第十九話 追跡と選択
──天才錬金術師は常識を知らない
「……速いな」
フィーネが低く呟く。
「フィーネお姉ちゃん、どうかしたの?」
ルナが不安そうに見上げる。
「……国王に感づかれた」
「え!?」
アルマが目を見開く。
「先程飛ばしておいた魔法で聞いていた。間違いはない」
「……」
アルマの表情が引き締まる。
「国王に気づかれたらだめなの?」
ルナが小さく尋ねる。
「危険、というだけだ。出るぞ」
「え!? あ、うん!! ルナちゃん!」
「うん」
三人は人混みを抜け、走り出した。
石畳を踏む足音が重なる。
「つけられておる」
フィーネの声。
「え!」
「……怖い」
ルナがアルマの服をぎゅっと掴む。
「なに、安心せよ」
フィーネの声は静かだった。
「我がおる限り、お主らに傷はつけさせんし、指一本触れさせん」
その言葉は、不思議と安心感を持っていた。
──その背後。
「急に走り出した? 勘付かれたか?」
黒フードの男が低く言う。
「なにを言う。我らはソリティア国王の特殊部隊、気づかれるはずがない」
「話はいい。追いかけるぞ」
三つの影が、静かに、だが確実に距離を詰めていた。
──再び前方。
「アルマ、路地に入れ」
「うん!」
細い路地へと飛び込む。
人通りが減り、音が反響する。
「……来てるね」
アルマが振り返る。
「速いな」
フィーネがわずかに眉をひそめる。
「普通の兵ではない」
ルナが震える声で言う。
「追いつかれる……?」
フィーネは一瞬だけ考えた。
そして。
「……いや、ここで振り切る」
「どうするの?」
アルマが聞く。
フィーネは周囲を見渡し、地形を把握する。
「この先、分岐がある。そこで一度、視界を切る」
「うん!」
「その後、アルマ」
「なに?」
「“少しだけ”力を使え」
アルマがきょとんとする。
「少しだけ?」
「派手にやるな。だが、足止めにはなる」
アルマはにやっと笑った。
「任せて」
三人はさらに加速する。
そして──
分岐。
「今だ、右へ!」
「うん!」
角を曲がる。
その瞬間。
アルマは足を止め、振り返った。
「構造、干渉……」
小さく呟く。
足元の石畳へ、意識を向ける。
「崩さない程度に──変える」
軽く杖を振る。
次の瞬間。
路地の地面が、わずかに歪んだ。
見た目は変わらない。
だが内部構造が変わっている。
──数秒後。
黒フードたちが角を曲がる。
「……っ!」
一人の足がもつれる。
「地面が──!?」
均衡が崩れ、動きが鈍る。
「罠か!?」
「いや、違う……これは……!」
理解が追いつかない。
そのわずかな遅れ。
「……見失った」
先頭の男が低く呟いた。
三人の気配は、完全に消えていた。
──その頃。
さらに奥の路地。
「はぁ、はぁ……」
アルマが息を整える。
「逃げきれた……?」
フィーネは耳を澄ませる。
「……あぁ。ひとまずな」
ルナがほっと息をついた。
「よかった……」
だがフィーネの表情は、まだ険しい。
「だが、時間の問題だ」
アルマが顔を上げる。
「また来る?」
「あぁ。今度はさらに手が増えるだろう」
静かな断言。
「……どうする?」
アルマが問う。
フィーネは少しだけ考えた。
そして。
「予定を変える」
「え?」
「王都を出る」
その言葉に、空気が変わる。
「今すぐだ」
王都の中での追跡は、すでに始まっている。
そして──
それは、まだ序章に過ぎなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




