第百十八話 始原の災厄と忘れられた名前
──天才錬金術師は常識を知らない
「本物の災厄が目を覚ました」
フィーネの震える声。
その言葉に。
ガイゼル。
レイナ。
ゼクト。
バルト。
誰もが息を呑んだ。
フィーネ。
「あり得ぬ……」
「確かに封じられたはずじゃ」
「妾も」
「竜王も」
「海神も」
「精霊王も」
「皆で封印したはず……」
バルト。
「フィーネ殿」
「それは一体……」
「知らぬ」
「いや」
「名前を思い出せぬ」
「思い出そうとすると」
「頭が痛む」
全員。
「?」
その時。
『■■■■■■』
再び。
声。
いや。
笑い声。
だが。
誰にも意味は分からない。
しかし。
その瞬間。
白銀の存在。
世界核の少女の兄。
その真紅の瞳が大きく見開かれた。
『……逃げろ』
少女。
「お兄ちゃん?」
『……来る』
『……あれは駄目だ』
『……絶対に』
『……会わせてはいけない』
ガイゼル。
「何者じゃ!」
すると。
白銀の存在。
その巨体が震え始めた。
『……私は』
『……番人』
『……妹を守るために作られた』
『……そして』
『……あれを』
『……封じるために』
全員。
「!」
◇
最深部。
さらに奥。
そこには。
巨大な空間。
そして。
無数の鎖。
数え切れない魔法陣。
古代文字。
神代文字。
竜文字。
精霊文字。
あらゆる封印。
その中心。
黒い球体。
直径数百メートル。
そして。
そこから。
ヒビ。
ピシッ。
ピシピシ……
フィーネ。
「まずい!」
「封印が!」
ゴゴゴゴゴ!!!
鎖が砕ける。
魔法陣が消える。
そして。
黒い球体の表面。
そこから。
一本の手が。
現れた。
人間の手。
小さな。
少女の手。
ルナ。
「え?」
シエル。
「女の子?」
エリシア。
「嘘……」
ミル。
「……ちいさい」
きゅる。
「きゅ?」
パリン。
球体が砕けた。
そして。
現れた。
黒髪。
赤い瞳。
十歳ほどの少女。
裸足。
黒いワンピース。
どこにでもいそうな。
普通の女の子。
「……あ」
少女は目をぱちぱちさせる。
「……起きた」
「……久しぶり」
全員。
「……」
沈黙。
レイナ。
「……え?」
バルト。
「……これが?」
ゼクト。
「……災厄?」
ガイゼル。
「……ただの子供にしか見えぬ」
しかし。
フィーネだけが。
全身から汗を流していた。
「嘘じゃ……」
「あり得ぬ」
「何故」
「何故」
「人型なんじゃ……!」
少女。
「?」
「誰?」
「知らない人いっぱい」
そして。
世界核の少女を見る。
「!」
ぱあっと。
笑顔になる。
「妹!」
全員。
「妹!?」
世界核の少女。
「……え?」
黒髪の少女。
「会いたかった!」
「寂しかった!」
「ずっと待ってた!」
そして。
次に。
白銀の存在を見る。
「お兄ちゃん!」
『……!』
「元気?」
『……来るな』
「え?」
『……近づくな!』
『……お願いだ!』
『……私を見ないでくれ!』
少女。
「?」
「変なお兄ちゃん」
アルマ。
「仲良し?」
全員。
「「そこ!?」」
少女。
「うん!」
「家族!」
「みーんな家族!」
にこにこ。
満面の笑み。
ルナ。
「なんか」
「悪い子に見えない……」
シエル。
「可愛い!」
ミル。
「……かわいい」
きゅる。
「きゅー♪」
しかし。
フィーネ。
「騙されるな!」
珍しく。
怒鳴った。
全員。
「!?」
「そやつは!」
「世界が滅びかけた原因じゃ!」
少女。
「?」
「滅び?」
「何それ?」
フィーネ。
「覚えておらぬのか!」
「自分が何をしたか!」
少女。
「うーん?」
首を傾げる。
「知らない!」
全員。
「……」
「忘れた!」
ガイゼル。
「なんというか」
「アルマと似ておるの」
アルマ。
「?」
「私?」
その瞬間。
少女。
「!」
「お姉ちゃん!」
全員。
「えええ!?」
そして。
一直線。
アルマに抱きついた。
「お姉ちゃん!」
「好き!」
「初めて会ったのに好き!」
アルマ。
「わー!」
「かわいい!」
抱きしめる。
フィーネ。
「離れろ!」
ガイゼル。
「危険じゃ!」
ゼクト。
「アルマ!」
しかし。
何も起きない。
少女。
「えへへ」
「暖かい」
「嬉しい」
「初めて」
「誰かに抱きしめてもらった」
アルマ。
「いい子だね!」
「名前は?」
少女。
「名前?」
「ない!」
「忘れちゃった!」
ルナ。
「この子も?」
シエル。
「名前ないの?」
世界核の少女。
「……私も」
「……ない」
白銀の存在。
『……私も』
全員。
「全員!?」
すると。
アルマ。
「じゃあ!」
「名前つけよう!」
フィーネ。
「待つのじゃ!」
しかし。
遅かった。
アルマは満面の笑み。
「みんな友達!」
「家族!」
「名前がないと寂しいもん!」
その時。
新帝国の導師。
黄金の仮面が。
初めて。
恐怖ではなく。
狂喜に震え始めていた。
「素晴らしい」
「素晴らしいぞ!」
「始原の災厄!」
「世界核!」
「最後の番人!」
「全て揃った!」
「ついに!」
「ついに!」
「千年の理想が!」
「完成する!」
しかし。
誰も気付いていなかった。
黒髪の少女。
彼女の足元。
影の中で。
無数の世界が。
生まれては消え。
消えては生まれていることに。
そして。
少女本人も。
自分がどれほど恐ろしい存在なのか。
全く理解していないことに。
その笑顔は。
あまりにも無邪気で。
あまりにも純粋だったのである。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




