第三十八話 革命的やわらか肉
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティア。
市場通りの一角。
「頼む!!うちの店を助けてくれ!!」
料理人の男は勢いよく頭を下げていた。
アルマはぱちぱちと瞬きをする。
「お店?」
「あぁ!王都で食堂をやってるんだが、新しく仕入れた魔獣肉がどうしても硬くてな……!」
「魔獣肉?」
アルマの目がきらりと光る。
フィーネが嫌そうな顔をした。
「おいアルマ、興味を持つな」
「えぇ〜?」
料理人はさらに続ける。
「味はいいんだ!だが硬すぎて普通の客じゃ噛み切れねぇ!」
ルナが首を傾げた。
「煮込んでもだめなの?」
「あぁ……何時間煮ても石みたいなんだ」
アルマは少し考える。
「それ、構造が変なんじゃないかな」
「こうぞう?」
「うん!」
フィーネが額を押さえた。
「嫌な予感しかしない」
アルマは料理人に向き直る。
「見に行っていい?」
「もちろんだ!!」
こうして三人は市場通りを抜け、食堂へ向かうことになった。
道中。
フィーネが小声で言う。
「アルマ、お主、普通に柔らかくするだけにしておけよ」
「?」
「革命を起こすな」
「そんなことしないよ〜」
ルナが苦笑した。
「フィーネお姉ちゃん、毎回それ言ってる」
「毎回現実になるから言っておるのだ」
しばらく歩き。
到着したのは、大通りから少し外れた食堂だった。
木造の温かい雰囲気の店。
看板には『鉄鍋亭』と書かれている。
店の中には数人の客がいた。
料理人が叫ぶ。
「おーい!連れてきたぞ!!」
奥から別の店員が顔を出した。
「ほんとか!?薬草を治した子か!?」
「うん?」
また変な噂になっている。
フィーネは遠い目をした。
「もう隠す気ないだろこの国」
料理人は厨房から巨大な肉塊を持ってきた。
「これだ」
どんっ。
机が揺れる。
ルナが目を丸くした。
「大きい……」
アルマは興味津々で近づく。
「わぁ〜!」
肉は黒っぽく、筋肉が異常に硬そうだった。
アルマは触れてみる。
「……あ、ほんとだ」
「だろ?」
「これ、魔力が凝縮しすぎてる」
料理人は固まった。
「ま、魔力?」
「うん。筋繊維がぎゅーってなってる」
フィーネがため息を吐く。
「普通そこまで分からんのだがな……」
アルマは杖を取り出した。
「ちょっとやってみるね」
料理人たちが息を呑む。
アルマは肉をじっと見つめる。
「筋繊維、緩和……魔力循環、再構築……」
淡い光が広がる。
肉が微かに震えた。
そして。
ぷるん。
「……へ?」
料理人の目が点になる。
さっきまで石みたいだった肉が、明らかに柔らかそうになっていた。
アルマは満足げに頷く。
「できた!」
沈黙。
料理人が恐る恐る指で押す。
「や、柔らけぇぇぇぇ!?」
厨房が大騒ぎになる。
「なんだこれ!?」
「さっきまで包丁も通らなかったぞ!?」
アルマは不思議そうだった。
「え?だって硬かったから」
「だって、でどうにかなる問題じゃねぇ!!」
フィーネのツッコミが飛ぶ。
料理人は震える手で肉を切る。
すぱっ。
「切れたぁぁぁ!?」
厨房から歓声が上がった。
「奇跡だ!!」
「神官様か!?」
「いや錬金術師だろこれ!!」
フィーネがぎくっとする。
「しーっ!!」
アルマは首を傾げた。
「錬金術ってそんなに珍しいの?」
料理人たちが固まる。
「……え?」
「え?」
空気が止まった。
フィーネが慌てて話題を変える。
「そ、それより!早く焼いてみぬか!」
「あ、あぁ!!」
料理人は慌てて調理を始めた。
肉が鉄板に乗せられる。
じゅうううううっ!!
香ばしい匂いが広がった。
アルマの目が輝く。
「わぁ〜!!」
ルナのお腹が鳴る。
「……あ」
フィーネが笑った。
「ははっ、お主も腹が減っていたか」
しばらくして。
料理が完成した。
厚切り肉のステーキ。
料理人が緊張した顔で切り分ける。
「た、食べてみてくれ」
アルマは一口。
「……!」
目を見開く。
「おいしい!!」
ルナもぱくり。
「ほんとだ……すごく柔らかい……」
フィーネも頷いた。
「これは驚いたな」
料理人たちが固唾を呑む。
アルマは夢中で食べていた。
「これすごい!」
料理人の顔がぱっと明るくなる。
「や、やった……!」
別の店員が叫ぶ。
「店長!!これなら店の名物になりますよ!!」
「王都一狙えます!!」
店長は震えていた。
「夢じゃねぇよな……?」
アルマはきょとんとする。
「そんなに?」
料理人は勢いよく頭を下げた。
「ありがとう!!本当に助かった!!」
アルマは照れくさそうに笑う。
「えへへ」
フィーネは腕を組みながら呟く。
「また常識を壊したな」
「えぇ〜?」
すると店長が何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ!!報酬だ!!」
大きな袋を持ってくる。
中には大量の硬貨。
アルマはびっくりした。
「え!?こんなに!?」
「店の未来を救ってくれたんだ!安いくらいだ!」
アルマは困惑する。
「でも、ちょっと柔らかくしただけだよ?」
「その“ちょっと”ができねぇんだよ!!」
店中がうんうん頷いていた。
フィーネが小さく笑う。
「受け取っておけ。お主の技術に対する正当な価値だ」
アルマは少し考えてから頷いた。
「……じゃあ、ありがたく!」
店長は満面の笑みを浮かべた。
「また来てくれ!!」
「うん!」
食堂を出たあと。
アルマは袋を抱えながら歩いていた。
「なんかいっぱいお金もらっちゃった」
ルナが嬉しそうに言う。
「これで美味しいものいっぱい食べれるね」
「うん!」
フィーネはため息を吐く。
「しかし、本当にどこへ行っても騒ぎを起こすな、お主は」
アルマは首を傾げる。
「そうかな?」
「そうだ」
即答だった。
その時。
大通りの向こうから、またざわめきが聞こえてきた。
「誰か治癒師を呼べ!!」
「魔道具が暴走してるぞ!!」
アルマの耳がぴくっと動く。
フィーネが嫌な予感を覚えた。
「……アルマ」
「ん?」
「まさかとは思うが」
アルマはきらきらした目で振り返った。
「行ってみよう!」
フィーネは天を仰いだ。
「やはりこうなるか……」
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