第百七話 謎のおじいちゃんと夜の車内
──天才錬金術師は常識を知らない
帝都ヴァルゼリアへ向かう特急魔導列車。
窓の外では夕日が流れ、赤く染まった平原や森が次々と後ろへ消えていく。
「すごいねぇ……」
アルマは窓にぺたりと顔をつけて外を眺めていた。
「景色が飛んでいく!」
ルナが苦笑する。
「アルマお姉ちゃん、さっきからずっと見てるね」
「だって面白いんだもん!」
シエルも一緒になって窓に張り付いていた。
「うわぁ!」
「山だ!」
「湖だ!」
「村もある!」
エリシアはそんな二人を見ながら笑った。
「子供みたいね」
フィーネは紅茶を飲みながら小さく息を吐く。
「いや、実際子供じゃろ」
ミルはきゅるの荷台の上でうとうとしていた。
「……すぅ」
きゅる。
「きゅ~♪」
グル。
ギガルドも静かに丸くなっている。
平和だった。
少なくとも。
この時までは。
◇
食堂車。
「ごちそうさまでした」
白髪の老人が静かに頭を下げる。
「本当に美味しかった」
アルマは笑顔になる。
「よかった!」
「おじいちゃん、おかわりいる?」
老人は笑った。
「ふふ」
「いや、十分じゃ」
「しかし」
「お嬢さんは変わっておるな」
「そう?」
「うむ」
「普通の人間なら、見返りを求める」
「じゃが、お主は違う」
アルマは首を傾げた。
「見返り?」
「なんで?」
「お腹空いてたら可哀想だもん」
老人は目を細める。
「なるほど」
「そういう娘か」
フィーネがじっと老人を見ていた。
「……」
エリシアも少し警戒している。
「フィーネ?」
「どうしたの?」
「いや」
「この老人」
「妙じゃ」
「妙?」
「うむ」
「魔力が見えぬ」
ルナが驚く。
「え?」
シエルも首を傾げる。
「見えない?」
フィーネが頷く。
「普通の生き物なら微かにでも感じる」
「じゃが」
「この男は空っぽじゃ」
老人。
「ほっほっほ」
「怖い顔をするでない」
「ただの旅人じゃよ」
エリシア。
「絶対嘘」
◇
その夜。
特別室。
「ふぁ~……」
ルナが欠伸をする。
「眠い」
シエルはベッドに飛び込んだ。
「ふかふか!」
「最高!」
エリシアも伸びをする。
「今日は色々あったわね」
フィーネは本を閉じる。
「帝都まではまだ時間がかかる」
「今日は休むとするかの」
アルマ。
「うん!」
「おやすみ!」
数分後。
「……すぅ」
「……んにゅ」
ミル。
「……すぅ」
シエル。
「……むにゃ」
ルナ。
「……すー」
きゅる。
「きゅ~……」
ギガルド。
グル……
みんな眠っていた。
しかし。
アルマだけが。
「……?」
目を開けた。
コン。
コン。
窓を叩く音。
「?」
窓の外。
そこには。
白い小鳥がいた。
「わぁ」
「こんばんは」
ぴぃ。
不思議な小鳥。
アルマが窓を開けると。
ぴょん。
小鳥が肩に乗った。
「どうしたの?」
ぴぃぴぃ。
すると。
小鳥は廊下の方を見る。
「?」
「ついて来て?」
ぴぃ!
「わかった!」
◇
深夜。
静かな車内。
アルマは一人で歩いていた。
そして。
最後尾車両。
そこに。
「おじいちゃん?」
昼間の老人がいた。
「おお」
「来たか」
「小鳥さんが呼んでくれた!」
老人は笑った。
「そうか」
「優秀な子じゃ」
すると。
小鳥は老人の肩へ移動した。
ぴぃ。
「よしよし」
老人が撫でる。
アルマは首を傾げる。
「どうしたの?」
「うむ」
「少し話をしたくての」
「お話?」
「そうじゃ」
老人は夜空を見上げる。
「お主」
「帝都へ行くのじゃろ?」
「うん!」
「招待されたから!」
「ほっほっほ」
「招待、か」
老人は意味深に笑う。
「面白い」
「実に面白い」
「?」
「お主は怖くないのか?」
「なにが?」
「帝国が」
「皇帝が」
「陰謀が」
アルマは少し考えた。
「うーん」
「分かんない!」
老人。
「ほう?」
「でも」
アルマは笑う。
「悪い人ばっかりじゃないと思う!」
「門番さんもいい子だったし!」
「駅員さんもいたし!」
「車掌さんも優しかった!」
「だから」
「皇帝さんも会ってみないと分からないよ!」
老人。
「……」
沈黙。
そして。
「ふふ」
「はははは!」
老人は声を上げて笑った。
「そうか!」
「会ってみないと分からぬか!」
「うむ!」
「その通りじゃ!」
アルマは嬉しそうだった。
「おじいちゃんも面白いね!」
老人。
「そうか?」
「うん!」
「友達になろ!」
老人。
「……友達」
しばらく呆然としたあと。
「ほっほっほ!」
「それは光栄じゃな!」
そして。
老人はポケットから小さな銀のメダルを取り出した。
「これをやろう」
「?」
「お守りじゃ」
「困った時に見せるとよい」
「ありがとう!」
アルマは嬉しそうに受け取った。
その時。
ガタン。
列車が揺れる。
そして。
老人は立ち上がった。
「さて」
「わしも寝るとするか」
「うん!」
「おやすみ!」
「うむ」
「おやすみ」
老人は静かに去っていった。
そして。
最後尾車両の影。
そこには。
黒い仮面の男。
「……」
男は老人の姿を見る。
そして。
信じられないものを見るように目を見開いた。
「馬鹿な……」
「なぜ」
「なぜあのお方が……!」
仮面の男の額から汗が流れる。
「まさか」
「陛下……?」
その声は震えていた。
そして。
帝都ヴァルゼリア。
巨大な皇城では。
「……?」
側近たちが混乱していた。
「陛下がいない!?」
「どこへ行かれた!?」
「城中を探せ!」
帝国全土を揺るがす大騒ぎが。
静かに始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




