第四十四話 空飛ぶ配達箱と迷子の精霊
──天才錬金術師は常識を知らない
温泉街で一夜を過ごした翌朝。
アルマたちは再び王都ソリティアの大通りを歩いていた。
朝日が石畳を照らし、店の準備を始める人々の声が響いている。
ルナは新しく買った服を嬉しそうに眺めていた。
「えへへ……」
アルマも満足そうに笑う。
「似合ってるよ!」
「ほんと?」
「うん!」
フィーネはそんな二人を横目にため息をついた。
「平和なのは良いことだが……お主らは少し目立ちすぎる」
「そうかな?」
「そうだ」
即答だった。
現在、王都では妙な噂が広がっていた。
熱鉱獣を鎮めた少女。
ダンジョン級宝石を大量に持つ冒険者。
薬一つで呪いを解いた錬金術師。
どれも断片的な情報だったが、少しずつ繋がり始めていた。
だが当の本人は。
「わぁ!」
屋台を見つけて走っていく。
「見て見てフィーネ!串焼き!」
「話を聞け」
ルナも後ろからついていく。
「いい匂い……」
屋台の店主が笑った。
「お、嬢ちゃんたち買ってくか?」
アルマは財布を見る。
「うーん……」
フィーネが呆れる。
「さっきまで大金を持っておっただろう」
「素材と本と薬草で消えた!」
「使いすぎだ」
アルマは真顔で言った。
「知識は大事だから」
フィーネは反論できなかった。
その時だった。
「きゃああっ!?」
通りの奥から悲鳴が響く。
人々がざわめいた。
「なんだ!?」
「荷物が!」
空を見ると、大量の木箱が宙を飛んでいた。
アルマが目を輝かせる。
「飛んでる!」
「そこに感動するな」
どうやら配達用の魔導荷車が暴走したらしい。
荷台から箱が次々飛び出し、街中へ散らばっていた。
兵士たちも慌てている。
「止めろ!」
「無理です!制御核が暴走しています!」
ルナが不安そうにアルマを見る。
「危ない……」
だがアルマは。
「面白そう!」
走り出した。
フィーネが頭を押さえる。
「予想通りだ……!」
アルマは飛んでくる木箱を避けながら観察する。
「んー……」
杖を向けた。
するとウィンドウが浮かぶ。
「魔導運搬機 状態:魔力循環暴走」
「なるほど!」
アルマはにこっと笑った。
「直せる!」
兵士が叫ぶ。
「危険です!離れてください!」
だがアルマは構わず飛び上がった。
「えいっ!」
空中の木箱を踏み台にして進んでいく。
周囲が騒然となった。
「と、飛んだ!?」
「なんだあの子!?」
フィーネが呟く。
「身体強化まで無意識で使っておる……」
アルマは暴走する魔導荷車の上へ着地した。
ガコンッ!
「わっ、揺れる!」
荷車は四輪の大型魔導機だった。
内部の魔石が赤く暴走している。
「ここかな?」
アルマは迷いなく分解を開始する。
「魔力流動、逆循環、圧縮解除……」
次の瞬間。
ブォンッ!!
暴走していた魔力が静まった。
荷車がぴたりと止まる。
しん、と静まり返る街。
そして。
「……止まった?」
兵士が呆然と呟いた。
アルマは荷車の上から笑顔で手を振る。
「なおったよー!」
歓声が上がった。
「おおおおっ!!」
「助かった!」
「すげぇ!」
だがアルマは別のものに気づいていた。
「……あれ?」
荷車の奥。
淡い光がふわふわ浮いている。
小さな存在。
羽のような光。
「精霊?」
フィーネが目を細めた。
「ほう……」
光の精霊だった。
だが様子がおかしい。
怯えている。
アルマはそっと近づいた。
「どうしたの?」
精霊はびくっと震える。
兵士たちには見えていないようだった。
フィーネが静かに言う。
「魔導核の中に閉じ込められておったのだろう」
「閉じ込める?」
「精霊の力を利用して動かしていたのだ」
アルマの顔が曇る。
「かわいそう……」
精霊はアルマを見つめていた。
その瞳には警戒と怯えが混ざっている。
アルマは優しく笑った。
「もう大丈夫だよ」
そっと手を差し出す。
すると精霊は恐る恐る近づき。
ちょこん、とアルマの手に乗った。
「わぁ……」
ルナが目を輝かせる。
「きれい……!」
周囲の人々には何も見えていない。
ただアルマたちが空を見ているようにしか見えなかった。
兵士が困惑する。
「えっと……何を?」
フィーネが適当に誤魔化す。
「気にするな」
アルマは精霊へ話しかけた。
「おうち帰れる?」
精霊はくるくる回った後、ふわりと空へ浮かぶ。
だが。
ぴた。
アルマの肩へ戻ってきた。
「……?」
フィーネが笑う。
「懐かれたな」
アルマは嬉しそうだった。
「ほんと?」
精霊はアルマの周囲を楽しそうに飛び回る。
その姿はまるで小さな星のようだった。
その頃。
通りの端では、一人の男がその光景を見ていた。
黒いローブ。
鋭い目。
男は静かに呟く。
「精霊に好かれる錬金術師、か……」
その視線はアルマへ向けられていた。
だがアルマは気づかない。
「ねぇフィーネ!」
「なんだ」
「この子名前いるかな!」
「また増やす気か?」
ルナが笑った。
「ふふっ」
精霊は楽しそうに光を瞬かせる。
王都ソリティア。
その街で今日もまた。
天才錬金術師は、当たり前のように世界の常識を塗り替えていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




