第十七話 正しい価値の場所
──天才錬金術師は常識を知らない
「アルマよ、どこへ向かう?」
王都の通りを歩きながら、フィーネが尋ねる。
「う〜ん、この宝石を売ろうかなって」
アルマはポケットをごそごそと探り、小さな袋を取り出した。
中には、きらきらと輝く宝石がいくつも詰まっている。
「キラキラ……」
ルナが目を輝かせる。
「いつの間にそんなに作ったのだ……」
フィーネが呆れたように言う。
一つ手に取り、光にかざす。
「……どれも質がいい。いや、良すぎるな」
ため息混じりに続ける。
「お主はほんとに規格外だな」
アルマは首をかしげる。
「そうかな?」
「そうだ」
即答だった。
フィーネは視線を前方へ向ける。
「あそこがいい」
指差した先には、一軒の店。
他と比べて派手さはないが、どこか落ち着いた雰囲気を持っている。
「ん?どうして?」
「私の力だ」
さらりと言う。
「店主の本質が見える。あの者は嘘を言わぬ。的確な値で取引する」
アルマはぱっと表情を明るくした。
「わかった!」
三人は店へと入る。
──店内。
棚には宝石や装飾品が並び、静かな空気が流れていた。
奥には、一人の男。
年配の店主が、ゆっくりと顔を上げる。
「……いらっしゃい」
低く落ち着いた声。
アルマは迷わず近づいた。
「あの、これ売りたいんですけど」
袋を差し出す。
店主はそれを受け取り、中を確認する。
「……」
一瞬。
ほんのわずかに、目が細められた。
一つ、取り出す。
光にかざす。
角度を変える。
沈黙。
「……どこで手に入れた」
静かな問い。
アルマは一瞬だけフィーネを見る。
フィーネは何も言わない。
だが、その視線は「言え」と示していた。
アルマはこくりと頷く。
「ダンジョンで見つけました」
自然に、そう答える。
店主はしばらく黙っていた。
やがて、もう一度宝石を見る。
「……なるほど」
ぽつりと呟く。
完全に信じたわけではない。
だが、それ以上は追及しない。
「数も質も申し分ない」
袋を閉じる。
「すべて買い取ろう」
アルマの目が輝く。
「ほんと?」
「あぁ」
店主は奥から小さな箱を取り出す。
中には、硬貨がぎっしりと詰まっていた。
「このくらいが妥当だろう」
テーブルに置かれる。
アルマは覗き込む。
「……多くない?」
フィーネが小さく頷く。
「適正だ」
店主は静かに言う。
「価値のあるものには、それ相応の対価を払う。それだけだ」
アルマは少しだけ考えてから、にこっと笑った。
「じゃあ、お願いします!」
取引は成立した。
袋と引き換えに、重みのある金貨を受け取る。
「ありがとうございました!」
アルマは元気よく頭を下げた。
店主はわずかに頷くだけだった。
──店を出る。
「売れたね!」
アルマが嬉しそうに言う。
「うむ」
フィーネも満足そうに頷く。
「良い取引だった」
ルナは金貨を見て、きょとんとしている。
「これ……なに?」
「お金だよ!」
アルマが答える。
「これでご飯とか、いろいろ買えるの!」
「……すごい」
素直な感想だった。
アルマは少し得意げに笑う。
「これで、しばらくは困らないね!」
フィーネはふっと息を吐いた。
「……いや、お主の場合は油断ならぬがな」
「えー?」
軽いやり取り。
だがその裏で。
店の中。
店主は、閉じた扉を見つめていた。
「……ダンジョン、か」
小さく呟く。
手元には、一つだけ残した宝石。
光を宿すそれを、じっと見つめる。
「……あの純度、あの構造」
静かに、確信する。
「あり得ん」
だが。
追うつもりはない。
ただ一つだけ、思う。
「……面白い客だ」
再び、店は静けさを取り戻した。
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次回もお楽しみに




