第四十七話 天才錬金術師と自動料理鍋
──天才錬金術師は常識を知らない
翌朝。
王都ソリティアの宿屋。
窓から柔らかな朝日が差し込んでいた。
「んぅ……」
ルナが目を擦りながら起き上がる。
すると。
「おはよー!」
すでに元気いっぱいのアルマが飛び込んできた。
「アルマお姉ちゃん、朝から元気……」
「今日はね!市場に行くの!」
フィーネが椅子に座ったまま呆れ顔を向ける。
「昨日あれだけ騒ぎを起こしておいて、まだ動き回る気か」
「だって楽しいんだもん!」
「はぁ……」
フィーネはため息を吐いた。
だが、完全に止める気はない。
どうせ止めても行く。
もう理解していた。
三人は宿を出て、大通りへ向かった。
朝の市場は活気に満ちている。
新鮮な野菜。
焼きたてのパン。
香辛料の香り。
ルナはきょろきょろと辺りを見回していた。
「すごい……いっぱいある」
「王都だからな」
フィーネが説明する。
「各地の商人が集まる。この国で最も物が流れる場所だ」
アルマはすでに露店へ突撃していた。
「わぁ!この果物すごい色!」
「嬢ちゃん買ってくかい!?」
「これどうやって育つの!?」
「そこからか!?」
市場の商人たちが笑い出す。
アルマは本当に楽しそうだった。
そんな時。
「うおおおっ!?焦げる焦げる焦げる!!」
大きな悲鳴が響いた。
フィーネが無言で空を見る。
「……また始まったぞ」
アルマの目が輝く。
「事件だ!」
「お主はなぜ嬉しそうなのだ」
声のした方向。
そこには小さな屋台があった。
だが。
問題はその中央。
巨大な鍋が暴走していた。
グツグツグツグツ!!
炎が吹き上がり。
鍋が勝手に動き回っている。
料理人らしき男性が泣きそうになっていた。
「だ、誰か止めてくれぇぇ!!」
アルマが近づく。
「なにこれ?」
料理人が振り向く。
「自動調理鍋だよ!!」
「へぇ〜!」
「感心してる場合じゃねぇぇ!!」
鍋は高速で食材を混ぜ始めた。
野菜が飛ぶ。
肉が舞う。
香辛料が爆発した。
「辛ぁぁぁっ!!」
周囲の人々が涙目になる。
フィーネが額を押さえる。
「最近の王都、妙な発明が多すぎんか……?」
料理人は半泣きだった。
「楽したくて魔導鍋を作ったんだよぉ!!でも動力用の魔石を増やしたら急に暴走してぇぇ!!」
アルマは鍋を観察する。
すると。
鍋がピタッと止まった。
「?」
次の瞬間。
鍋がアルマへ向かって高速移動した。
「うわっ!?」
ガコン!!
アルマの前で停止。
そして。
カンカンカン!!
鍋の蓋が激しく上下する。
「……なんか話しかけてる?」
ルナが首を傾げる。
フィーネは遠い目になった。
「お主、本当に何にでも懐かれるな……」
アルマは鍋を覗き込む。
するとウィンドウが浮かぶ。
「自動調理鍋 状態:料理欲暴走」
アルマがきょとんとした。
「料理欲?」
料理人も固まる。
「そんな状態あるのか!?」
アルマは真面目な顔で頷く。
「うん。この鍋、もっと美味しい料理作りたくて暴走してる」
鍋がガタガタ震えた。
どうやらその通りらしい。
フィーネはもう何も言わなかった。
慣れてきていた。
アルマは鍋を撫でる。
「そっか〜」
「わ、わかるのか……?」
「うん!」
アルマは笑顔になる。
「じゃあ調整しよう!」
フィーネが即座に言う。
「嫌な予感しかしない」
アルマは工具を取り出した。
市場のど真ん中で分解開始である。
「お、おい嬢ちゃん!?」
料理人が青ざめる。
だがアルマは気にしない。
カチャカチャ。
魔石を交換。
回路を整理。
さらに。
「ここの火力制御が雑だな〜」
「味覚補助も足りない」
「温度維持も変えよっと」
周囲の職人たちがざわつき始める。
「なんだあの技術……」
「子供の手際じゃねぇぞ……」
「魔導技師か?」
フィーネがぼそりと呟く。
「錬金術師だ」
数十分後。
アルマが立ち上がる。
「できた!」
鍋が静かに震えた。
そして。
ぽわんっ。
柔らかな光が広がる。
次の瞬間。
鍋が自動で食材を切り始めた。
しかも。
動きが異常に滑らかだった。
「おぉ……!」
料理人が目を見開く。
鍋は食材を均等に投入し。
火加減を完璧に調整し。
香辛料を最適な量で混ぜる。
さらに。
ふわぁぁ……
信じられないほど良い香りが広がった。
周囲の通行人たちが立ち止まる。
「な、なんだこの匂い!?」
「腹減ってきた……!」
完成した料理を料理人が一口食べる。
「──っっ!?」
硬直。
そして。
「うまぁぁぁぁぁっ!!?」
絶叫だった。
市場中が静まり返る。
料理人は震えていた。
「な、なんだこれ……今までで一番美味い……」
アルマは満足そうに笑う。
「よかった!」
フィーネは頭を抱える。
「また革命を起こしたな……」
周囲の料理人たちが押し寄せる。
「嬢ちゃん!うちの鍋も見てくれ!」
「うちの厨房にも来てくれぇ!」
「弟子にならねぇか!?」
アルマは困惑する。
「えぇ!?」
ルナはくすくす笑っていた。
「アルマお姉ちゃん、人気者」
「違う気がする……」
フィーネが真顔で言う。
「いや、完全に騒ぎの中心だ」
その頃。
ソリティア城。
レオニス=ヴァルディオス・ソリティアは報告書を読んでいた。
「……今度は料理鍋?」
側近が頭を下げる。
「はっ。市場の料理人たちが騒然となっております」
「内容は」
「“自動で最高級料理を作る鍋”とのことです」
沈黙。
王は静かに窓の外を見る。
「……またあの娘か?」
「おそらく」
レオニスは数秒黙ったあと。
ふっと笑った。
「面白い」
そして呟く。
「このままでは、王都の常識が全部塗り替わるぞ……」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もおたのしみに




