第四十一話 天才錬金術師と止まらない発明
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティア。
朝の市場通りは、今日も多くの人々で賑わっていた。
そんな中。
「……なんでこうなった」
フィーネは頭を抱えていた。
その視線の先。
アルマが作った“空飛ぶ配達箱”が、何故か五台に増えていた。
「増えてるぅ!!」
ルナが驚きの声を上げる。
アルマはえへへ、と笑った。
「便利だったから量産してみた!」
「量産するな!」
フィーネの即ツッコミが飛ぶ。
空飛ぶ箱たちは、ふよふよとアルマの周囲を漂っている。
しかも一台一台、微妙に形が違った。
丸いもの。
細長いもの。
妙に羽が大きいもの。
そして一台だけ、やたらキラキラしていた。
「なんだその無駄に豪華なやつは」
「特別仕様!」
「何が特別なのだ」
「速い!」
「嫌な予感しかしない」
ルナは箱の一つをつつく。
「かわいい……」
すると箱がぴこんっと反応した。
『ルナ!』
「わぁ!?」
箱が喋った。
市場の空気が凍る。
「しゃ、喋ったぞ!?」
「魔道具が会話した!?」
アルマは胸を張った。
「音声認識機能付きです!」
フィーネは遠い目をした。
「お主、そのうち本当に世界を変えるぞ」
「?」
アルマは意味がわかっていなかった。
その時。
一人の商人が駆け寄ってくる。
「お嬢ちゃん!!」
「あ、昨日の人」
以前、荷車暴走事件で助けた商会の男だった。
男は興奮した顔で空飛ぶ箱を見る。
「その魔道具……!!ぜひ我が商会に!!」
「まただ」
フィーネが呟く。
商人は勢いよく頭を下げた。
「金なら払う!!」
アルマは首を傾げる。
「えっと……」
「待て」
フィーネが割って入る。
「売る気か?」
アルマは少し考えた。
「うーん……」
そして。
「いっぱいの人が便利になるならいいよ?」
フィーネが顔を覆った。
「善意で世界を変えようとするな……!」
ルナはきょとんとしていた。
「だめなの?」
「良すぎるのだ。問題はそこだ」
商人は感激していた。
「なんと慈悲深い……!」
「いや違う」
フィーネが即否定する。
「この娘は深く考えておらんだけだ」
「失礼だなぁ」
アルマが頬を膨らませる。
そんなやり取りをしている間にも、周囲には人だかりができていた。
「すげぇ……」
「本当に浮いてる」
「王都の魔道具技師でも作れんぞ」
ざわざわと噂が広がっていく。
すると。
『オナカスイタ』
「ん?」
喋る箱が突然震え始めた。
アルマが首を傾げる。
「どうしたの?」
『マリョクホキュウ』
「あ」
フィーネが察した。
「……お主、魔力炉積んだのか」
「うん!」
「うん、ではない!」
空飛ぶ箱たちが一斉にアルマへ寄ってくる。
まるで雛鳥だった。
ルナが笑う。
「懐いてる」
「懐くなそんな危険物」
アルマは箱を撫でる。
すると箱たちが嬉しそうに光った。
市場の人々は完全に呆然としていた。
「魔道具が感情持ってないか……?」
「いやいやいや」
「ありえねぇ……」
その時だった。
「きゃっ!?」
悲鳴。
見ると、小さな子供が噴水へ落ちかけていた。
母親の顔が青ざめる。
「だ、誰か!!」
だが次の瞬間。
ビュン!!
キラキラした箱が高速で飛び出した。
子供の服をひょいっと掴み、そのまま安全な場所へ。
「え?」
周囲が固まる。
子供はぽかんとしていた。
箱は得意げに空中を一回転する。
『エッヘン』
「ドヤ顔するな魔道具」
フィーネが呟いた。
母親が泣きながら頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!!」
アルマは笑顔で手を振る。
「よかった〜!」
商人は震えていた。
「こ、これは革命だ……」
「物流、救助、輸送……全部変わるぞ……!」
フィーネがため息をつく。
「だから言ったのだ……」
アルマは全く気にしていなかった。
「ねぇねぇ、今度は料理運べるようにしようかな!」
「待て」
「あとお掃除機能!」
「待て」
「おしゃべり機能増やして」
「だから待てぇぇぇ!!」
市場にフィーネの叫びが響いた。
その頃。
ソリティア城。
「……人格を持つ魔道具?」
レオニス王は報告書を見ながら沈黙していた。
側近が冷や汗を流す。
「は、はい……」
「しかも人命救助まで?」
「事実です」
王はしばらく黙る。
そして。
ふっ、と笑った。
「なるほど」
「陛下?」
「常識を知らぬ天才、か」
窓の外を見る。
王都の空。
そのどこかを、空飛ぶ箱が飛んでいた。
「……ますます目が離せんな」
一方その頃。
アルマは新たな設計図を書いていた。
「次は何を作ろうかな〜」
フィーネが真顔で言う。
「頼むから世界をひっくり返さない程度にしてくれ」
アルマはにこっと笑った。
「がんばる!」
まったく信用できなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




