第二十四話 静かな夕暮れと小さな一歩
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティアの夕暮れ。
空は茜色に染まり、街の喧騒も少しずつ落ち着きを見せ始めていた。
三人は宿へと戻る道を、ゆっくりと歩いている。
「なんか、今日はいっぱい見たね〜」
アルマが伸びをしながら言う。
「うむ。無駄な寄り道も多かったがな」
フィーネの言葉は相変わらず辛口だった。
「えー?全部必要だったよ?」
「どこがだ」
即座の返し。
ルナがくすくすと笑う。
「でも、楽しかった」
その一言に、アルマはにこっと笑った。
「でしょ!」
袋の中には、新しく買った服や食料。
どれも日常に必要なものばかりだ。
だが、それ以上に──
三人で選んだという事実が、どこか特別だった。
宿へと戻ると、食堂にはまだ人が残っていた。
旅人たちが談笑し、温かな灯りが空間を満たしている。
「ただいまー」
アルマが軽く声をかける。
店主がちらりと見て、軽く手を上げた。
「おう、帰ったか」
三人は席に着く。
「今日のご飯、どうしよっか」
アルマが袋を覗き込む。
「買ってきたやつ食べる?」
フィーネが言う。
「それもいいが、せっかくなら試してみるか?」
「なにを?」
「調理だ」
アルマが固まる。
「……やるの?」
「お主がやると言ったのだろう」
にやりとした気配。
ルナが少し不安そうに見つめる。
「だ、大丈夫?」
アルマは一瞬だけ悩んでから、拳を握った。
「……やる!」
勢いだけはある。
宿の主人に頼み、簡単な調理スペースを借りることになった。
「火は気をつけろよ」
「はーい!」
軽い返事。
フィーネが小さく呟く。
「不安しかないな」
アルマは食材を並べる。
パン、野菜、肉。
「えっと……とりあえず切ればいいんだよね?」
包丁を手に取る。
「指を切るなよ」
フィーネの冷静な忠告。
「だ、大丈夫!」
ぎこちない手つきで、野菜を切る。
少し形はバラバラだが、一応切れている。
「おぉ……」
ルナが感心する。
「できてる」
「でしょ!」
少し得意げ。
その後も、なんとか調理を進めていく。
火を使い、鍋で煮る。
途中で少し焦げそうになるが、フィーネの指示でなんとか持ち直す。
そして──
「できた!」
簡単なスープと、焼いた肉。
見た目はそこそこ。
香りも悪くない。
三人は席に戻る。
「いただきます」
アルマが一口食べる。
「……」
無言。
フィーネも一口。
ルナも続く。
「……どう?」
アルマが不安そうに聞く。
フィーネは少し考えてから言った。
「……食える」
「それ褒めてる?」
「最低限は満たしている」
ルナは小さく笑う。
「おいしいよ」
その言葉に、アルマはほっとしたように笑った。
「よかった〜!」
食事を終え、三人は部屋へ戻る。
窓の外には、夜の街。
灯りがぽつぽつと輝いている。
「今日はいっぱい動いたね」
アルマがベッドに座りながら言う。
「うむ。しばらくは落ち着いても良いだろう」
フィーネが窓際で外を見ながら答える。
ルナは新しい服を抱えながら、ベッドに座っていた。
「ねぇ」
「なに?」
「明日はなにするの?」
その問いに、アルマは少し考える。
「うーん……」
そして、ぱっと顔を上げた。
「そうだ!」
「なんだ」
「冒険者っぽいこと、してみない?」
フィーネが目を細める。
「具体的には?」
「依頼とか!」
アルマは楽しそうに言う。
「せっかくカードもあるし!」
ルナが目を輝かせる。
「やってみたい」
フィーネは腕を組み、少し考えた。
「……悪くはない」
そして頷く。
「経験にもなる」
アルマはにこっと笑った。
「じゃあ決まり!」
窓の外の夜景を見ながら、軽く伸びをする。
「明日は冒険者組合に行こう!」
ルナも小さく頷く。
「うん!」
フィーネも静かに言う。
「朝一で向かうとしよう」
こうして。
穏やかな日常の中で、新たな一歩が決まる。
──翌日。
三人は、依頼を受けるために冒険者組合へと向かうのだった。
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