第百十話 偽りの帝国を名乗る者たち
──天才錬金術師は常識を知らない
帝都ヴァルゼリア。
世界最大の国家、ヴァルゼリオン帝国の中心。
巨大な皇城へと続く白い大通りを、皇帝専用の馬車が進んでいた。
「わぁぁ!」
「おっきい!」
アルマは窓に張り付いていた。
「お城!」
「すごい!」
「塔がいっぱい!」
ルナも目を丸くしていた。
「王国のお城より何倍も大きい……」
シエルも感動している。
「迷路みたい!」
エリシアは苦笑する。
「実際迷うわよ」
「皇城の中だけで一つの街みたいなものだから」
フィーネ。
「人族も随分と栄えたものじゃ」
ミル。
「……大きい」
「……寝られそう」
きゅる。
「きゅー♪」
グル。
ギガルド。
そんな平和な一行を見て。
馬車の向かい側に座る皇帝ガイゼルは楽しそうに笑っていた。
「ほっほっほ!」
「面白いのぅ!」
「そうじゃろう!」
「うん!」
「すごい!」
アルマは笑顔。
すると。
隣で控えていた宰相レオグランが頭を抱えていた。
「陛下……」
「少しは威厳を……」
「ん?」
「何を言う」
ガイゼル。
「友達との旅じゃぞ?」
レオグラン。
「だからその友達という言葉を百年ぶりくらいに聞いて混乱しているのですが……」
騎士団長レイナも遠い目をしていた。
「私も初めて聞きました……」
◇
そして。
皇城。
「わぁぁぁ!!」
アルマの歓声が響く。
大理石の廊下。
巨大なシャンデリア。
赤い絨毯。
歴代皇帝の肖像画。
どこまでも続く通路。
「すごい!」
「綺麗!」
「キラキラ!」
シエル。
「すごい!」
ルナ。
「床がピカピカ!」
ミル。
「……広い」
きゅる。
「きゅ!」
すると。
侍女たち。
「荷車!?」
「狼!?」
「スライム!?」
「フェニックス!?」
「吸血鬼!?」
大混乱。
エリシア。
「いつものことね……」
フィーネ。
「慣れろ」
◇
その夜。
皇帝専用の食堂。
大きな丸テーブル。
豪華な料理。
ガイゼル。
アルマたち。
そして。
宰相レオグラン。
騎士団長レイナ。
魔導師長バルト。
ゼクト。
帝国の重鎮たちが集まっていた。
「いただきます!」
アルマが元気よく言う。
ガイゼル。
「うむ!」
「いただきますじゃ!」
重臣たち。
「陛下がいただきますを……」
「しかも笑顔で……」
「夢か?」
食事は和やかに進んだ。
しかし。
食後。
ガイゼルの顔つきが変わった。
「アルマ」
「うん?」
「少し話をしてもよいか?」
「いいよ!」
「友達だもん!」
その一言に。
レオグランたちはまた倒れそうになる。
ガイゼルは苦笑した。
「そうじゃな」
「友達じゃ」
そして。
静かに話し始めた。
「今の帝国には」
「帝国を名乗る者たちがおる」
エリシア。
「……え?」
レイナの顔が険しくなる。
ゼクトも目を細めた。
「陛下……」
ガイゼル。
「隠していても仕方あるまい」
「アルマたちは既に巻き込まれておる」
ルナ。
「帝国を名乗る?」
フィーネ。
「ほう」
「偽物か」
「うむ」
ガイゼルは頷いた。
「ヴァルゼリオン帝国を名乗る組織」
「通称」
『新帝国』
その場の空気が変わる。
「連中は」
「自らこそ真の帝国だと主張しておる」
「皇帝たるわしを偽物と呼び」
「帝国全土の支配を企んでおる」
シエル。
「そんな人たちいるの!?」
バルト。
「厄介な連中です」
「数十年前から暗躍しておりました」
レイナ。
「貴族」
「軍人」
「研究者」
「犯罪組織」
「各地の過激派」
様々な者が集まった巨大組織。
ゼクト。
「そして」
「近年になり活動が急激に活発化しています」
「目的は不明」
「構成員も不明」
「本拠地も不明」
「幹部も不明」
「ですが」
「確実に存在しています」
ルナ。
「怖い……」
エリシア。
「帝国の敵ってことね」
「うむ」
ガイゼル。
「じゃが」
「一つだけ分かっておる」
その目が鋭くなる。
「連中は」
「お主を狙っておる」
アルマ。
「私?」
「うむ」
「天才錬金術師」
「常識を超える少女」
「連中はお主の力を欲しておる」
「あるいは」
「危険視しておる」
「だから」
「黒呪竜」
「森の暴走事件」
「各地の異変」
「全てが繋がっておる可能性が高い」
フィーネ。
「なるほどの」
「そういうことか」
ルナ。
「そんな……」
シエル。
「悪い人!」
ミル。
「……むぅ」
きゅる。
「きゅ!」
グルル……
ギガルドも低く唸る。
しかし。
当のアルマは。
「うーん?」
「でも」
「悪い人ばっかりじゃないよ?」
全員。
「え?」
「だって」
「おじいちゃんも帝国の人だし!」
「車掌さんも!」
「駅員さんも!」
「門番さんも!」
「みんな優しかった!」
「だから」
「新帝国の人にも」
「優しい人がいるかもしれない!」
その瞬間。
静寂。
レオグラン。
「……」
レイナ。
「……」
ゼクト。
「……」
バルト。
「……」
ガイゼル。
「……」
そして。
「ほっほっほっほ!!」
ガイゼルが大笑いした。
「そうじゃな!」
「確かにそうじゃ!」
「全てが悪とは限らぬ!」
「うむ!」
アルマも笑った。
「会ってみないと分かんない!」
ガイゼル。
「その通り!」
重臣たち。
「「「陛下が楽しそう……」」」
しかし。
その頃。
帝都の地下深く。
「……アルマ」
暗闇の中。
黄金の仮面をつけた男が。
静かに笑っていた。
「ついに帝都へ来たか」
「歓迎しよう」
「我ら」
『新帝国』がな
その瞳には。
不気味な狂気が宿っていた。
そして。
誰も知らない。
全ての始まり。
そして。
最終章へ繋がる戦いが。
静かに幕を開けようとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




