第百九話 皇帝陛下のお友達
──天才錬金術師は常識を知らない
「おじいちゃん!」
「今日も友達!」
アルマの明るい声が帝都ヴァルゼリア中央駅に響いた。
その瞬間。
駅員。
近衛兵。
迎えに来ていた貴族。
皇城の役人。
そして密かに皇帝を探していた諜報員たち。
全員が固まった。
「……」
「……」
「……友達?」
「陛下の?」
「友達?」
次の瞬間。
「へ……陛下ぁぁぁぁ!!」
大混乱。
「ご無事でしたか!」
「捜索隊が三百部隊出ております!」
「宰相閣下が倒れかけております!」
「皇城が大騒ぎです!」
「一体どちらへ!?」
ガイゼルは首を傾げた。
「うむ?」
「列車旅行じゃが?」
全員。
「「「列車旅行!?」」」
「いやいやいや!?」
「国の頂点ですよ!?」
「護衛も連れずに!?」
「変装だけで!?」
ガイゼル。
「楽しかったぞ?」
「それに」
にこり。
「友達もできた」
全員。
「「「友達!?」」」
そして。
彼らの視線が一斉にアルマへ向く。
アルマ。
「?」
「どうしたの?」
ルナ。
「……」
シエル。
「……」
エリシア。
「……」
フィーネ。
「ふむ」
ミル。
「……?」
きゅる。
「きゅ?」
グル。
ギガルド。
周囲の人間たちは頭を抱えた。
「陛下が」
「友達……」
「百年以上生きておられるあのお方が……」
「初めてでは?」
「いや、幼少期以来では……?」
◇
その頃。
皇城。
「陛下発見!!」
「ご無事です!」
「中央駅です!」
「なにぃ!?」
宰相レオグランは机を叩いた。
「すぐ向かうぞ!」
騎士団長。
宮廷魔導師長。
財務大臣。
文官長。
近衛騎士。
重臣たちが一斉に飛び出す。
そして。
十分後。
中央駅。
豪華な馬車が次々と到着する。
「陛下!」
「ご無事で!」
「心配いたしました!」
白髭の宰相レオグラン。
赤髪の女騎士団長レイナ。
老魔導師バルト。
その他大勢。
しかし。
彼らはそこで信じられない光景を目にする。
「おじいちゃん!」
「これ美味しいよ!」
アルマが駅弁を差し出していた。
「ほう!」
「どれどれ」
ガイゼル。
もぐ。
「うむ!」
「美味い!」
「じゃろう?」
「えへへ!」
二人で笑い合っている。
宰相。
「……」
騎士団長。
「……」
魔導師長。
「……」
全員。
「「「夢?」」」
◇
「陛下」
宰相レオグランが震える声で言った。
「その娘は……」
「うむ」
ガイゼルは嬉しそうだった。
「アルマじゃ」
「友達じゃぞ」
「……」
レオグラン。
「友達」
「うむ」
「友達」
「……」
その場で倒れた。
「宰相様ぁぁぁ!?」
「気絶した!」
「担架!」
「医者!」
レイナ。
「しっかりしてください!」
老魔導師バルト。
「無理もない……」
「百年仕えてきたが」
「友達という単語を陛下の口から聞いたのは初めてじゃ……」
エリシアは呆然としていた。
「皇帝陛下……」
「本当に友達いなかったの?」
フィーネ。
「ちょっと可哀想になってきたの」
◇
「ところで」
ガイゼルが笑う。
「アルマ」
「うん!」
「約束通り」
「皇城へ来るか?」
「行く!」
「ふふふ」
「歓迎しよう」
すると。
重臣たちが真っ青になる。
「皇城へ!?」
「この子たちを!?」
「しかし!」
「身元調査を!」
「危険性を!」
「礼儀作法を!」
「常識を!」
ガイゼル。
「必要ない」
「陛下!?」
「わしの友達じゃ」
「それで十分」
全員。
「「「横暴!!」」」
フィーネ。
「いや」
「皇帝じゃからな」
エリシア。
「否定できない……」
ルナ。
「大丈夫かな……」
シエル。
「楽しそう!」
ミル。
「……お城」
「……大きい?」
きゅる。
「きゅー♪」
◇
そして。
その様子を。
遠くから見つめる男がいた。
黒い仮面。
ゼクト。
「……」
汗が止まらない。
「あり得ない」
「皇帝陛下が」
「笑っている」
「しかも」
「友達」
彼は知っていた。
皇帝ガイゼル。
帝国最強。
世界最強の一人。
百年以上生きる英雄。
だが。
その人生は孤独だった。
近づく者は恐れ。
敬い。
崇拝し。
誰一人として。
対等な存在にはなれなかった。
しかし。
アルマだけは違った。
最初から。
最後まで。
ただの優しいおじいちゃんとして接していた。
「……」
ゼクトは小さく笑った。
「なるほど」
「陛下」
「貴方が興味を持つわけだ」
しかし。
その目はすぐに鋭くなる。
「だが」
「帝国の闇は深い」
「貴族派」
「軍部」
「そして」
「奴らも動き始めている」
「アルマ」
「君が巻き込まれる未来は」
「もう避けられない」
その頃。
当のアルマ。
「わぁ!」
「馬車大きい!」
「お城楽しみ!」
「おじいちゃん!」
「あとでまたお話しようね!」
ガイゼル。
「うむ!」
「楽しみにしておる!」
帝国皇帝。
ガイゼル・ヴァルゼリオン。
百年以上生きた孤高の英雄。
そんな男が。
少女との約束に。
まるで孫を待つ祖父のような笑顔を浮かべていた。
それを見た重臣たちは。
「陛下が笑ってる……」
「しかもあんな顔で……」
「今日は雪が降るかもしれん……」
などと本気で怯えるのであった。
そして。
誰も知らない。
皇城の奥深く。
決して開かれることのなかった地下の封印が。
静かに。
静かに。
目覚め始めていることを。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




