第百十五話 千年前の遺産と泣いている核
──天才錬金術師は常識を知らない
ゴゴゴゴゴ……
地下第三層全体が震えていた。
壁。
床。
天井。
全てが呼吸するかのように脈打ち始める。
「なっ!?」
レイナが目を見開く。
「遺跡が……動いている!?」
ゼクト。
「あり得ない!」
バルト魔導師長。
「これほどの魔力……!」
ルナ。
「きゃあっ!」
シエル。
「揺れてる!」
ミル。
「……こわい」
きゅる。
「きゅう!」
ギガルド。
グルルルル……
だが。
その中心。
巨大な黒い結晶を見つめていたアルマだけは、困ったような顔をしていた。
「やっぱり」
「泣いてる」
全員。
「「え?」」
アルマ。
「あの子」
「ずっと泣いてる」
フィーネが静かに目を細めた。
「ほう」
「声が聞こえるか」
「うん」
「悲しいって言ってる」
「寂しいって」
「一人ぼっちって」
その言葉に。
ガイゼルの顔色が変わった。
「……まさか」
バルト。
「陛下?」
「千年前の記録……」
「古文書にあった」
「もしや」
「古代文明の『核』か」
◇
その頃。
さらに地下深く。
黄金の仮面の男。
『導師』。
その男はゆっくり笑った。
「始まったか」
赤い仮面。
「導師様」
「接続反応が確認されました」
青い仮面。
「対象アルマとの共鳴を確認」
「ふふふ」
「素晴らしい」
「実に素晴らしい」
「千年」
「ようやく」
「ようやく会える」
男の背後。
巨大な装置。
無数の黒い結晶。
そして。
中央に存在する巨大な扉。
その奥から。
ドクン。
ドクン。
心臓の鼓動。
「もう少しだ」
「もう少しで」
「我らの悲願は叶う」
◇
一方。
第三層。
「ガアアアアア!」
突然。
先程の元調査隊員が苦しみ始めた。
黒い魔力。
金属化。
結晶化。
「ぐあああ!」
「いやだ!」
「いやだぁぁ!」
レイナ。
「まずい!」
ゼクト。
「侵食が再開した!」
しかし。
アルマは慌てなかった。
「大丈夫」
ぽん。
手を置く。
すると。
ジュゥゥ……
黒い魔力が薄れていく。
「……あ」
男が目を見開く。
「楽に……」
「なった」
バルト。
「何!?」
エリシア。
「また!?」
フィーネ。
「ふむ」
「やはりの」
「アルマの錬金術は普通ではない」
ルナ。
「お姉ちゃんすごい!」
シエル。
「すごーい!」
ミル。
「……えらい」
きゅる。
「きゅー♪」
しかし。
次の瞬間。
ドクン!!
巨大な鼓動。
そして。
結晶から声が響く。
《……見つけた》
全員。
「!?」
《……やっと》
《……やっと来てくれた》
《……ひとりぼっちだった》
アルマ。
「!」
「聞こえる!」
《……寂しかった》
《……苦しかった》
《……会いたかった》
アルマ。
「うん!」
「来たよ!」
ルナ。
「会話してる!?」
エリシア。
「何で!?」
ゼクト。
「意味が分からない!」
ガイゼルだけが真剣な顔をしていた。
「やはり」
「意思を持っている」
◇
その時。
フィーネがぽつりと言った。
「思い出したの」
全員。
「?」
「千年以上前」
「妾がまだ若かった頃」
「こんな話を聞いた」
「世界が滅びかけた時代」
「人々は未来に希望を託した」
「そして」
「一つの『命』を作った」
「永遠に生きる命」
「永遠に人々を見守る命」
「それが」
「世界核」
全員。
「世界核?」
バルト。
「そんなものは伝説では……」
「伝説じゃない」
「実在した」
「じゃが」
「失敗した」
フィーネ。
「命は生まれた」
「しかし」
「誰も残らなかった」
「世界核だけが」
「一人ぼっちになった」
静寂。
ルナ。
「そんな……」
シエル。
「かわいそう……」
ミル。
「……ひとり」
アルマ。
「だから泣いてたんだ」
ドクン。
結晶が反応する。
《……そう》
《……一人》
《……千年間》
《……一人》
そして。
巨大な結晶の表面。
そこに。
人影が現れた。
少女。
長い黒髪。
閉じた瞳。
まるで眠っているかのような姿。
ルナ。
「女の子!?」
エリシア。
「結晶の中に……?」
ガイゼル。
「まさか」
バルト。
「本当に」
「世界核……」
その時だった。
バン!!
爆発。
「なっ!?」
「敵襲!」
無数の黒いローブ。
仮面の集団。
そして。
黄金の仮面。
「待ちわびたぞ」
「アルマ」
ゼクト。
「新帝国!」
レイナ。
「貴様ら!」
導師は両手を広げた。
「感謝しよう」
「我らでは」
「世界核を目覚めさせることはできなかった」
「だが」
「君のおかげで」
「千年の悲願は果たされる」
アルマ。
「?」
「悲願?」
「そう」
「我ら新帝国の目的」
「それは」
「世界核を完全に目覚めさせ」
「新たな世界を創ること」
全員。
「!?」
導師の狂気に満ちた笑み。
「さあ」
「始めよう」
「千年越しの再生を」
その瞬間。
結晶の中で眠る少女が。
ゆっくりと。
瞳を開いたのであった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




