第六十三話 黒呪竜の中にいたもの
──天才錬金術師は常識を知らない
ズズズズズ……
黒呪竜の背中が脈打っていた。
まるで生き物の心臓のように。
黒い呪いが膨れ上がり、巨大な塊となって蠢いている。
アルマは目を見開いた。
「これ……呪核じゃない」
フィーネが炎を揺らめかせる。
「何だと?」
アルマは黒呪竜を見つめる。
鑑定眼。
解析。
分解。
あらゆる情報が頭の中へ流れ込んでいた。
「呪いの奥に……誰かいる」
その言葉に、グランが低く唸る。
「中に、生き物が……?」
黒呪竜が苦しげに咆哮した。
「グォォォォオオオオッ!!」
大地が揺れる。
黒い魔力が周囲へ吹き荒れた。
ルナがよろめく。
「きゃっ……!」
ミルはアルマにしがみつく。
「くらい……いや……」
フィーネが前へ出る。
「アルマ、近づきすぎるな!呪いの濃度が異常だ!」
だがアルマは一歩も引かなかった。
「助けを呼んでる」
真っ直ぐな瞳。
フィーネは眉をひそめた。
「……お主はほんとうに」
その時だった。
黒呪竜の背中が裂けた。
ドロリ、と。
黒い泥のような呪いが溢れ出す。
その中心。
鎖に巻かれた“何か”が見えた。
小さい。
人型。
アルマが息を呑む。
「……子供?」
フィーネの表情が変わる。
「まさか……!」
グランも驚愕していた。
「あれは、人間か……!?」
黒呪竜が苦しげに暴れ回る。
どうやら背中の存在を守ろうとしているらしい。
いや。
違う。
アルマにはわかった。
「守ってるんじゃない……逃がそうとしてる!」
アルマは杖を握りしめた。
「フィーネ!」
「うむ!」
炎が爆発する。
フィーネが空へ飛び上がり、巨大な炎の翼を広げた。
「我が炎よ!」
ゴォォォォォッ!!
炎の奔流が黒霧を吹き飛ばす。
グランも前へ飛び出した。
「ガァァァァァッ!!」
牙が呪竜へ突き刺さる。
衝撃。
黒呪竜が体勢を崩した。
アルマはその隙へ飛び込む。
「アルマお姉ちゃん!?」
ルナの声が響く。
だがアルマは止まらない。
黒い呪いの中心。
そこへ一直線に突っ込んだ。
「うわっ、すごいベタベタする!」
「今そこなのか!?」
フィーネが叫ぶ。
アルマは呪いを掻き分けながら進んだ。
周囲から呪いが侵食しようとしてくる。
普通の人間なら、一瞬で精神を壊される濃度。
だが。
ジュゥゥゥ……
アルマの周囲で、呪いが浄化されていた。
フィーネが目を見開く。
「無意識で神聖魔力を放出しておる……!」
グランが呆然と呟く。
「何なのだ、その娘は……」
アルマは鎖の中心へ辿り着いた。
そこにいたのは。
銀色の髪をした少女だった。
年齢はルナと同じくらい。
小さな身体に、無数の黒い鎖が巻き付いている。
眠っているように目を閉じていた。
アルマはその姿を見て顔をしかめる。
「ひどい……」
鎖が少女から魔力を吸い上げていた。
その力で黒呪竜を暴走させている。
つまり。
「この子を核にしてるんだ……!」
フィーネが上空から叫ぶ。
「アルマ!その鎖を破壊しろ!それが本体だ!」
「うん!」
アルマは杖を構える。
だが、その瞬間。
少女の目が開いた。
真っ赤な瞳。
しかしその目には、涙が浮かんでいた。
「……にげて」
か細い声。
アルマが固まる。
少女は苦しそうに首を振った。
「わたし……抑えられない……」
次の瞬間。
黒い呪いが爆発した。
「っ!?」
アルマの身体が吹き飛ぶ。
フィーネが急降下した。
「アルマ!!」
ドォォォン!!
地面へ叩きつけられる寸前、フィーネが抱き止める。
アルマは咳き込みながらも目を離さなかった。
「大丈夫!?」
「う、うん……」
だが状況は悪化していた。
黒呪竜の全身がさらに巨大化し始めたのだ。
ゴキゴキゴキ……
外殻が変形する。
黒い角が伸びる。
呪いが周囲を侵食していく。
グランが低く唸った。
「暴走が加速している……!」
フィーネの表情も険しい。
「少女を核にしておるせいだ……!」
ルナが不安そうにアルマを見る。
「どうするの……?」
アルマは立ち上がった。
服はボロボロ。
だがその瞳は揺らいでいない。
「助ける」
即答だった。
フィーネが頭を押さえる。
「お主は本当にそれしか言わぬな……!」
「だって、苦しそうだから」
アルマは黒呪竜を見る。
巨大な竜も。
鎖に繋がれた少女も。
どちらも被害者だった。
なら。
やることは決まっている。
アルマは杖を強く握る。
「分解じゃ間に合わない……なら」
魔力が溢れた。
大地が震える。
空気が鳴る。
フィーネが息を呑む。
「アルマ……?」
アルマの周囲に、これまでとは比較にならない数の術式が展開されていた。
重なる光。
幾何学模様。
超高速で組み上がる錬金陣。
グランが目を見開く。
「何だ、この術式は……!」
アルマは静かに呟く。
「“再構築”する」
その瞬間。
世界が、白く輝いた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




