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天才錬金術師は常識を知らない〜神に選ばれた少女は、世界の価値を再定義する〜  作者: れんP
共和国編

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第三十四話 暴虐巨獣ベルグラド②


──天才錬金術師は常識を知らない


「来るぞ!!」


フィーネの叫びと同時。


ベルグラドの巨大な腕が振り下ろされた。


轟音。


大地が砕け、土砂が爆発する。


アルマは咄嗟に杖を前へ出した。


「えっと……!」


無意識に魔力を流す。


次の瞬間、透明な壁が展開された。


ドゴォォォンッ!!


衝撃波が周囲へ吹き荒れる。


草原が抉れ、地面が割れる。


ルナが目を見開いた。


「ふ、防いだ……!?」


アルマ自身も驚いていた。


「わっ、できた」


フィーネが額を押さえる。


「……本当に規格外だな」


普通なら結界魔法の習得には長い年月が必要だ。


だがアルマは、今初めて使った。


しかもベルグラドの一撃を真正面から受け止めている。


だが。


結界にはひびが入り始めていた。


「長くは持たぬ!」


フィーネが炎を纏う。


「アルマ!どうする!」


アルマはベルグラドを見上げる。


黒い靄。


脈打つ呪い。


苦しそうな咆哮。


その全てが、ひとつの答えを示していた。


「……壊すんじゃない」


アルマが静かに呟く。


「分解する」


フィーネの目が細くなる。


「できるのか?」


「わかんない」


アルマは正直に答えた。


「でも、やってみる」


その目は真っ直ぐだった。


研究者だった頃。


未知の現象を前にした時と同じ目。


恐れより先に、知りたいという感情が来る。


アルマは一歩前へ出た。


「アルマ!」


ルナが不安そうに呼ぶ。


アルマは振り返って笑った。


「大丈夫」


その言葉に根拠はない。


けれど、不思議と安心できる声だった。


ベルグラドが再び咆哮する。


黒い魔力が周囲へ溢れ出す。


アルマは杖を構えた。


そして、目を閉じる。


「構造解析」


空気が変わる。


アルマの視界の中で、世界が分解されていく。


物質。


魔力。


呪い。


構造。


繋がり。


全てが情報となって流れ込む。


フィーネが目を見開いた。


「……なんだ、この力は」


ベルグラドの内部。


そこに、異物があった。


巨大な呪いの核。


そして、その中心に。


小さな光。


「……いる」


アルマが呟く。


「中に、生き物がいる」


「なに?」


フィーネが驚く。


アルマには見えていた。


呪いに飲み込まれた、小さな存在。


それがベルグラドを暴走させている。


「助ける」


アルマは杖を握り締めた。


「錬金術式、展開」


足元に巨大な光陣が広がる。


草原全体を覆うほどの規模。


ルナが呆然と見上げる。


「きれい……」


フィーネですら息を呑んだ。


古代神代級。


そう呼ばれる規模の術式だった。


アルマは静かに言葉を紡ぐ。


「分解対象指定」


光がベルグラドを包む。


巨獣が苦しげに咆哮した。


「グォォォォォォッ!!」


黒い靄が暴れ狂う。


だがアルマは止まらない。


「対象……呪術構成」


黒い紋様が浮かび上がる。


ベルグラドの体表を覆う呪い。


それが、少しずつ剥がれ始めた。


フィーネが目を見開く。


「呪いだけを分解しているのか!?」


普通なら不可能。


呪いごと対象を破壊するしかない。


だがアルマは違った。


必要なものと不要なものを分けている。


まるで精密な外科手術だった。


ベルグラドが暴れる。


大地が砕ける。


だが光陣が巨体を抑え込む。


アルマの髪がふわりと浮いた。


膨大な魔力が周囲へ流れている。


「アルマお姉ちゃん……!」


ルナが心配そうに見つめる。


アルマは汗を流しながらも集中していた。


「あと……少し」


黒い靄が剥がれる。


剥がれる。


剥がれる。


そして。


巨獣の胸部から、巨大な黒い塊が現れた。


脈打つ呪核。


それは生き物のように蠢いていた。


フィーネが低く呟く。


「……あれが源か」


呪核が叫ぶように魔力を放つ。


黒い触手がアルマへ襲いかかった。


だが。


ボォォォッ!!


フィーネの炎がそれを焼き払う。


「アルマ!集中しろ!」


「うん!」


アルマは杖を突き出した。


「分解!!」


眩い光。


次の瞬間。


呪核が砕け散った。


黒い粒子となって空へ消えていく。


ベルグラドが大きく揺れる。


巨体が崩れ落ちそうになる。


「まずい!」


フィーネが叫ぶ。


だがアルマは首を振った。


「まだ!」


アルマの目には見えていた。


呪核の奥。


小さな命。


それは呪いに包まれ、苦しそうに震えていた。


アルマは手を伸ばす。


「大丈夫」


優しい声。


「もう終わりだよ」


錬金術式が変化する。


今度は破壊ではない。


浄化。


分解した呪いを、さらに無害化していく。


黒い靄が白い光へ変わった。


暖かな光。


優しい光。


ベルグラドの咆哮が、少しずつ静かになっていく。


そして。


巨体の中心から、小さな影が落ちてきた。


アルマは咄嗟に駆け出す。


「わっ!」


両腕で受け止める。


軽い。


そこにいたのは、小さな生き物だった。


真っ白な毛並み。


長い耳。


しかし額には黒い紋様の跡が残っている。


小さな獣は弱々しく目を開けた。


「……キュゥ」


アルマが目を丸くする。


「生きてる!」


フィーネが近づいてくる。


そして静かに目を細めた。


「……なるほど」


「知ってるの?」


アルマが聞く。


フィーネは頷いた。


「古代霊獣だ」


「れいじゅう?」


「あぁ。本来は極めて温厚な存在。自然の魔力を浄化する役目を持つ」


ルナが小さく息を呑む。


「じゃあ、この子が……」


「呪いの核に利用されていたのだろう」


フィーネは険しい顔をした。


「誰かが、意図的にな」


アルマは腕の中の小さな霊獣を見る。


その身体には、まだ呪いの痕跡が残っていた。


ベルグラドの巨体はゆっくりと崩れ、光になって消えていく。


暴虐巨獣。


その正体は、呪いに歪められた存在だった。


アルマは霊獣を優しく抱きしめる。


「もう大丈夫」


小さな霊獣は、安心したように目を閉じた。


だが。


フィーネの表情は険しいままだった。


「……嫌な予感がする」


風が吹く。


黒い呪いの残滓が、遠くへ流れていった。


まるで──誰かの元へ帰るように。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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