第十二話 呪核の在処
──天才錬金術師は常識を知らない
夜の村。
黒い影が、地面から次々と湧き出していた。
「増えてる」
アルマが静かに呟く。
目の前で崩したはずの存在が、まるで意味を持たないかのように再び現れる。
フィーネが鋭く周囲を見渡した。
「発生源がある……! これではいくら倒しても終わらぬ!」
「発生源……」
アルマは少しだけ目を閉じる。
耳ではなく、感覚を広げる。
構造。流れ。歪み。
この場全体を満たしている“何か”。
「……あった」
ぽつりと呟く。
目を開け、ある一点を見据える。
村の中央。井戸の近く。
「そこ」
指差す。
フィーネもすぐに気配を辿る。
「……確かに、濃い」
二人は同時に走り出した。
地面を這う影たちが襲いかかる。
だが──
「邪魔」
アルマが軽く杖を振る。
影は触れる前に崩壊する。
分解。
ただそれだけで、存在が消える。
フィーネは空気を震わせるような炎をまとい、残りを焼き払った。
「急げ!」
「うん!」
村の中央。
古びた井戸の前に辿り着く。
その周囲の地面が、黒く染まっていた。
まるでそこから滲み出しているように。
「ここだね」
アルマがしゃがみ込む。
地面に手をかざす。
その瞬間、視界に強く情報が流れ込んだ。
構造:呪式生成陣
核:存在
状態:活性
説明:「呪いを拡散し、変異体を生成する中枢」
「……呪核」
アルマが小さく呟く。
「これが原因」
フィーネが警戒しながら周囲を見張る。
「壊せるか?」
「うん」
即答だった。
アルマは地面に手を当てる。
「構造……把握」
黒い“それ”の内部へと意識を潜らせる。
複雑に絡み合った呪いの式。
歪んだエネルギーの流れ。
だが──
「……不完全」
ぽつりと漏れる。
「なら、簡単」
次の瞬間。
アルマの指先から、淡い光が広がった。
「分解」
静かな声。
地面が、震える。
黒い染みが、ひび割れるように崩れ始めた。
「……っ!」
フィーネが目を見開く。
呪いの流れが、逆流している。
そして。
中心が露わになる。
そこには──
「……人?」
小さな影。
黒い塊に包まれていた“それ”が、崩れ落ちる。
現れたのは、一人の少女だった。
ぐったりとした体。
かすかに呼吸はある。
「……」
アルマは少し驚いたように目を瞬く。
「中にいた」
フィーネがゆっくりと近づく。
周囲の呪いは、完全に消えていた。
影の魔物たちも、次々と崩れていく。
「なるほどな……」
フィーネが低く言う。
「この人間が、呪に利用されていたようだ」
アルマは少女を見下ろす。
「利用……」
理解するように、小さく繰り返す。
静かになった村。
夜の風が、ようやく本来の音を取り戻していた。
戦いは終わった。
だが──
新たな疑問が、そこに残っていた。
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