城から出てきたレオニスたちも塔の下まで来ていた。
エルドは口をぱくぱくさせている。
未だに理解が追いついていないらしい。
「本当に……作ったのか……」
「うん」
「これを?」
「うん」
「一人で?」
「うん」
エルドは空を見上げた。
そして。
「……胃が痛い」
本音が漏れた。
王が肩を叩く。
「慣れろ」
「陛下は慣れたのですか」
「少しな」
少しだけだった。
その時。
空から再び轟音が響く。
ゴォォォォォォォ!!
呪われた古代竜が苦しそうに咆哮した。
巨大な呪核が脈打つ。
黒い霧が王都上空へ広がる。
市民たちが震える。
「まずい!」
「呪いが降ってくるぞ!」
フィーネが即座に前へ出た。
「任せよ」
炎が広がる。
不死鳥の炎。
黄金色の炎が空へ舞い上がった。
黒い呪いとぶつかる。
ジュゥゥゥゥッ!!
呪いが焼かれていく。
しかし。
量が多すぎた。
フィーネの顔が険しくなる。
「くっ……」
呪いの影響で本来の力が出せない。
少しずつ押され始めていた。
それを見たアルマが首を傾げる。
「フィーネ」
「なんじゃ」
「燃やしにくいの?」
「うむ」
「なら」
アルマが手を伸ばす。
パチン。
指を鳴らした。
次の瞬間。
王都上空に無数の光の輪が出現した。
何百。
何千。
何万。
空一面を埋め尽くす。
全員が固まった。
「……なにあれ」
ルナが呟く。
アルマは笑顔だった。
「浄化装置!」
「そんなものを一瞬で作るな!」
フィーネが叫ぶ。
だが。
既に遅い。
光の輪が一斉に輝いた。
呪いを吸い込み。
分解し。
浄化する。
黒い霧がみるみる消えていく。
数十秒後。
王都上空は綺麗な青空になっていた。
静寂。
誰も喋れない。
エルドが震えながら呟く。
「神話か……?」
アルマは首を傾げる。
「便利だよ?」
「便利で済ませるな」
フィーネはもう怒る気力もなかった。
その時。
古代竜の咆哮が響く。
今度は先程より苦しそうだった。
『グアアアアアアアアアッ!!』
巨大な身体が暴れる。
空間が歪む。
塔が揺れる。
アルマの表情が真剣になる。
「急がなきゃ」
フィーネも頷く。
「あぁ」
「もう限界が近い」
呪核の侵食が進んでいるのだ。
もし完全に支配されれば。
古代竜は本当に災厄となる。
アルマは塔へ向かった。
その時。
ルナが服を掴む。
「アルマお姉ちゃん」
「ん?」
「気をつけてね」
アルマは笑った。
「大丈夫」
シエルも言う。
「無茶しないで」
「できるだけ」
「絶対する」
フィーネが即答した。
シエルが苦笑する。
否定できない。
そして一行は塔を登り始めた。
螺旋状の階段。
空へ続く道。
上へ。
さらに上へ。
登るにつれて景色が変わる。
王都が小さくなっていく。
雲が近づいてくる。
ルナが思わず声を上げた。
「すごい……」
シエルも見下ろす。
「街がおもちゃみたい」
アルマは楽しそうだった。
「わぁー!」
遠足気分である。
フィーネは呆れた。
「これから古代竜を救いに行くのじゃぞ」
「うん!」
「緊張感はないのか」
「あるよ?」
全く見えなかった。
そして。
しばらく登った頃だった。
雲の中へ入る。
白い霧が辺りを包む。
視界が悪くなる。
その瞬間。
フィーネが足を止めた。
「……待て」
アルマも止まる。
「どうしたの?」
フィーネの目が鋭くなる。
「何かおる」
空気が変わる。
ルナとシエルも身構えた。
霧の奥。
何かの気配。
ゆっくりと近づいてくる。
そして。
人影が現れた。
黒いローブ。
白い仮面。
アルマは目を見開く。
「……あ!」
見覚えがあった。
呪核事件の時に現れた男。
フィーネも舌打ちする。
「貴様か」
仮面の男はゆっくり拍手した。
「素晴らしい」
「実に素晴らしい」
その声には笑みが混じっている。
「まさか本当に古代竜を救おうとするとは」
アルマが前へ出る。
「なんでこんなことしたの」
仮面の男は答えない。
代わりに。
アルマをじっと見つめた。
そして。
仮面の奥で笑った。
「やはり君だったか」
「創世の錬金術師」
その言葉に。
フィーネの瞳が鋭く細められた。
空へ続く塔の途中。
ついに。
全ての事件の裏にいた男が。
アルマたちの前へ姿を現した。
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次回もお楽しみに




