第二十三話 小さな日常と大きな好奇心
──天才錬金術師は常識を知らない
王都ソリティアの一角。
三人は賑やかな通りから少し外れた、落ち着いた商店街を歩いていた。
「ここ、なんかいいね」
アルマが周囲を見回す。
大通りほどの派手さはないが、どの店も丁寧に作られていて、どこか温かみがある。
「人も少なくて、見やすい」
ルナが小さく頷く。
「うむ。こういう場所のほうが、余計な目も少ない」
フィーネの言葉は現実的だった。
三人の目的は明確だった。
生活用品の補充。
そして──ルナの服。
「ねぇルナ、どんなのがいい?」
アルマが楽しそうに聞く。
「えっと……」
ルナは少し困ったように視線を泳がせる。
「わからない……」
素直な答えだった。
それも当然だ。
記憶を失った彼女にとって、“好み”というものはまだ曖昧なものなのだから。
「そっか」
アルマは少し考えてから、にこっと笑った。
「じゃあ、いっぱい見て決めよ!」
「うん……!」
ルナも少しだけ嬉しそうに頷く。
二人はそのまま服屋へと入っていった。
店内には、色とりどりの服が並んでいる。
シンプルなものから装飾の多いものまで、様々だ。
「わぁ……」
ルナが思わず声を漏らす。
「いっぱいあるね!」
アルマも目を輝かせる。
フィーネは入り口近くで腕を組み、静かに周囲を警戒している。
「これとかどう?」
アルマが一着取り出す。
淡い青色のワンピース。
「……きれい」
ルナが小さく呟く。
「着てみる?」
「え、いいの?」
「いいに決まってるでしょ!」
アルマは当然のように言う。
そのまま店主に声をかけ、試着室へと案内される。
しばらくして──
「どう……?」
カーテンが少し開く。
そこには、青いワンピースを着たルナの姿。
まだ少しぎこちないが、よく似合っていた。
「かわいい!」
アルマが即答する。
ルナは少し照れて視線を逸らす。
「……ほんと?」
「うん!」
アルマは大きく頷く。
フィーネも一瞥して言う。
「悪くない」
短いが、肯定の言葉だった。
ルナは少しだけ安心したように微笑む。
「じゃあ、これにする」
「決まり!」
アルマは嬉しそうに笑った。
そのまま何着か選び、会計を済ませる。
「ありがとうございました」
店を出ると、ルナは新しい服を抱えていた。
「なんか……あったかい」
ぽつりと呟く。
「ん?」
アルマが振り返る。
「……わからないけど、なんか……いい感じ」
アルマは少しだけ優しく笑った。
「それ、たぶん“好き”ってやつだよ」
ルナは目をぱちぱちさせる。
「好き……」
その言葉を、ゆっくりと噛みしめる。
フィーネはその様子を見て、何も言わなかった。
ただ静かに、歩き出す。
「次は食料だな」
「はーい」
アルマが元気よく返事をする。
市場へ向かう。
そこはまた違う活気に満ちていた。
野菜、肉、果物。
様々な食材が並び、商人たちの声が飛び交う。
「これ全部食べられるの?」
ルナが興味深そうに見つめる。
「うん、たぶん」
アルマもよくわかっていない様子で答える。
フィーネが補足する。
「調理が必要なものも多いがな」
「調理……」
ルナが呟く。
アルマは胸を張る。
「任せて!」
「お主、できるのか?」
フィーネが即座に突っ込む。
「……できる……はず!」
少しだけ間があった。
フィーネはため息をつく。
「不安しかないな」
それでも、食材をいくつか購入する。
パン、果物、簡単に食べられるもの。
そして少しだけ、調理用の材料も。
「これでしばらくは大丈夫だな」
フィーネが言う。
アルマは袋を持ちながら、ふと立ち止まった。
「ねぇ」
「なんだ」
「この世界ってさ」
アルマは周囲を見回す。
「なんか、思ったより普通だね」
その言葉に、フィーネは少しだけ目を細める。
「普通、とは?」
「もっとこう、すごい魔法とか、変なものとかいっぱいあるのかと思ってた」
ルナがきょとんとする。
「変なもの?」
「うん、見たことないやつ」
アルマは楽しそうに言う。
フィーネは小さく息を吐いた。
「……お主が言うと、別の意味に聞こえるな」
「え?」
アルマは首をかしげる。
フィーネは続ける。
「この世界は十分に“変わっておる”」
「そうかな?」
「お主が基準を壊しておるだけだ」
即答だった。
ルナがくすっと笑う。
「アルマお姉ちゃん基準だと、全部普通になっちゃうね」
「えー?」
アルマは不満そうにする。
「ちゃんとすごいと思ってるよ?」
「その“すごい”の基準が問題なのだ」
フィーネは軽く肩をすくめる。
三人はそのまま歩き続ける。
夕方の光が、街をオレンジ色に染め始めていた。
「ねぇ」
ルナが小さく呟く。
「なに?」
「今日、楽しかった」
その一言。
アルマはぱっと笑顔になる。
「よかった!」
フィーネも静かに目を細める。
何気ない一日。
だがそれは、確かに“日常”だった。
まだ始まったばかりの関係。
まだ知らないことだらけの世界。
それでも──
三人の歩みは、確かに前へと進んでいた。
そしてその裏で。
王都のどこかで、静かに動く影があることを。
今の彼女たちは、まだ知らない
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




