四十六話 天才錬金術師と動き出す掃除道具
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティア。
昼下がりの大通り。
今日もアルマたちは、のんびりと街を歩いていた。
「ねぇフィーネ!」
「なんだ」
「この街、ほんとに広いね〜!」
アルマはくるくると周囲を見回す。
石造りの建物。
並ぶ露店。
行き交う人々。
活気に満ちた王都の景色に、アルマは未だ飽きていなかった。
ルナも楽しそうに周囲を眺める。
「あ、あのお菓子おいしそう……」
「買う?」
「え、いいの?」
「もちろん!」
フィーネが即座に口を挟む。
「甘やかしすぎだ」
「だってルナちゃんかわいいし」
「むぅ……」
ルナが少し照れる。
そんなやり取りをしていた時だった。
「うわぁぁぁぁっ!!」
遠くから悲鳴。
続いて。
ガシャーン!!
大量の何かが倒れる音。
フィーネが眉をひそめた。
「……またか」
アルマは目を輝かせる。
「事件だ!」
「お主は少し落ち着け」
三人が向かった先。
そこは大通りの一角だった。
人だかりができている。
そして。
「逃げろぉぉ!!」
「箒が飛んでる!?」
「モップまで!?」
空中を高速で飛び回る掃除道具たち。
箒。
モップ。
雑巾。
バケツ。
さらにはブラシまで。
それらが意思を持ったように街中を駆け回っていた。
アルマは真顔になった。
「掃除してる」
確かに。
暴れているように見えて、実際は違った。
箒はゴミを集め。
モップは床を磨き。
雑巾は窓を拭いている。
だが。
勢いが強すぎた。
「ぎゃああ!?店の中まで磨くなぁぁ!!」
「窓を割るなぁぁ!!」
大惨事である。
フィーネが呆れ顔になる。
「なぜ毎回こう極端なのだ」
アルマは興味津々だった。
「すごい便利そう!」
「便利の前に危険だ」
その時。
「ま、待ってください〜!!」
一人の女性が慌てて走ってきた。
眼鏡をかけた若い女性。
ローブ姿。
どうやら魔導技師らしい。
「そ、その子たちは私の清掃用魔導具なんです〜!!」
アルマがきょとんとする。
「また?」
フィーネがため息を吐く。
「最近の王都はどうなっておるのだ……」
女性は涙目だった。
「自動清掃機を作ろうと思ったんですけど、魔力を入れすぎたら暴走してぇぇ……!」
アルマが感心したように言う。
「へぇ〜!」
フィーネは冷静だった。
「お主ら、なぜ毎回魔力を盛る」
「だ、だっていっぱい動いたほうが便利かなって……」
アルマは掃除道具たちを観察する。
すると。
一つの箒がアルマの前へ飛んできた。
ピタッ。
「ん?」
箒はアルマをじーっと見つめ。
次の瞬間。
シュババババッ!!
周囲の地面を猛烈な勢いで掃除し始めた。
「わぁ!?」
一瞬で石畳がピカピカになる。
ルナが目を丸くした。
「すごい……」
さらに他の掃除道具たちもアルマの周囲へ集まり始めた。
ガタガタ。
カタカタ。
まるで「見て見て!」と言っているようだった。
フィーネが遠い目をする。
「また懐かれておる……」
アルマは楽しそうだった。
「かわいい!」
「掃除道具に対する感想ではない」
アルマは箒を持ち上げる。
「ん〜……」
ウィンドウが浮かぶ。
「自動清掃魔導具 状態:魔力暴走・使命感過多」
「使命感過多?」
女性技師が固まる。
「そ、そんな状態あるんですか!?」
フィーネは疲れた顔になった。
「もう何があっても驚かん」
アルマは笑った。
「簡単だよ!」
「簡単ではないと思うが」
「お掃除好きすぎるんだ!」
掃除道具たちが一斉に震えた。
どうやら正解らしい。
女性技師が頭を抱える。
「うそぉぉ……」
アルマは考え込む。
「じゃあ、ちゃんと掃除できるように調整しよっか!」
フィーネが止めようとする。
「待てアルマ、その笑顔の時は大抵ろくなことになら──」
遅かった。
アルマはすでに工具を取り出していた。
カチャカチャ。
魔石を調整。
回路を再構築。
掃除道具たちが大人しく並んで待っている。
まるで整備を受けるペットだった。
周囲の見物人たちは騒然としていた。
「なんだあの手際……」
「職人か?」
「いや、子供だぞ!?」
アルマは鼻歌交じりに作業する。
「ここをこうして〜」
「命令整理して〜」
「暴走抑えて〜」
数十分後。
「できた!」
ぽんっと箒を叩く。
すると。
シュタッ!!
掃除道具たちが綺麗に整列した。
「おおおおっ!?」
さらに。
箒は静かにゴミを掃き。
モップは丁寧に床を磨き。
雑巾は優しく窓を拭く。
完璧な動きだった。
しかも。
「わぁ……」
ルナが驚く。
掃除された場所が、まるで新品のように輝いていた。
女性技師が震える。
「か、完成してる……私の理想以上に……」
アルマはにこっと笑う。
「これなら安全!」
その瞬間。
周囲から歓声が上がった。
「すげぇ!」
「便利すぎる!」
「うちにも欲しい!!」
「店が楽になるぞ!」
大盛り上がりである。
女性技師は感動で泣いていた。
「ありがとうございますぅぅ……!!」
アルマは照れ笑いする。
「えへへ」
だが。
フィーネだけは気づいていた。
「……アルマ」
「なに?」
「お主、またとんでもないものを生み出したぞ」
「え?」
王都では現在、人手不足が問題になっていた。
そこへ現れた。
自動で働く清掃魔導具。
しかも高性能。
フィーネは頭を抱えた。
「また常識が壊れる……」
その日の夕方。
王都では新たな噂が広がっていた。
『街を勝手に掃除する魔導箒』
『自動清掃革命』
『伝説級職人の少女』
そして当の本人は。
「ねぇフィーネ!」
「なんだ」
「次は洗濯する道具とか作れないかな!」
「やめろ」
即答だった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




