第百八話 皇帝失踪と帝都の大騒ぎ
──天才錬金術師は常識を知らない
翌朝。
特急魔導列車は帝都ヴァルゼリアへ向けて順調に走っていた。
窓の外には広大な平原。
遠くには巨大な都市群。
朝日を浴びた魔導飛行船が空をゆっくりと進んでいる。
「ん~!」
アルマが伸びをした。
「よく寝た!」
ルナも目を擦る。
「ふぁぁ……」
「おはよう」
シエルはベッドの上でごろごろしていた。
「あと五分……」
エリシアは苦笑する。
「朝よ」
フィーネはすでに起きて紅茶を飲んでいた。
「若いのう」
ミル。
「……すぅ」
きゅる。
「きゅ~♪」
ギガルド。
グル……
こちらはまだ眠そうだった。
「そうだ!」
アルマは思い出した。
「おじいちゃん!」
ルナ。
「おじいちゃん?」
「昨日、お話したの!」
「友達になった!」
エリシア。
「また知らない間に?」
フィーネ。
「なんじゃと?」
シエル。
「どんな人?」
アルマ。
「白髪でね!」
「優しくて!」
「小鳥さん連れてた!」
フィーネの表情が少し変わる。
「小鳥?」
エリシアも眉をひそめた。
「昨日の老人?」
「どこで会ったの?」
「最後尾!」
「お守りももらった!」
アルマは嬉しそうに銀色のメダルを見せる。
その瞬間。
フィーネ。
「……む?」
エリシア。
「え?」
ルナ。
「どうしたの?」
二人の顔色が変わった。
「アルマ」
エリシアが真面目な顔になる。
「そのメダル」
「どこでもらったって?」
「おじいちゃん!」
「……」
フィーネがじっと見つめる。
「……ありえぬ」
◇
その頃。
帝都ヴァルゼリア。
皇城。
「見つからない!?」
「陛下が!?」
大臣たちは真っ青になっていた。
「城内にはおられません!」
「離宮にも!」
「庭園にも!」
「訓練場にも!」
「地下書庫にも!」
「秘密の研究室にも!」
「温泉にも!」
宰相が頭を抱える。
「どこへ行かれたのだ!」
騎士団長も青ざめる。
「護衛も振り切って失踪など前代未聞です!」
侍女長。
「朝食も召し上がっておりません!」
「非常事態です!」
一方。
黒い仮面の男。
帝国諜報部特務監察官。
ゼクト。
「……」
額に汗を流していた。
「間違いない」
「昨夜見たのは」
「陛下だ」
「しかし」
「なぜあの娘と……」
「友達?」
理解が追いついていなかった。
◇
再び列車。
アルマたちは朝食を食べていた。
「美味しい!」
「パンふわふわ!」
シエル。
「ジャムも美味しい!」
ルナ。
「平和だなぁ……」
その時。
バァン!!
扉が開いた。
「失礼します!」
昨日の車掌だった。
しかし。
顔色が真っ青。
「大変なんです!」
「?」
「帝都が!」
「大騒ぎで!」
エリシア。
「何があったの?」
「皇帝陛下が失踪したそうなんです!」
全員。
「「「え?」」」
アルマ。
「皇帝さん?」
「はい!」
「帝国中が大混乱です!」
「皇帝陛下がいなくなるなんて!」
「前代未聞で!」
シエル。
「大変!」
ルナ。
「誘拐!?」
フィーネ。
「いや」
「誰にできる」
エリシア。
「確かに……」
世界最強クラスと呼ばれる男。
皇帝ガイゼル。
誘拐など不可能。
「じゃあ」
「どこに?」
車掌。
「誰にも分からないんです!」
アルマ。
「うーん」
「大変だね」
「早く見つかるといいね!」
全員。
「うん」
◇
そして。
昼頃。
列車が帝都ヴァルゼリアへ到着する。
巨大。
あまりにも巨大。
何重にも広がる都市。
空を飛ぶ飛行船。
高層建築。
魔導塔。
無数の人々。
「わぁぁぁぁ!」
アルマの目が輝く。
「すごい!」
「大きい!」
「人いっぱい!」
シエルも大興奮。
「迷子になりそう!」
ルナ。
「私も!」
エリシア。
「帝国最大の都市だからね」
フィーネ。
「人族もなかなかやるものじゃ」
その時。
ホームにいた駅員たち。
「到着!」
「特急一号!」
「……ん?」
一人が目を見開く。
「え?」
「嘘だろ」
「なぁ」
「見ろ」
「……は?」
全員。
「「「えぇぇぇ!?」」」
そこにいた。
白髪の老人。
昨日のあのおじいちゃん。
普通に列車から降りてきた。
「ほっほっほ」
「着いたのう」
駅員たち。
「陛下ぁぁぁぁ!?」
大絶叫。
アルマたち。
「?」
「?」
「?」
ルナ。
「え?」
シエル。
「陛下?」
エリシア。
「……は?」
フィーネ。
「やはりか」
アルマ。
「あ!」
「おじいちゃん!」
「おはよー!」
そして。
全帝国の駅員。
兵士。
貴族。
役人。
諜報員。
護衛騎士。
全員が。
凍りついた。
なぜなら。
帝国皇帝。
ガイゼル・ヴァルゼリオン。
その世界最強の男が。
「うむ!」
「おはよう!」
「アルマ!」
満面の笑みで手を振っていたからである。
そして。
アルマが次に放った一言は。
さらに帝国中を混乱へ叩き込むことになる。
「おじいちゃん!」
「今日も友達!」
その瞬間。
帝国中枢の人間たちは。
一斉に頭を抱えることになるのだった。
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