第六十七話 暴走魔獣と規格外錬金術
──天才錬金術師は常識を知らない
「ギャオオオオオオオッ!!」
王都ソリティアに轟音が響き渡る。
人々の悲鳴。
崩れる屋台。
逃げ惑う市民たち。
通りの奥から現れたのは、巨大な四足獣だった。
全長は十メートル近い。
黒紫色の毛並み。
異常に膨れ上がった筋肉。
そして、赤黒く濁った瞳。
身体中には黒い紋様が浮かび上がっていた。
フィーネが目を細める。
「……また呪か」
ルナがぎゅっとアルマの服を掴む。
「怖い……」
シエルも険しい表情になった。
「魔力が歪んでる……」
周囲では兵士たちが慌てていた。
「一般人を避難させろ!!」
「魔導部隊はまだか!?」
「くそっ、早すぎる!!」
だが。
魔獣は既に暴走していた。
ドゴォォォン!!
巨大な前脚が石畳を叩き砕く。
衝撃で店が吹き飛ぶ。
「きゃあああ!!」
少女が転んだ。
魔獣の影が迫る。
兵士が叫ぶ。
「まずい!!」
その瞬間。
「だめーーーっ!!」
アルマが飛び出した。
フィーネが目を見開く。
「アルマ!?」
アルマは少女の前へ滑り込む。
そして。
地面へ手をついた。
パァァァァァッ!!
瞬時に巨大な錬金陣が展開される。
「錬金術式──防壁生成!」
ゴゴゴゴゴッ!!
地面が盛り上がり、巨大な透明壁が生み出された。
直後。
ズドォォォォン!!
魔獣の爪が防壁へ激突する。
凄まじい衝撃。
だが。
防壁は砕けない。
兵士たちが目を見開いた。
「防いだ!?」
「今のは……魔法か!?」
フィーネが額を押さえる。
「また目立つ真似を……!」
アルマは少女へ笑いかけた。
「大丈夫?」
「う、うん……!」
少女は涙目で頷いた。
その時。
魔獣の瞳がアルマを捉えた。
「グルルルルル……!!」
空気が震える。
黒い魔力が溢れ出した。
シエルが息を呑む。
「まずい……!」
フィーネも気づいていた。
「呪いが暴走するぞ!」
次の瞬間。
ドォォォォォン!!
黒い衝撃波が周囲へ広がった。
建物の窓ガラスが砕け散る。
人々が吹き飛ばされそうになる。
だが。
「わっ!」
ミルが前へ飛び出した。
ぷるんっ!!
その身体が一瞬で巨大化する。
透明なゼリー状の壁。
「みんなまもる!」
衝撃波がミルへぶつかる。
ぼよぉぉぉん!!
まるで吸収されるように衝撃が消えた。
兵士たちが固まる。
「……スライム?」
「今、防いだのか?」
ミルはえへんっと胸を張る。
「みるつよい!」
フィーネが呆れ半分に笑った。
「ほんとうに規格外集団になってきたの……」
だが。
魔獣は止まらない。
再び咆哮を上げる。
「ギャオオオオオッ!!」
アルマはじっと魔獣を見つめた。
すると。
半透明のウィンドウが浮かび上がる。
「名称:『暴走魔獣ガルム』」
「状態:『呪侵食』『魔力暴走』『激痛』」
「説明:『外部から呪核を埋め込まれ暴走状態となった魔獣』」
アルマの表情が曇る。
「……また」
フィーネも低く呟いた。
「やはり誰かがおるな」
シエルが魔獣を見る。
「苦しんでる……」
ルナも小さく頷く。
「かわいそう……」
アルマは拳を握った。
「助ける」
フィーネが即座に言う。
「待て、王都の真ん中だぞ!お主が大規模錬金術を使えばさらに騒ぎになる!」
「でも!」
「気持ちはわかる!」
フィーネは珍しく強い口調だった。
「だが、お主の力は危険すぎる!」
アルマは悔しそうに魔獣を見る。
その時。
「……なら、俺たちも手を貸そう」
低い声が響いた。
振り向くと、そこには銀鎧の騎士たちがいた。
王都騎士団。
その先頭には、一人の青年騎士。
蒼い髪。
鋭い目。
腰には大剣。
フィーネが目を細める。
「ほぅ……」
青年騎士はアルマを見る。
「以前、王に呼ばれた少女だな?」
アルマはきょとんとした。
「だれ?」
「ぐはっ」
青年騎士が少し傷ついた顔をした。
後ろの騎士たちが吹き出しそうになる。
フィーネが肩を震わせていた。
「くくっ……」
青年騎士は咳払いする。
「俺はソリティア騎士団第一隊長、クラウスだ」
「くらうす?」
「クラウスだ」
「クラウスさん!」
「……うむ」
少し満足そうだった。
クラウスは大剣を抜く。
「その魔獣、ただ倒すだけでは駄目なのだろう?」
アルマが目を丸くする。
「わかるの?」
「王から聞いている。“お前は普通の錬金術師ではない”とな」
フィーネが小さくため息を吐く。
「レオニスめ、余計なことを」
クラウスは剣を構えた。
「ならば、俺たちが時間を稼ぐ」
騎士たちも武器を抜く。
「その間に、助けられるなら助けてみろ」
アルマの目がぱっと輝いた。
「うん!!」
フィーネが頭を抱える。
「はぁ……もう止まらぬな、これは」
その瞬間。
暴走魔獣ガルムが咆哮を上げ。
騎士団へ向かって突進した。
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