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天才錬金術師は常識を知らない〜神に選ばれた少女は、世界の価値を再定義する〜  作者: れんP
共和国編

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第六十話 守護獣の願い



──天才錬金術師は常識を知らない


グランヴォルフの巨体がゆっくりと崩れ落ちた。


静寂。


風が吹く。


そして。


狼はゆっくり目を開いた。


その瞳は、もう濁っていなかった。


深い蒼色の瞳。


そこには狂気も暴虐もなく、ただ静かな理性だけが宿っていた。


アルマはその瞳を見て、ぱっと顔を明るくした。


「戻った!」


グランヴォルフはゆっくりと身体を起こそうとする。


だが、まだ力が入りきらないのか、前脚がわずかに震えた。


「無理しちゃだめ!」


アルマが慌てて駆け寄る。


フィーネは少し警戒しながらも、以前のような敵意が消えていることを感じ取っていた。


「……ふむ、本当に呪は消えておるようだな」


ルナもほっと息を吐く。


「よかった……」


ミルはぷるぷる震えながら前へ出た。


「オオカミさん、こわくない?」


グランヴォルフはゆっくりとミオを見る。


その巨大な顔が近づくだけで普通の人間なら腰を抜かしそうな迫力だった。


だが、その瞳はどこまでも穏やかだった。


「……あぁ。もう、大丈夫だ」


低く響く声。


だがその声には不思議と安心感があった。


アルマは目を輝かせる。


「やっぱりしゃべる狼ってすごいね!」


「お主はそこに驚くのか……」


フィーネが呆れたように言う。


グランヴォルフはゆっくりと周囲を見回した。


荒れた草原。


抉れた地面。


折れた木々。


暴走していた自分が引き起こした被害を見て、苦しげに目を細める。


「……我は、どれほどのことを」


「気にしなくていいよ」


アルマが即答した。


「え?」


「だって、呪われてたんでしょ?」


あまりにも真っ直ぐな言葉だった。


「悪いのは呪いを作った人たちだよ」


グランヴォルフは静かに目を見開く。


責められると思っていた。


恐れられると思っていた。


だが、目の前の少女は違った。


彼女はただ、“助けられるなら助けたい”という顔をしていた。


「……変わった人間だ」


「よく言われる!」


アルマは胸を張る。


フィーネは深くため息を吐いた。


「褒め言葉ではないぞ」


ルナがくすっと笑った。


グランヴォルフはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頭を下げた。


巨大な神獣が地面へ額をつける。


その姿は、まるで騎士の礼のようだった。


「感謝する。錬金術師よ」


アルマは慌てた。


「わわっ!?頭上げて!?」


「我が名はグラン」


「グラン!」


「本来ならば、この地を守護する神獣の長であった」


フィーネの目が細くなる。


「“であった”か」


「あぁ……」


グランは低く呟いた。


「暴走した我を恐れ、群れは散った。森も荒れた。我は守護獣としての資格を失ったのだろう」


その声には深い後悔が滲んでいた。


ルナは少し悲しそうな顔をする。


「そんな……」


だがアルマは首を傾げた。


「でも、まだ生きてるよ?」


「……何?」


「やり直せるじゃん!」


にこっと笑う。


「失敗したなら、また頑張ればいいんだよ!」


フィーネは額を押さえた。


「お主の思考は本当に単純だな……」


「えへへ」


だが、その単純さに。


グランは救われたような顔をした。


「……そうか。我は、まだ終わっていないのか」


「うん!」


アルマが元気よく頷く。


その時だった。


フィーネがふと空を見上げた。


「む」


「どうしたの?」


アルマも視線を向ける。


すると遠くの空から、複数の鳥型魔物が飛んできていた。


だが、それらはグランを見るなり空中で静止した。


「……主?」


一羽が震える声を出す。


グランは目を見開いた。


「お前たち……」


フィーネが説明する。


「配下か」


「あぁ……」


すると次々に魔物たちが降り立った。


巨大な狼型。


角を持つ鹿。


翼を持つ大蛇。


どれも普通の冒険者では近づくことすら危険な魔物たちだった。


ルナがアルマの後ろへ隠れる。


「いっぱい来た……!」


ミルはぷるぷるしている。


だが魔物たちはグランを見つめたまま、やがて一斉に頭を下げた。


「ご無事で……!」


「呪いが消えている……!」


「主が戻られた……!」


歓喜の声が広がる。


グランは静かに目を閉じた。


「……待たせたな」


その瞬間。


森全体が震えるような咆哮が響いた。


だが、それは暴虐の咆哮ではない。


歓喜の声。


守護獣の帰還を祝う、森の声だった。


アルマは目を輝かせる。


「すごい……!」


フィーネも静かに息を吐いた。


「どうやら、本当にこの森の王だったようだな」


その時。


グランが再びアルマへ向き直った。


「アルマ」


「ん?」


「一つ、頼みがある」


フィーネの目が細くなる。


「頼み、だと?」


グランは静かに言った。


「我と共に、“呪いの源”を探してほしい」


空気が変わる。


風が吹き抜ける草原。


グランの蒼い瞳には、強い決意が宿っていた。


「我は見た。あの黒い霧の奥にいた者を」


アルマたちは息を呑む。


「奴らは、まだ動いている」


その言葉は。


新たな異変の始まりを告げていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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