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還命の魔術師 -失った王子の記憶  作者: 白澄 灯
第一章 「出会い」
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第3話 「呼び出し」

 夕日が、校舎の影を長く引いていた。

石畳に落ちた光はやわらかく、昼の喧騒をゆっくりとほどいていく。風はぬるく、どこか一日の終わりを知らせるように流れていた。

 

 訓練場のざわめきが、少しずつ引いていく。

その中で、低い声がかかった。

「ディオン·リュミエール」

低く落ち着きのある声だが、緊張感を持つ。

教官のブリュム·ハイゼンベルクだ。

「来い」

彼らしい、短い一言。周囲の視線が、わずかに集まることを、気にした様子もなくディオンは、何も言わずに歩き出した。

 

 そこは教官室だった。教官室の扉が閉まり、静寂が訪れる。机の上には、いくつかの書類。

その中に"試験結果"と記載された書類が積まれていた。

ブリュムは、それに触れずに言う。

「なぜ最下位に置かれたか、疑問はあるか」

「……特には」

ブリュムの目が、わずかに細まる。

「そうか」

「では、説明だけしておく」

彼は、椅子に深く座り、指先を組んだ。

「お前の試験結果は、最下位ではない」

「……そうですか」

それだけ。ブリュムは、わずかに息を吐く。

「理解が早いな」

「だが、お前は“最下位として扱う”ことが決まった」

「……理由は」

「三つある」

ブリュムは一本、指を立てる。

「一つ」

「お前は、結果を出しすぎている」

「だが、その過程が記録できない」

「詠唱なし」

「干渉の痕跡なし」

 「剣は……悪くない。そんな者はここ何年もいなかった。これでは、“評価ができない”」二本目の指。

「二つ」

「危険性だ」

「理解できない力は、制御できない」

「制御できないものは、外に出せない」

静かに言い切った。

「お前は、現時点で“管理対象”だ」三本目。

「三つ」

わずかに間を置く。

「観察するためだ」

ディオンの視線が、わずかに動く。

「通常の寮では、他の生徒との接触が多すぎる」

「他の生徒へも影響が出るかもしれん」

「だから――」

机の横に置かれた紙を、軽く叩く。旧寮の載った地図だ。

「森側の旧寮を使え」

「お前一人だ」

「……承知しました」

あっさりとした返答。ブリュムは、その反応を見ている。

「……もう一つだけ」

 ディオンは、わずかに視線を上げ、ブリュムを見た。

「自覚はあるか?自分が、どこまで逸脱しているか」

 ディオンは、少しだけ考えるように目線をさげ、ぶっきらぼうに答えた。

「……分かりません」

ブリュムは、ほんのわずかに笑う。

「だろうな」

 

 ブリュムは、椅子から立ち上がる。

「だから、ここに置く。お前は――」

「まだ、外に出す段階じゃない」

ブリュムは、ディオンに地図を渡すと今度は扉に視線を向けた。

ディオンはブリュムに背を向けて扉に手をかける。

「行け」

ディオンは、何も言わずに部屋を出た。夕日が少しだけ差し込む廊下で、ディオンは、言う。

「……管理、か」

と小さく呟く。しかし、表情は変わらない。そのまま、歩き出す。


 まだ踏み入れたことのない、森の方へ。

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