第百四話 帝国最古の門番と大渋滞
──天才錬金術師は常識を知らない
「グォォォ♪」
帝国最古の守護獣。
聖獣ガルドガメは、嬉しそうに巨大な尻尾を振っていた。
そのたびに地面が揺れる。
ドシン。
ドシン。
アルマは笑顔で甲羅を撫でている。
「わぁ!」
「硬い~!」
「すごいね!」
「グォォ♪」
ぺろぺろ。
巨大な舌で頭を舐められる。
「きゃはは!」
「くすぐったいよ~!」
ルナは呆然としていた。
「懐いちゃった……」
シエルも乾いた笑みを浮かべる。
「まただね」
エリシアは額を押さえた。
「帝国最古の守護獣よ?」
「なんで数分で懐くのよ……」
フィーネはため息をつく。
「わしも知りたい」
「むしろ教えてほしい」
その頃。
帝国兵たちは。
「起きた!」
「ガルドガメ様が起きた!」
「二週間ぶりだ!」
「万歳!」
「門が通れるぞ!」
と歓喜していた。
しかし。
当のガルドガメ。
「グォ♪」
ごろん。
門の前で寝転がった。
全員。
「「「あ」」」
隊長。
「ガルドガメ様ぁぁぁ!?」
再び門が塞がれた。
◇
「なんでぇぇぇ!?」
隊長は頭を抱えた。
「せっかく起きたのに!」
「なんでまた寝るんですか!」
兵士たちも絶望していた。
「通れない……」
「また渋滞だ……」
「商人さんたち怒るぞ……」
後方には。
数百人の行列。
馬車。
商人。
冒険者。
旅人。
完全に大渋滞になっていた。
アルマは不思議そうに首を傾げる。
「眠いのかな?」
フィーネ。
「そうじゃろうな」
ルナ。
「いや、そういう問題かな?」
すると。
「グォ?」
ガルドガメがアルマを見る。
そして。
ゆっくりと顔を近づける。
「どうしたの?」
「グォォ」
さらに。
くいっ。
巨大な鼻でアルマを持ち上げる。
「わぁ!?」
「高い!」
そのまま。
ぽん。
アルマを甲羅の上へ乗せた。
「ふえ?」
ガルドガメ。
「グォォ♪」
尻尾ぶんぶん。
シエル。
「お姫様扱い!?」
エリシア。
「完全に気に入られてる……」
フィーネ。
「親子か?」
ミル。
「……大きい」
「……暖かそう」
きゅる。
「きゅー!」
ギガルド。
グルル……
蒼い狼は少し面白くなさそうだった。
「ふふ」
ルナが笑う。
「ギガルドさん、やきもち?」
グル!?
慌てるギガルド。
その様子にシエルが吹き出した。
「かわいい!」
◇
しかし。
問題は解決していない。
隊長は涙目だった。
「どうしよう……」
「また一週間くらいここで寝るかもしれない……」
エリシアがため息をつく。
「帝国って意外と適当ね……」
「仕方ないんです!」
隊長が泣きそうになる。
「ガルドガメ様は皇帝陛下でも無理なんです!」
「誰の命令も聞かなくて!」
「だから起きてくれただけでも奇跡で!」
その時。
アルマ。
「うーん」
「ガルドガメちゃん?」
「グォ?」
「門番さんなんだよね?」
「グォォ」
「お仕事しないと駄目だよ?」
「グォ?」
「みんな困ってるよ?」
ガルドガメは後ろを見る。
そこには。
困っている人々。
待ちくたびれた商人。
泣きそうな隊長。
そして。
「早く通りたいよー!」
子供たち。
「グォ……」
巨大な瞳が瞬く。
「お仕事終わったら、一緒に遊ぼう?」
「グォ!?」
「約束!」
「グォォォォ!!」
次の瞬間。
ドォン!
ガルドガメが立ち上がった。
全員。
「「「立ったぁぁぁ!!」」」
そのまま。
のっし。
のっし。
門の横へ移動する。
そして。
門の隣で座った。
「グォォ♪」
隊長。
「道が開いた……」
兵士。
「開いた!」
商人。
「通れる!」
大歓声が上がる。
「うおおおお!」
「ありがとう!」
「聖女様だ!」
「救世主!」
アルマ。
「?」
「なんで?」
フィーネ。
「いや」
「お主じゃ」
エリシア。
「間違いなく」
ルナ。
「うん」
シエル。
「アルマちゃんだね」
◇
そして。
ようやく。
巨大な門が開く。
ギギギギ……
帝国。
ヴァルゼリオン。
その広大な大地が姿を現した。
巨大な街道。
遥か遠くに見える都市群。
空を飛ぶ魔導飛行船。
線路の上を走る魔導列車。
王国とは比べ物にならない発展。
「わぁぁぁ!!」
アルマの目が輝く。
「すごい!」
「空飛んでる!」
「列車!」
「街!」
ルナも驚く。
「大きい……」
シエルも目を丸くした。
「こんな国初めて!」
エリシアは少し懐かしそうに笑う。
「これがヴァルゼリオン帝国」
フィーネも頷く。
「世界最大の国」
「そして」
「最も厄介な国じゃ」
その時。
「グォォ!」
ガルドガメが鳴いた。
振り返るアルマ。
「また遊ぼうね!」
「グォォォ♪」
巨大な門番は嬉しそうに尻尾を振る。
兵士たちは目を丸くしていた。
「笑ってる……」
「ガルドガメ様が笑ってる……」
隊長は遠い目をした。
「数百年見たことないぞ……」
こうして。
アルマたちはついに。
ヴァルゼリオン帝国の地へ足を踏み入れた。
しかし。
帝都ヴァルゼリアへ向かう長い街道の先。
黒い仮面をつけた男が、静かに笑っていた。
「来たか」
「天才錬金術師アルマ」
「予定よりずっと早くな」
そして。
誰も知らない。
彼女たちの旅が。
帝国全土を巻き込む大騒動へと発展していくことを。
まだ。
誰一人として知らなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




