第十三話 運ばれる秘密
──天才錬金術師は常識を知らない
夜の静けさが、ゆっくりと村に戻っていた。
崩れた影はすべて消え、呪いの気配も跡形もない。
その中心で、アルマは小さく呟く。
「誰に利用されてたんだろう……フィーネの呪も気になるし」
フィーネは腕を組み、少女を見下ろしていた。
「うむ……」
そして、ふと目を細める。
「……む? アルマ、そやつ、人間ではない」
「え?」
アルマはしゃがみ込み、改めて少女を見る。
フィーネが指摘する。
「耳がとがっておるだろう。それはエルフか魔族の特徴だ」
アルマはそっと髪をかき分ける。
確かに──耳がわずかに尖っている。
「でも、角とか尻尾はないよ?」
「うむ。ゆえに魔族ではない。ならばエルフ族の可能性が高い」
「エルフ……」
アルマは少し考える。
「エルフって、呪の影響受けるの?」
「あぁ」
フィーネは頷く。
「むしろ、魔力適性が高いゆえに、呪の媒体としては優れておる」
少しだけ声が低くなる。
「しかし……こんな子供が使われるとはな」
アルマは少女を見つめる。
まだ目を覚まさない。
「……む?」
フィーネが、さらにじっと観察する。
「……もしや、この子供……エルフではなく……」
言葉が途中で止まる。
だがすぐに、首を振った。
「いや、今はよい」
視線を上げる。
「アルマよ。事情をぼかしながら村に伝え、王都へ向かうぞ」
「あ、うん!」
素直に頷く。
「この子はどうするの?」
フィーネは迷いなく答えた。
「ここにいては、また利用される可能性がある。連れて行くぞ」
「うん!」
アルマは少女をそっと抱き上げた。
軽い。
まるで力が抜けているようだった。
──その後。
村の中央には、灯りが集まっていた。
騒ぎを聞きつけた村人たちが、恐る恐る外へ出てきている。
その中から、一人の老人が前に出た。
「……あんたたち、いったい何が起きていたんだ」
村長らしき人物だった。
アルマは少し考える。
そして──
「原因は、もうなくなりました」
シンプルに伝える。
「黒い影のようなものが出ていましたが、それも全部消えています」
村人たちがざわめく。
「ほ、本当か……?」
「もう出ないのか……?」
アルマはこくりと頷いた。
「はい。もう呪いは出てきません」
“呪い”という言葉に、空気が一瞬張り詰める。
だがそれ以上は説明しない。
フィーネも、何も言わず隣に立っていた。
村長はしばらく黙り込み、やがて深く息を吐いた。
「……そうか」
ゆっくりと頭を下げる。
「助かった。あのままでは、この村は終わっていたかもしれん」
アルマは首を振る。
「たまたまです」
軽い返答。
だが、村人たちの表情は明らかに安堵していた。
「その子は……?」
誰かが、アルマの腕の中の少女を見る。
アルマは一瞬だけ考えた。
「倒れていたので、保護しました」
それ以上は言わない。
村長も深くは追及しなかった。
「……そうか」
静かに頷く。
「ならば、その子も頼む」
アルマは小さく頷いた。
「はい」
夜は、完全に落ち着きを取り戻していた。
──翌朝。
朝日が村を照らす。
空気は澄み、昨日の異変が嘘のようだった。
「じゃあ、行こっか」
アルマが言う。
少女を背負い、軽く歩き出す。
フィーネも並ぶ。
「うむ。王都へ向かうぞ」
二人と一人。
新たな同行者を加え、道へと出る。
草原の先には、遠く王都の影。
そして──
まだ見ぬ世界と、隠された謎が待っていた。
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