第二十話 王の招待
──天才錬金術師は常識を知らない
「今すぐだ」
フィーネの一言で、空気が張り詰める。
「王都を出る」
アルマは頷いた。
「うん、わかった」
ルナも小さく頷く。
「……いく」
三人は人目を避けるように路地を抜け、大通りへと戻った。
先ほどの賑わいは変わらない。
だが、どこか空気が違う。
「……視線が増えておるな」
フィーネが小さく呟く。
「え?」
アルマがきょろきょろと周囲を見る。
確かに、何気ない通行人の中に、妙にこちらを気にしている者が混じっている。
「急ぐぞ」
「うん!」
三人は足早に王都の出口──正門へと向かった。
巨大な門。
出入りする人々で、長い列ができている。
「ここを抜ければ……」
アルマが小さく息をつく。
その時だった。
「──お待ちください」
低く、よく通る声。
三人の前に、一人の男が立ちはだかった。
黒い外套。
だがその佇まいは、先ほどの追手とは明らかに違う。
隙がない。
「なに?」
アルマが一歩前に出る。
フィーネはすぐにルナを庇う位置へと動いた。
男はゆっくりと頭を下げた。
「失礼。少々、お話を」
その瞬間。
周囲の空気が変わる。
気配。
左右、背後──
「……囲まれておる」
フィーネが低く言う。
見れば、一般人に紛れていた者たちが、わずかに位置をずらしている。
逃げ道が塞がれていた。
ルナがぎゅっとアルマの袖を掴む。
「……アルマお姉ちゃん」
「大丈夫」
アルマは小さく答える。
だが、その目は冷静だった。
「……何の用?」
男は顔を上げる。
その瞳は真っ直ぐだった。
「我々は、ソリティア王直属の者」
静かな宣言。
周囲のざわめきが、わずかに遠のく。
「貴女方に、王よりの“招待”がございます」
アルマは眉をひそめる。
「……招待?」
フィーネが一歩前に出る。
「断った場合は?」
男は一瞬だけ沈黙した。
だがすぐに答える。
「その場合でも、危害を加えることはありません」
あくまで丁寧な口調。
しかし──
「ただし」
わずかに間を置く。
「この場でお帰しすることもできません」
静かな圧。
言葉以上の意味が込められていた。
アルマは小さく息を吐く。
「……つまり、行くしかないってこと?」
男は否定も肯定もしない。
ただ言った。
「王は、貴女に興味を持っておられます」
その一言で、十分だった。
フィーネがアルマにだけ聞こえるように呟く。
「……ここで無理に抜けるのは得策ではない」
「うん」
アルマも同意する。
「だったら──」
一瞬の思考。
そして。
「行こっか」
あっさりと決めた。
「アルマ!?」
ルナが驚く。
フィーネも目を細める。
「よいのか?」
「うん」
アルマはにこっと笑った。
「ちょっと気になるし」
その言葉に、フィーネは深くため息をついた。
「……本当に、お主は」
だが、止めはしない。
男は静かに頷いた。
「感謝いたします」
そして手を差し出す。
「こちらへ」
三人は、囲まれたまま歩き出す。
正門を背に。
向かう先は──王城。
高くそびえるその建物は、まるで世界の中心のように存在していた。
ルナが不安そうに呟く。
「……大丈夫、かな」
アルマは軽く答える。
「大丈夫だよ」
根拠はない。
それでも、迷いはなかった。
「だって、まだ知らないこといっぱいあるし」
その目は、わずかに輝いていた。
──そして。
天才錬金術師は、自ら王の元へと足を踏み入れる。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




