第三十九話 暴走魔道具と天才錬金術師
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティア、大通り。
「誰か治癒師を呼べ!!」
「魔道具が暴走してるぞ!!」
騒ぎの中心では、人々が慌ただしく走り回っていた。
アルマの目が輝く。
「魔道具!」
フィーネは頭を抱えた。
「お主、絶対そこに食いつくと思ったぞ……」
ルナが小さく裾を引っ張る。
「アルマお姉ちゃん、危なくない?」
「大丈夫だよ!」
何の根拠もない笑顔だった。
三人が人混みをかき分けると、そこには巨大な荷車が止まっていた。
その中央には、青白く光る球体。
周囲に火花を撒き散らしながら激しく明滅している。
「うわぁ……」
アルマは興味津々だった。
だが周囲の人々は青ざめている。
「近づくな!!」
商人らしき男が叫んだ。
「爆発するぞ!!」
その瞬間。
バチィッ!!
雷のような火花が飛び散る。
悲鳴が上がった。
ルナがびくっと震える。
フィーネはすぐ前へ出た。
「ルナ、下がっておれ」
「う、うん……!」
アルマはじっと球体を見ていた。
「……あれ?」
「どうした」
「なんか、絡まってる」
フィーネが眉をひそめる。
「絡まっている?」
アルマは頷く。
「魔力の流れがぐちゃぐちゃ」
その時、ローブ姿の老人が駆け寄ってきた。
「離れなさい!!」
白髭の老人。
胸元には魔道具技師の紋章。
「もう限界じゃ!制御核が暴走しておる!!」
周囲がざわめく。
「魔道具技師様だ!」
「でも止められないのか!?」
老人は苦々しく顔を歪めた。
「無理じゃ……!これは王都級輸送魔道具……制御が複雑すぎる!」
アルマは首を傾げる。
「そんなに?」
老人が目を剥いた。
「そんなに、じゃと!?」
バチバチと火花が散る。
荷車が軋み始めた。
「まずいぞ!!」
「逃げろ!!」
人々が一斉に離れる。
だが荷車の近くには、転んだ子供がいた。
「う、うぅ……」
母親が青ざめる。
「だ、誰か!!」
魔道具が激しく発光した。
フィーネが動こうとする。
だが、その前に。
「よいしょ」
アルマが普通に近づいていた。
「「「は?」」」
周囲が凍りつく。
老人が絶叫した。
「嬢ちゃん!!死ぬぞ!!」
アルマは暴走する球体をじーっと見つめる。
「うーん……」
火花が頬を掠める。
普通なら感電していてもおかしくない。
だがアルマは平然としていた。
「やっぱり」
杖を軽く向ける。
「ここだ」
次の瞬間。
アルマの指先から淡い光が広がった。
暴走していた球体の内部。
複雑に絡み合っていた魔力回路が、少しずつ解けていく。
老人が目を見開く。
「なっ……!?」
アルマは独り言のように呟く。
「魔力循環が逆流してる……それで制御核が圧迫されて……」
フィーネが遠い目をする。
「また始まったな」
ルナが苦笑する。
「アルマお姉ちゃん、楽しそう」
実際、とても楽しそうだった。
アルマはさらに解析を進める。
「ここをこうして……こっちを分離して……」
ぱちん。
軽く指を鳴らした。
すると。
ブォンッ……
暴走していた光が、一瞬で静かになった。
火花も止まる。
荷車は沈黙した。
静寂。
誰も動かなかった。
アルマは首を傾げる。
「終わったよ?」
数秒後。
「……は?」
老人が間抜けな声を漏らした。
アルマは転んでいた子供を抱き上げる。
「大丈夫?」
「う、うん……」
母親が泣きながら駆け寄った。
「あ、ありがとうございます!!」
アルマはにこっと笑う。
「怪我なくてよかった!」
だが周囲の視線は、完全に別の方向へ向いていた。
「止めた……?」
「王都級魔道具の暴走を?」
「一瞬で?」
老人が震える足で近づく。
「お、お嬢ちゃん……今、何をした」
「え?」
「その技術じゃ!!」
老人の目は職人のそれだった。
純粋な驚愕。
アルマは少し考える。
「絡まってたから、ほどいた?」
老人が固まる。
「……ほどいた?」
「うん」
「…………」
老人は空を仰いだ。
「簡単に言うなぁぁぁ!!」
周囲がざわめく。
「魔道具技師様でも止められなかったんだぞ!?」
「なんなんだあの子……」
フィーネがぼそっと呟く。
「我も知りたい」
老人はアルマの手を掴んだ。
「頼む!!弟子にならんか!?」
「え?」
「その技術は歴史に残る!!」
アルマは困惑する。
「えぇ?」
フィーネが即座に割って入った。
「断る」
「ぬぅ!?」
老人が悔しそうな顔をする。
「なぜじゃ!!」
「この娘は自由人だ。弟子など無理だ」
アルマはこくこく頷いた。
「旅したい!」
「うぐっ……!」
老人は本気でショックを受けていた。
「こんな逸材がぁ……」
ルナが小さく笑う。
「アルマお姉ちゃん、またすごいことしたね」
「そうかな?」
「そうだ」
フィーネの即答。
その時。
老人が真剣な顔になる。
「嬢ちゃん」
「?」
「その技術……絶対に軽々しく見せるでないぞ」
空気が少し変わった。
「お主ほどの存在は、国が奪い合う」
アルマはきょとんとする。
「でも困ってたし」
老人は言葉に詰まった。
アルマには悪意がない。
ただ助けただけ。
だからこそ危うい。
フィーネが静かに言う。
「だから我がおる」
老人はフィーネを見た。
赤髪。
只者ではない圧。
そしてどこか神聖な気配。
「……お主、一体何者じゃ」
フィーネはふっと笑った。
「ただの旅人だ」
絶対違う。
老人はそう思った。
だが深くは聞かなかった。
聞いてはいけない気がしたのだ。
その後。
荷車の持ち主である商会から大量の謝礼を渡され。
アルマはまた困惑していた。
「なんか最近いっぱいお金もらう」
「お主が規格外だからだ」
フィーネは疲れた顔をしていた。
ルナはそんな二人を見て笑う。
王都の空は今日も晴れていた。
そしてその裏で。
「……暴走魔道具を一瞬で?」
「またあの少女か……」
アルマの噂は、さらに王都中へ広がっていくのだった。
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次回もお楽しみに




