第四十話 天才錬金術師と空飛ぶ配達箱
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティア、朝。
宿の窓から差し込む陽光の中、アルマは机に突っ伏していた。
「むぅ……」
フィーネが呆れたように紅茶を口にする。
「どうした、朝から唸って」
アルマは顔だけ上げた。
「移動がめんどくさい」
「……は?」
ルナが首を傾げる。
「お買い物?」
「うん〜……」
アルマは机の上に広げた紙を見る。
そこには大量の素材名が並んでいた。
薬草、魔石、保存液、魔力結晶、乾燥花、鉄鉱石。
「王都広いんだもん……」
フィーネはため息をついた。
「それは都会だからな」
「昨日なんて、東通り行ったあと西通りまで歩いたんだよ!?遠かった!」
「普通だ」
「普通じゃないよ〜」
ごろん、と転がる。
ルナが苦笑する。
「アルマお姉ちゃん、体力ない?」
「研究者だったから!」
「威張ることではない」
フィーネが即答した。
アルマはむくっと起き上がる。
「というわけで!」
嫌な予感しかしなかった。
フィーネが目を細める。
「……何を考えておる」
アルマはにやっと笑った。
「移動しなくていいようにすればいいんだよ!」
「ほう」
「つまり!」
杖を掲げる。
「配達してくれる道具を作る!」
フィーネが頭を抱えた。
「また始まった……」
数時間後。
宿の裏庭。
アルマは大量の木材や金属片を並べていた。
ルナが興味津々で覗き込む。
「これ、何になるの?」
「空飛ぶ箱!」
「空飛ぶ……箱?」
フィーネは嫌な予感しかしなかった。
アルマは拾ってきた素材をどんどん組み合わせていく。
「ここを軽量化して〜」
「浮遊魔法を組み込んで〜」
「自動追尾をつけて〜」
ぶつぶつ呟きながら、猛烈な速度で作業していく。
ルナがぽかんとする。
「すごい……」
フィーネは遠い目をしていた。
「錬金術というより、もはや災害だな」
やがて。
ガシャン!
「できた!!」
完成したのは、木製の大きな箱だった。
羽のような部品が左右についている。
ルナが目を輝かせる。
「かわいい!」
「でしょ!」
フィーネは警戒していた。
「……ちなみに、どう動く」
「見てて!」
アルマは箱を地面に置いた。
「起動!」
ぶわっ!!
突然、箱が浮き上がった。
「おぉ……」
ルナが感動する。
箱はふわふわと空中を漂い始めた。
アルマは満足げに頷く。
「成功!」
だが次の瞬間。
ゴォォォォッ!!
「!?」
箱が爆速で飛び出した。
「待っ!?」
宿の壁に激突。
バゴォン!!
壁が半壊した。
沈黙。
宿屋の主人がゆっくり振り向く。
「…………」
アルマが冷や汗を流す。
「えへ」
「えへ、じゃない!!」
フィーネのツッコミが飛んだ。
数十分後。
弁償を終えたアルマは再挑戦していた。
「今度は速度制御を……」
フィーネは呆れながらも感心していた。
「失敗しても即座に改善するの、本当に天才なのだよな……」
ルナは壊れた壁を見ながら呟く。
「でも被害もすごい」
「それも含めて規格外だ」
アルマは再び杖を向ける。
「よし、もう一回!」
今度は箱がゆっくり浮いた。
ふよふよと安定している。
「おぉ〜!」
アルマが拍手する。
箱はアルマの周囲をくるくる飛び回った。
「成功だ!」
フィーネが確認する。
「で、それで何をするのだ」
アルマは胸を張った。
「荷物運び!」
「ほう」
「あと、おつかい!」
「おつかい」
「あと、お菓子持ってきてもらう!」
「最後が本音だな?」
ルナがくすっと笑う。
その時だった。
「な、なんだありゃ!?」
通行人の声。
いつの間にか裏庭の外に人だかりができていた。
「箱が飛んでるぞ!?」
「魔道具か!?」
「いや、あんな技術見たことねぇ!」
アルマは首を傾げる。
「え?」
フィーネが頭を押さえた。
「だから目立つなと言っておるだろうが……!」
だがもう遅い。
箱は人々の頭上をふよふよ飛び始めていた。
子供たちが歓声を上げる。
「すげー!!」
「飛んでるー!!」
アルマは嬉しそうだった。
「人気だ!」
「お主が騒ぎを起こしてるだけだ!」
すると。
「お、おい!」
突然、誰かが叫んだ。
見ると、突風で老婆の荷物が宙に舞っていた。
果物が転がる。
「ひぃっ!」
だがその瞬間。
空飛ぶ箱が猛スピードで動いた。
ひとつひとつ果物をキャッチしていく。
「おぉ!?」
最後に荷物を拾い上げ、老婆の前へ。
ふわり、と静かに置いた。
老婆は目を丸くする。
「た、助かったよ……」
アルマが笑う。
「えへへ!」
周囲がどよめいた。
「便利じゃねぇか……」
「なんだあれ」
「配達にも使えるぞ」
フィーネが嫌な予感を覚える。
案の定。
「ぜひ商品化を!!」
商人が飛び込んできた。
「うちの商会に!!」
「いやうちだ!!」
「待て、その技術は国家級だぞ!?」
アルマがきょとんとする。
「え?」
フィーネは静かに言った。
「……だから、お主は加減を覚えろ」
ルナが苦笑する。
「また大騒ぎだね」
空飛ぶ箱は、のんきに空中を漂っていた。
そしてその頃。
ソリティア城。
レオニス=ヴァルディオス・ソリティアは報告書を読みながら沈黙していた。
「……今度は空飛ぶ配達箱?」
側近が恐る恐る頷く。
「はっ……」
王はしばらく黙ったあと。
ふっと笑った。
「やはり面白いな、あの娘は」
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次回もお楽しみに




