第四十五話 天才錬金術師と空飛ぶお弁当箱
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティア、中央市場。
昼時ということもあり、大通りは多くの人で賑わっていた。
香ばしい匂い。
焼き立てのパン。
果物を並べる商人たち。
そんな中を、アルマたちは歩いていた。
「お腹すいた〜……」
アルマがぐったりと言う。
フィーネが呆れる。
「さっき朝食を食べたばかりだろう」
「でもいっぱい歩いたし……」
ルナもこくりと頷いた。
「ちょっとすいた……」
フィーネはため息を吐く。
「仕方あるまい」
アルマはぱっと顔を明るくした。
「やった!」
その時だった。
「うわぁぁぁぁっ!?」
市場の奥から悲鳴が響く。
続けて。
ドガシャァン!!
何かが盛大に崩れる音。
人々が慌てて道を空ける。
「な、なんだ!?」
「またか!?」
アルマは目を輝かせた。
「事件!」
「嬉しそうに言うな」
三人が向かった先。
そこには大量の木箱と料理が散乱していた。
そして。
空中を飛び回る大量の弁当箱。
「…………」
アルマは数秒沈黙し。
「飛んでる」
真顔で言った。
市場の料理人が頭を抱えている。
「なんでだぁぁぁぁ!!」
弁当箱たちは意思を持ったように飛び回り、パンを奪い、肉を運び、空中でぐるぐる回っていた。
「こらー!!返せぇぇ!!」
料理人が追いかける。
だが捕まらない。
フィーネが呆れ顔になる。
「今度はなんだこれは」
アルマは興味津々で近づく。
「魔導具かな?」
すると一つの弁当箱がアルマの前へ飛んできた。
ぱかっ。
中には綺麗に並べられたサンドイッチ。
「……?」
アルマは首を傾げた。
弁当箱はさらに蓋を開け閉めする。
まるで「食べろ」と言っているようだった。
ルナが小声で言う。
「ごはんくれるのかな……?」
フィーネは嫌な予感しかしなかった。
「アルマ、触るなよ」
「うん!」
即答。
そして触った。
「お主はなぜ毎回そうなのだ!!」
次の瞬間。
ブワァッ!!
大量の弁当箱が一斉にアルマへ集まってきた。
「わぁぁ!?」
市場中を飛び回っていた弁当箱たちが、ぐるぐるとアルマの周囲を旋回する。
人々が騒然となる。
「な、なんだ!?」
「嬢ちゃんに集まったぞ!?」
アルマは目を輝かせていた。
「すごーい!」
フィーネは頭を押さえる。
「嬉しそうにするな……」
その時。
市場の奥から一人の老人が慌てて走ってきた。
白衣姿。
工具だらけの腰袋。
「ま、待ってくれぇぇぇ!!」
老人は息を切らしながら叫ぶ。
「そいつらはワシの新型魔導配達箱なんじゃあ!!」
アルマがきょとんとする。
「配達箱?」
「そうじゃ!自動で料理を運ぶ便利な発明だったんじゃが……!」
老人が崩れ落ちる。
「魔力を入れすぎて意思を持ってしまったぁぁ……」
フィーネが冷静に言う。
「馬鹿では?」
「否定できん……!」
アルマは興味津々だった。
「へぇ〜!」
弁当箱を持ち上げる。
すると。
カタカタ。
箱が嬉しそうに震えた。
「なついてる……?」
ルナがぽつりと呟く。
老人が目を剥く。
「そ、そんな馬鹿な!?」
アルマは箱の内部を見る。
「んー……」
ウィンドウが浮かぶ。
「魔導配達箱 状態:魔力過多による自我形成」
「なるほど!」
フィーネが嫌そうな顔になる。
「理解した顔をするな」
アルマは楽しそうに笑った。
「簡単に言うとね!」
「うむ」
「ご飯届けるの好きすぎて暴走してる!」
市場が静まり返った。
老人が震える。
「そ、そんな理由で……?」
フィーネは遠い目をした。
「あり得るのが恐ろしい」
アルマは弁当箱を撫でる。
「配達したいの?」
カタカタッ!!
勢いよく震えた。
「わぁ、元気」
老人が呆然とする。
「か、会話しとる……」
アルマは少し考え込む。
「じゃあ、ちゃんと運べるようにしよう!」
フィーネが止めようとする。
「待て」
遅かった。
アルマはその場で工具を取り出した。
カチャカチャ。
魔石を調整。
魔力回路を再構築。
周囲の職人たちが目を見開く。
「なっ……!?」
「なんだあの技術……!」
アルマは鼻歌交じりだった。
「ここをこうして〜」
「魔力循環を安定化して〜」
「命令系統整理〜」
数分後。
「できた!」
ぽんっと弁当箱を叩く。
すると。
シュタッ!!
弁当箱たちが綺麗に整列した。
「おおおおっ!?」
市場に歓声が上がる。
さらに。
弁当箱たちは料理を自動で回収し始めた。
落ちたパンを拾い。
皿を運び。
注文された料理を正確に届ける。
料理人たちが騒然とする。
「は、速い!?」
「人より正確だぞ!?」
「便利すぎる!!」
老人は震えながらアルマを見た。
「き、君は一体……」
アルマは笑顔だった。
「旅する錬金術師!」
フィーネが頭を抱える。
「言うなと言っておるだろうが……!」
だがもう遅い。
市場の人々は完全に盛り上がっていた。
「すげぇ!」
「革命だぞこれ!」
「配達人いらなくなるんじゃ!?」
「いや困る!!」
市場は大混乱。
その中心で。
アルマは嬉しそうに弁当箱を撫でていた。
「よしよし」
カタカタ♪
どうやら完全に懐かれたらしい。
ルナが笑う。
「また増えたね」
フィーネは遠い目をした。
「そのうち王都中の妙なものに懐かれそうだ……」
そしてその日の夕方。
王都では新たな噂が流れていた。
『料理を運ぶ魔導弁当箱』
『市場の革命』
『天才職人現る』
もちろん。
その中心人物は。
今日も自分が世界の常識を壊していることに、全く気づいていなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




