第百十九話 名前という奇跡
──天才錬金術師は常識を知らない
地下第三層最深部。
千年前の遺産。
世界核。
最後の番人。
そして始原の災厄。
本来なら世界の命運を左右する存在たちが集まっているというのに。
当の本人たちは。
「名前ないの?」
「うん!」
「ない!」
「……ない」
『……ない』
という状況になっていた。
ルナ。
「いや待って」
「おかしいよね?」
シエル。
「おかしい!」
エリシア。
「何で世界を滅ぼしかけた存在に名前がないのよ!」
ミル。
「……名前大事」
きゅる。
「きゅ!」
アルマはうんうんと頷いた。
「名前は大事!」
「友達になる時に必要!」
フィーネは頭を抱えていた。
「何故こうなるのじゃ……」
ガイゼルは腕を組む。
「うむ」
「重要じゃな」
レイナ。
「陛下まで!?」
ゼクト。
「もっと優先することがあるでしょう!」
しかし。
アルマはもう完全にやる気だった。
「よーし!」
「みんなに名前をつけよう!」
◇
最初は世界核の少女だった。
長い黒髪。
銀色の瞳。
千年もの間。
一人で待ち続けていた少女。
アルマはしばらく考える。
「うーん……」
「寂しかったけど」
「これからは空になる感じ!」
ルナ。
「空?」
「うん!」
「広くて綺麗!」
そして。
アルマは笑った。
「シエラ!」
少女。
「……シエラ」
「私の……名前?」
「うん!」
「どう?」
少女。
いや。
シエラは胸に手を当てる。
「シエラ……」
「シエラ……」
何度も繰り返す。
そして。
ぽろり。
涙が零れた。
「好き」
「この名前」
「嬉しい」
「私」
「シエラ」
初めて。
少女は自分をそう呼んだ。
フィーネも静かに微笑む。
「良い名じゃな」
ガイゼル。
「うむ」
「よく似合っておる」
シエラは嬉しそうに笑った。
千年間。
名前すら持たなかった少女。
その顔は。
ようやく年相応の少女に見えた。
◇
続いて。
白銀の存在。
世界核を守り続けた最後の番人。
『……私か』
アルマ。
「うん!」
「お兄ちゃん!」
『……』
少し考える。
アルマ。
「強くて」
「優しくて」
「ずっと守ってた!」
「だから!」
「レグルス!」
全員。
「おお」
白銀の存在は目を閉じる。
『レグルス』
『……私の』
『名前』
長い沈黙。
そして。
初めて。
彼は微笑んだ。
『悪くない』
シエラ。
「お兄ちゃん!」
『シエラ』
「えへへ」
千年ぶりの兄妹の会話。
その光景に。
ルナも目を潤ませていた。
「なんかいい話になってる……」
◇
そして。
最後。
始原の災厄。
黒髪赤眼の少女。
本人はアルマの膝の上でご機嫌だった。
「次は私!」
「私!」
アルマ。
「うーん」
「難しいなぁ」
少女。
「難しい?」
「うん」
「だってすごい子だもん」
少女は首を傾げる。
「そう?」
「うん!」
「でも怖くない!」
「優しい!」
「寂しかった!」
「だから!」
アルマはにっこり笑った。
「ノア!」
少女。
「ノア?」
「うん!」
「新しく始まる感じ!」
「ぴったり!」
少女。
「ノア……」
「ノア……」
「私」
「ノア!」
ぱあっと笑う。
「好き!」
「アルマ大好き!」
抱きつく。
ルナ。
「即落ちだ」
シエル。
「仲良し!」
ミル。
「……なかよし」
◇
その時だった。
ゴォォォォォ!!
凄まじい魔力が吹き荒れる。
全員が振り向く。
そこには。
黄金の仮面。
導師。
「ふははははは!」
狂ったように笑っていた。
レイナ。
「何がおかしい!」
導師。
「分からぬか!」
「完成したのだ!」
「ついに!」
「ついに揃った!」
ゼクト。
「何を!」
導師は両腕を広げる。
「世界核シエラ!」
「最後の番人レグルス!」
「始原の災厄ノア!」
「千年前に失われた三つの鍵!」
「全てが目覚めた!」
フィーネ。
「まさか!」
導師。
「そうだ!」
「この世界の外へ至る門!」
「創世の門!」
全員。
「!?」
その瞬間。
最深部の奥。
巨大な扉が姿を現した。
今まで見えていなかった。
いや。
見えないようになっていた。
黄金の門。
空に届くほど巨大な扉。
そこに刻まれた無数の文字。
そして。
中央にある三つの窪み。
導師が叫ぶ。
「千年前!」
「人類は世界の外側を見た!」
「そして絶望した!」
「だから封じた!」
「だが我々は違う!」
「我々はその先へ行く!」
「新たな世界を創る!」
ガイゼル。
「狂人め」
フィーネ。
「そんなものを開けば!」
導師。
「だからこそ開くのだ!」
その時。
門が。
勝手に輝き始めた。
シエラ。
「……いや」
レグルス。
『まずい』
ノア。
「……あれ」
笑顔が消える。
アルマ。
「ノア?」
ノアは門を見つめる。
その赤い瞳から。
初めて恐怖が消えた。
代わりに。
懐かしさが浮かぶ。
「思い出した」
全員。
「?」
ノア。
「私」
「何で封印されたか」
静寂。
そして。
ノアは震える声で言った。
「門の向こうから」
「何かが来たんだ」
その瞬間。
黄金の門の隙間から。
黒い手が。
ゆっくりと伸びてきた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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