第四十二話 天才錬金術師と王都の温泉騒動
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティア。
昼下がりの大通りを、アルマたちはのんびり歩いていた。
「う〜……」
アルマが伸びをする。
フィーネがちらりと見る。
「なんだ、急に」
「なんか疲れた」
「お主、昨日一晩中発明しておっただろうが」
「だって思いついたんだもん……」
ルナが小さく笑う。
「アルマお姉ちゃん、途中から目がキラキラしてた」
「研究者の目だったな」
「えへへ」
まるで反省していない。
そんな時だった。
ふわり、と風に乗って湯気の匂いが漂ってくる。
アルマの鼻がぴくっと動いた。
「……あ」
フィーネが嫌な予感を覚える。
「今度はなんだ」
「お風呂入りたい!」
「急だな」
ルナも少し嬉しそうに頷く。
「お風呂……!」
フィーネは肩をすくめた。
「まぁよい。ちょうど宿の風呂も狭かったしな」
アルマは辺りを見回す。
すると。
「わぁ!」
視界の先に、大きな建物が見えた。
木造と石造りを合わせた立派な施設。
入口からは湯気が立ち上っている。
「温泉宿“白鷲の湯”」
看板を見たアルマの目が輝いた。
「温泉!!」
フィーネが少し驚く。
「ほう、温泉文化も知っておるのか」
「前の世界にもあったよ!」
「なるほどな」
三人は中へ入った。
途端。
「いらっしゃいませ〜!」
店員が元気よく迎える。
だが、アルマたちを見るなり少し驚いた顔になった。
理由は明白だった。
赤髪の少女。
銀髪の少女。
そして妙に神聖な雰囲気を纏うアルマ。
目立たないわけがない。
「三名様ですね!」
「うん!」
アルマは元気よく頷いた。
しばらくして。
露天風呂。
「わぁぁ〜……」
アルマが湯船に沈みながら蕩けた顔をする。
「きもちぃ〜……」
ルナもほわほわしていた。
「あったかい……」
フィーネは静かに湯へ浸かる。
「ふむ、悪くない」
穏やかな時間。
王都の喧騒が嘘のようだった。
アルマは空を見上げる。
「平和だね〜」
「お主が一番平和を乱しておる気がするが」
「えぇ?」
ルナがくすっと笑った。
その時。
近くの湯船から声が聞こえる。
「はぁ……困ったもんだ」
「また温度が下がってるらしいぞ」
温泉客たちが話していた。
アルマがぴくっと反応する。
「温度?」
フィーネが察する。
「……おい」
アルマは気になって仕方なかった。
じーっ。
話を聞いている。
「最近、源泉の勢いが弱くてなぁ」
「魔力循環炉の調子も悪いらしい」
「このままじゃ閉館するって噂だぞ」
アルマの目が輝いた。
「あ!」
フィーネが即座に止めに入る。
「待て」
「見てくる!」
「待てと言っておる!!」
だが遅かった。
アルマはぱしゃぱしゃ湯船から飛び出していた。
ルナが苦笑する。
「行っちゃった……」
フィーネは頭を押さえた。
「絶対ろくなことにならん」
数分後。
温泉施設の地下。
「ほほぅ……」
アルマは巨大な装置を見上げていた。
温泉の熱と魔力を循環させる装置。
しかし今は魔力の流れが不安定になっている。
施設の管理人が困った顔をしていた。
「最近ずっとこうなんです……」
「ふむふむ」
アルマは装置を覗き込む。
「なるほど」
「わ、わかるんですか!?」
「詰まってるだけだよ?」
管理人が固まる。
「つ、詰まり?」
「うん」
アルマは杖を取り出した。
フィーネが遅れてやってくる。
「お主なぁ……」
「フィーネ見て!詰まってる!」
「そんな元気に言うことか」
アルマは装置に手を触れる。
「んー……ここかな」
淡い光。
次の瞬間。
ゴォォォォォッ!!
装置が激しく光り始めた。
「なっ!?」
管理人が青ざめる。
だが。
ドバァァァァッ!!
大量の温泉が勢いよく噴き出した。
「熱っっ!?」
「うわぁぁ!?」
地下が一瞬で湯気だらけになる。
フィーネが額を押さえた。
「やはりこうなる!!」
アルマは目を輝かせていた。
「成功!」
「成功ではない!!」
しかし。
数秒後。
施設全体に歓声が響いた。
「温泉が戻ったぞ!!」
「湯量が増えてる!!」
「しかも前より温かい!!」
管理人が震えながらアルマを見る。
「こ、こんな一瞬で……」
アルマは首を傾げた。
「だって詰まり取っただけだよ?」
「だけ、で済まんのだ普通は……!」
フィーネが深いため息を吐く。
だが次の瞬間。
ズゴゴゴゴ……!!
「ん?」
地下の奥が揺れた。
管理人が青ざめる。
「ま、まさか!」
アルマが奥を見る。
「なんかいる」
フィーネの目が細くなる。
「……魔物か」
突然、岩壁が砕けた。
現れたのは巨大な岩石のような魔物。
全身から熱気を放っている。
「熱鉱獣だぁぁぁ!?」
管理人が悲鳴を上げた。
どうやら温泉の魔力に引き寄せられていたらしい。
熱鉱獣が咆哮する。
ゴォォォッ!!
地下が揺れる。
ルナがフィーネの後ろへ隠れた。
「お、大きい……」
だが。
アルマだけは。
「わぁ!」
目を輝かせていた。
「新素材!!」
フィーネが頭を抱える。
「……お主、本当に怖いもの知らずだな」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




