第七十一話 王の呼び出し
──天才錬金術師は常識を知らない
「お腹すいた」
王城からの使者が現れ、帝国や呪災の話まで出たというのに、アルマの第一声はそれだった。
フィーネは深々とため息を吐く。
「お主というやつは……」
「だって本当にお腹すいたんだもん」
アルマは頬を膨らませた。
ルナがくすりと笑う。
「さっきもいっぱい食べてたよ?」
「戦ったらお腹空くの!」
「それはそう」
シエルが納得したように頷いた。
側近は困ったように笑っている。
「陛下への報告は少々遅れても問題ありません」
「ほれ見ろ!」
「威張るな」
フィーネに即座に突っ込まれた。
結局、一行は近くの食堂へ立ち寄ることになった。
騎士たちは後始末に追われている。
クラウスも城へ先に戻ることになった。
別れ際。
「アルマ」
「ん?」
「今日の件、感謝する」
「ううん」
アルマは笑う。
「助かってよかった」
クラウスは少しだけ目を細めた。
普通なら名誉や報酬を気にする。
だが、この少女は違う。
助けたいから助けた。
それだけなのだ。
「本当に変わったやつだな」
「よく言われる」
フィーネが横から言った。
「毎日言っておる」
「ひどい!」
笑いが起きた。
その後。
アルマたちは食堂へ入った。
昼時を少し過ぎているため店内は空いている。
席に座るなり。
「全部ください!」
アルマが元気よく言った。
店員が固まる。
フィーネが額を押さえた。
「全部はやめんか」
「えー」
「絶対にやめんか」
数分後。
大量の料理が運ばれてきた。
肉料理。
魚料理。
スープ。
パン。
果物。
テーブルが埋まる。
ルナが目を丸くした。
「食べきれるの……?」
「まかせて!」
アルマは胸を張る。
そして。
三十分後。
見事に空になった皿が積み上がっていた。
店員が震えている。
「す、すごい……」
シエルも呆然としていた。
「本当に全部食べた……」
フィーネは慣れていた。
「昔より増えておるな」
「成長期だから!」
「便利な言葉だの」
そんなやり取りをしていると、ルナがふと窓の外を見た。
「……あれ?」
「どうした?」
フィーネも視線を向ける。
すると。
通りの向こうを歩く一団が見えた。
全員が黒いローブを纏っている。
普通の旅人にも見える。
だが。
フィーネの目が細くなった。
「……」
アルマも気づいた。
「なんか変?」
「うむ」
シエルも小さく頷く。
「魔力の流れがおかしい」
その集団は一瞬だけこちらを見た。
そして。
何事もなかったように去っていく。
フィーネは黙って見送った。
ルナが不安そうに尋ねる。
「知ってる人?」
「いや」
フィーネは首を振った。
「だが、嫌な気配だ」
アルマは窓から顔を出す。
「追いかける?」
「却下だ」
即答だった。
「えー」
「今のお主は王に呼ばれておる」
「そうだった」
アルマはあっさり納得した。
フィーネは少し安心する。
余計なことに首を突っ込まないのは珍しい。
だが。
次の瞬間。
「じゃあ王様終わったら追いかける?」
「やはり安心できん」
ルナとシエルが笑った。
食事を終えた一行は、改めて王城へ向かう。
王都ソリティアの中心。
巨大な城が見えてくる。
門は既に開かれていた。
どうやら話は通っているらしい。
衛兵たちはアルマたちを見ると敬礼した。
「アルマ殿、お待ちしておりました」
「こんにちはー!」
元気よく手を振るアルマ。
衛兵たちも思わず笑う。
王に直接会える者など限られている。
だが。
この少女からは緊張感が欠片も感じられない。
城内へ入ると、以前案内された廊下を進んでいく。
側近が歩きながら話し始めた。
「陛下がお呼びになった理由ですが」
「うん」
「先ほどお話した帝国の件です」
フィーネの表情が引き締まる。
「ヴァルゼリオン帝国か」
「はい」
「かなり動いておるようだな」
「国境付近で不審な活動が確認されています」
アルマは首を傾げた。
「帝国ってそんなに悪い国なの?」
側近は少し考えた。
「悪い国というわけではありません」
「違うの?」
「強い国です」
フィーネが続ける。
「力を求める国じゃ」
「力?」
「うむ。強者を集め、強者を育て、強者が支配する」
アルマは少し考えた。
「ふーん」
そして。
「じゃあ私とは合わないかも」
フィーネが笑った。
「それは間違いない」
しばらく進む。
やがて巨大な扉が見えてきた。
王の間。
前回も訪れた場所だ。
だが今回は空気が違う。
衛兵の数が多い。
警戒も厳重だ。
側近が扉の前で立ち止まる。
「陛下がお待ちです」
重厚な扉がゆっくり開く。
ギィィィィ……
広い王の間。
赤い絨毯。
玉座。
そして。
そこにはレオニス=ヴァルディオス・ソリティアだけではなかった。
王の左右に立つ数名の貴族。
騎士団長。
宮廷魔導士長。
さらに。
見慣れない人物が一人。
黒い外套を纏った老人だった。
その老人はアルマを見るなり目を見開く。
「……まさか」
小さく呟く。
フィーネの表情が変わった。
「お主……」
老人もフィーネを見た。
そして。
驚愕の色を浮かべる。
「不死鳥……だと?」
王の間の空気が一瞬で張り詰めた。
レオニスは静かに立ち上がる。
「来たか、アルマ」
その声にはいつもの余裕があった。
しかし。
瞳の奥には確かな緊張が宿っている。
「これより話す内容は、この国の未来に関わる」
アルマはきょとんとした。
ルナは少し不安そうにする。
シエルも真剣な顔になる。
そしてフィーネだけが気づいていた。
この呼び出しは。
ただの帝国問題ではない。
もっと大きな何かが動き始めているのだと。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




