第十四話 禁忌の資質
──天才錬金術師は常識を知らない
王都へ向かう道の途中。
草原を進む三人の影が、ゆっくりと伸びていた。
「…………アルマよ」
フィーネが静かに口を開く。
「なに?」
アルマは振り向く。
背には、まだ目を覚まさない少女。
「さきほど、エルフか魔族かもしれぬと言ったな」
「うん」
「そやつ……魔族の可能性がある」
「え!?」
アルマが目を見開く。
「でも、角とかないし……」
フィーネは首を振る。
「外見だけで判断するな。魔族にも様々な系統がある」
そして、じっと少女を見る。
「お主、確か“鑑定眼”が使えるな?」
「なにそれ」
即答だった。
フィーネが一瞬、言葉を失う。
「……知らずに使っておったのか」
小さくため息をつく。
「まぁよい。その者の情報を見ることができるだろう? それが鑑定眼だ」
「え? う、うん……たぶん」
アルマは少女へと意識を向ける。
視る。
構造ではなく、“情報”として。
「……っ!」
視界に、文字が浮かび上がる。
名前:「不明」
種族:「変異型吸血鬼族」
状態:「正常」
説明:「吸血鬼族の子供……」
「吸血鬼……族?」
思わず声に出る。
フィーネが小さく頷いた。
「やはりか」
アルマは戸惑いながらも続ける。
「でも、“変異”って?」
フィーネは眉をひそめた。
「……何か、引っかかるな」
そして、アルマを見る。
「もう少し注意深く見ることはできるか?」
「た、試してみる!」
アルマは再び意識を集中させる。
より深く。より細かく。
情報の奥へ。
「……ッッ!!」
次の瞬間、表示が変わる。
名前:「不明」
種族:「変異型吸血鬼族」
状態:「正常」
説明:「吸血鬼族の子供。太陽の光による弱体化を受けない。吸血鬼族の王になる素質を持つ」
アルマは、ゆっくりと読み上げた。
「……太陽の光による弱体化を受けない。吸血鬼族の王になる素質を持つ……って書いてあるよ」
沈黙。
風が、草を揺らす。
フィーネの表情が、わずかに険しくなった。
「……これは、厄介なことになった」
「?」
アルマは首をかしげる。
フィーネは低く言う。
「吸血鬼族の王になる素質があること自体は、まだ理解できる」
だが、と続ける。
「太陽の光による弱体化を受けない……だと?」
信じられないものを見るような声。
「これは……」
言葉を探すように、わずかに間が空く。
「常識を覆す存在だ」
アルマは少しだけ不安そうに聞く。
「な、なにかまずい?」
フィーネははっきりと言い切った。
「まずいどころの話ではない」
その声は重い。
「吸血鬼族は、本来“制約”の中で成り立つ種族だ。太陽という弱点があるからこそ、均衡が保たれている」
視線が少女へと向く。
「だが、それがないとなれば……」
一拍。
「抑止が効かぬ」
アルマは言葉を失う。
フィーネは続ける。
「これは、国一つの問題ではない。下手をすれば──国際的な問題になり得る」
「え……」
アルマの声が小さくなる。
そのとき。
「……あ」
前方に、大きな影が現れた。
高くそびえる石壁。
巨大な門。
人の流れ。
「……王都」
アルマが呟く。
ソリティア共和国の中心。
すべてが集まる場所。
そして──
秘密を抱えたまま、二人と一人はその門へと近づいていく。
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