第五十五話 ぷにぷに少女と初めての朝
──天才錬金術師は常識を知らない
朝日が草原を照らしていた。
淡い金色の光が丘を包み、風が柔らかく草を揺らしていく。
焚き火の残り火からはまだ少し煙が上がっていた。
そんな中。
「……ふにゃ」
奇妙な声が響いた。
アルマが毛布の中でもぞもぞ動く。
「んぅ……?」
目を開ける。
すると真正面に、黄緑色の瞳があった。
「わっ!?」
アルマが飛び起きる。
目の前にはミルがいた。
しかも顔が異様に近い。
「……オハヨウ」
「び、びっくりしたぁ……」
ミルは首を傾げる。
「……ダメ?」
「ダメじゃないけど、近い!」
するとミルは少ししゅんとした。
その瞬間。
身体がどろっと溶ける。
「わっ!?」
再びスライム状態になり、ぷるぷる震え始めた。
フィーネが呆れたようにため息を吐く。
「感情が不安定だと姿が崩れるのか」
ルナも起き上がりながら目を擦った。
「……おはようございます」
「おはよー!」
アルマはすぐに笑顔に戻る。
そしてスライム状態になったミルを抱き上げた。
「ほらほら、大丈夫だよ!」
「……ホント?」
「うん!」
ミルの身体が少しだけ明るくなる。
すると再び人型へ戻った。
まだ少し不安定だが、昨日よりは自然になっている。
フィーネが頷いた。
「順応が早いな」
アルマは興味津々でミルを見つめる。
「ねぇねぇ、どんな感じ?」
「?」
「人の姿!」
ミルは自分の腕を見た。
指を曲げたり開いたりする。
「……ヘン」
「そっかぁ」
「デモ」
ミルは少し考え込んでから言った。
「……アッタカイ」
アルマが笑う。
「それは良かった!」
フィーネは立ち上がり空を見た。
「さて、そろそろ移動するぞ」
「今日はどこ行くの?」
「王都に戻る」
アルマが首を傾げる。
「なんで?」
「お主、また素材ばかり集める気であろう」
「うん!」
「やはりな……」
フィーネは深いため息を吐いた。
「生活費も必要だ。依頼も受けねばならん」
「そっか」
ルナが小さく手を挙げる。
「ミルちゃんは、どうするんですか?」
フィーネはちらりとミルを見る。
「連れていくしかあるまい」
ミルがぴくっと反応した。
「……イイノ?」
アルマは即答した。
「もちろん!」
その返事を聞いた瞬間。
ミルの身体がぽよんっと膨らむ。
どうやら嬉しいらしい。
フィーネが少し笑った。
「わかりやすいやつだ」
朝食を終えたあと。
四人は再び草原を歩き始めた。
ミルはまだ歩き方に慣れていない。
ふらふらしては転びそうになる。
そのたびにアルマが支える。
「大丈夫?」
「……ムズカシイ」
「ゆっくりでいいよ〜」
ルナも隣で手を握る。
「こうやって歩くんだよ」
「……コウ?」
ぎこちない。
だが少しずつ上達していく。
フィーネはその様子を後ろから眺めていた。
「まるで子育てだな……」
「親だもん!」
アルマが元気よく答える。
「誰が親だ」
「え、私?」
「お主は精神年齢が子供すぎる」
「ひどい!」
ルナがくすっと笑った。
その時だった。
ミルが突然立ち止まる。
「?」
「どうしたの?」
ミルは草むらを見つめていた。
じーっと。
そのまま動かない。
フィーネの目が細くなる。
「何かおるな」
アルマも杖を握った。
草むらが揺れる。
ザザッ。
小さな影が飛び出した。
「きゃっ!?」
ルナが驚く。
飛び出してきたのは、小さな獣だった。
丸い耳。
長い尻尾。
白っぽい毛並み。
アルマの目が輝く。
「かわいい!!」
その小動物はミルを見る。
そして突然。
ぺこっと頭を下げた。
「……え?」
アルマが固まる。
ミルも首を傾げる。
すると小動物は。
「キュルル……!」
ミルへ何かを訴えるように鳴き始めた。
ミルがじっと見つめる。
そして。
「……タスケテ、ッテ」
フィーネが眉をひそめた。
「理解できるのか?」
ミルは頷く。
「……ナカマ、イッパイ、ツカマッタ」
空気が変わる。
アルマの表情が真剣になった。
「捕まった?」
小動物は必死に頷く。
フィーネが低く呟く。
「……魔物狩りか」
ルナが不安そうに言う。
「また、悪い人……?」
フィーネは周囲を警戒した。
「可能性は高い」
アルマはしゃがみ込み、小動物と目線を合わせる。
「どこにいるの?」
小動物は震える前足で、遠くの森を指した。
そこには。
黒い煙のようなものが、微かに立ち昇っていた。
フィーネの目が細くなる。
「嫌な気配だな」
アルマは立ち上がる。
「助けに行こう」
フィーネが即座に返す。
「そう言うと思った」
ルナも頷いた。
「うん、助けたい」
ミルは小さく拳を握る。
「……イク」
風が吹く。
草原が揺れる。
そして四人は、新たな気配のする森へ向かって歩き出した。
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次回もお楽しみに




