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天才錬金術師は常識を知らない〜神に選ばれた少女は、世界の価値を再定義する〜  作者: れんP
共和国編

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第五十九話 浄化された咆哮


──天才錬金術師は常識を知らない


グランヴォルフの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちた。


大地が鈍く揺れる。


先ほどまで荒れ狂っていた暴風のような魔力も、今は静かに霧散していた。


静寂。


風が吹き抜ける。


そして。


狼は、ゆっくりと目を開いた。


その瞳は、もう濁っていなかった。


深い蒼色。


まるで夜空を閉じ込めたような、美しい瞳だった。


「……戻った、の?」


アルマがそっと近づく。


巨大な狼は苦しげに呼吸をしながらも、敵意を見せなかった。


むしろ、その視線には戸惑いと困惑が浮かんでいる。


フィーネは警戒を解かず、前に立つ。


「油断するな。呪核は消えたが、完全に正気へ戻ったとは限らぬ」


「うん」


アルマは頷きつつも、狼から目を離さない。


グランヴォルフはゆっくりと顔を上げた。


「……ここ、は……」


低い声だった。


だが先程の狂気に満ちた咆哮とは違う。


理性ある声。


ルナが目を丸くした。


「しゃべった……」


ミルもアルマの肩からぴょこんと顔を出す。


「オオカミ、しゃべれる……」


フィーネが静かに答えた。


「グランヴォルフほどの上位種になれば知性を持つ。珍しくはない」


「へぇ〜……」


アルマは感心したように頷く。


その間にも、巨大狼は自分の身体を見下ろしていた。


「我は……暴走、していたのか……?」


「うん」


アルマが即答する。


「すっごい暴れてた」


「ぐっ……」


狼は苦しげに目を閉じた。


「……覚えている。黒い何かに侵され、理性が崩れていった……。止めようとしても止まらなかった……」


フィーネの目が細くなる。


「やはり呪か」


「呪……」


狼は低く唸る。


「我は森の守護をしていた。だが、ある日突然、黒い霧を纏う者たちが現れた」


アルマたちは顔を見合わせた。


「黒い霧……」


「奴らは何かを埋め込んだ。我の胸へ、黒い核を……」


ルナが小さく身体を震わせる。


「呪核……」


「その後からだ。魔力が暴走し始め、理性が壊れ、気づけば周囲を破壊していた……」


狼は悔しげに地面へ爪を立てた。


「……守るべき森を、自ら傷つけるなど……」


アルマはしばらく考え込み、それからぽんっと手を叩いた。


「でも、戻れてよかったね!」


「……は?」


狼が呆けた顔をする。


「だって、生きてるし!」


にこっと笑うアルマ。


「呪いも消えたし、これからまたやり直せるでしょ?」


あまりにも単純な言葉だった。


だが、その言葉に。


狼は目を見開いた。


「……やり直す、か」


ぽつりと呟く。


その時。


ミルがぴょこぴょこと前に出た。


「オオカミさん、いたい?」


「……少しな」


「なら、あるまのくすり、すごい」


「おいミル、勝手に薦めるでない」


フィーネが呆れる。


だがアルマはすでに目を輝かせていた。


「そうだ!」


ごそごそ。


アイテムボックスから次々と素材を取り出し始める。


フィーネが嫌な予感を覚えた顔をした。


「……アルマ?」


「ちょっと待ってね!」


ポケット錬金鍋が地面へ落ち、大きく広がる。


ルナが苦笑した。


「始まった……」


アルマは鼻歌交じりに素材を放り込んでいく。


薬草。


魔石。


浄化水。


それに、先ほど分解した呪核の残滓をほんの少し。


「おい待て最後危険ではないか!?」


「大丈夫大丈夫!」


「お主の“大丈夫”は信用ならん!」


鍋の中が七色に輝く。


ぼこぼこ。


しゅわぁぁぁ……


次の瞬間。


透明な蒼色の液体が完成した。


「できた!」


「早い!?」


フィーネが叫ぶ。


狼も呆然としていた。


アルマは完成した薬を差し出す。


「はい!」


「……何だこれは」


「超回復薬!」


「名前が雑!!」


フィーネが即座に突っ込む。


だがアルマは気にしない。


「飲めば元気になるよ!」


狼は警戒しつつも、アルマの目を見る。


そこに打算はなかった。


純粋な善意だけ。


「……変わった人間だ」


「よく言われる!」


「自覚がないのが恐ろしいのだが」


フィーネが頭を抱える。


狼は薬を口にした。


その瞬間。


蒼い光が全身を包む。


「……っ!?」


傷がみるみる塞がっていく。


荒れていた魔力も安定し、弱っていた生命力が一気に戻っていく。


狼が目を見開いた。


「これは……」


「どう?」


アルマが期待に満ちた目で覗き込む。


狼はゆっくり立ち上がった。


先ほどまで重そうだった身体が、今は軽い。


「……完治している」


「やったぁ!」


アルマが嬉しそうに跳ねる。


フィーネは額を押さえた。


「ほんとうに何なんだお主は……」


ルナも苦笑する。


「アルマお姉ちゃんだから……」


狼はしばらく沈黙し、やがて深く頭を下げた。


巨大な身体が地面へ伏せる。


「感謝する、錬金術師よ。我が名はグラン」


「グラン?」


「本来ならば森の守護獣“グランヴォルフ”の長として生きていた」


アルマの目が輝く。


「かっこいい名前!」


「……そうか?」


「うん!」


即答だった。


グランは少しだけ困ったように笑った。


「久しく、そのように言われたことはない」


フィーネは静かに周囲を見回す。


「……しかし妙だな」


「?」


「呪核を使い、神獣級を暴走させるなど、普通の者にできることではない」


ルナが不安そうに尋ねる。


「また、あの仮面の人たち……?」


「可能性は高い」


フィーネの目が細くなる。


「呪、暴走、黒い霧……全て繋がっておる」


アルマはグランを見上げた。


「何か思い出せない?」


グランは目を閉じる。


「……断片的にだが、一つだけ」


「?」


「奴らは、“王”と言っていた」


空気が変わった。


フィーネの表情が険しくなる。


「……王、だと?」


「誰かを復活させる、と」


アルマたちは息を呑んだ。


風が吹く。


静かな草原。


だが、その奥で。


確実に何かが動き始めていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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