表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
還命の魔術師 -失われた王子の記憶  作者: 白澄 灯
第二章 「学院生活」
PR
12/36

第12話 「帰還」

 季節は本格的に、冬に入った。空気は冷えきり、朝の息は白くなる。森も、静かだった。迷いの森から帰還したあとも、俺は変わらず森に入っている。

 

 目的は同じだ。魔術の感覚を掴むため。まだ、分からないことが多い。だから、繰り返す。講義が終われば、森へ向かう。それが、日課になっていた。




◇◇◇◇◇


 あの一件のあと。カイルは、リネを連れて旧寮へ来た。以前「行かねーよ」と言っていたことは忘れているのだろう。俺の部屋をカイルは慣れた様子で入ってくるが、リネは足を止める。

「……ここに住んでいるのか」

 いつか聞いたセリフ。上級寮、中級寮を使ってる奴らから見ると、だいぶ違うだろう。下位ですら、もっとましなはずだ。まあ、見たこともないのだが、誰もいないし、住み心地は良い。リネは周囲を見渡す。

「……使われていない棟だと聞いていたが」

 事実だ。

「問題はない。使われていない」

 そう答えると、リネは小さく息を吐いた。カイルが笑う。

「まあな、最初は俺もびびったけど、もう、クモいねえな」

 そう言いながら、天井をちらりと見る。相当嫌だったのか、カイルはあの日以来顔を合わせるとクモのことを聞いてくる。警戒はまだ解けそうにないないらしい。

「でさ」

カイルが身を乗り出す。

「結局、あの木なんだったんだよ」

 予想通りだ。

「さあな」

 短く返す。

「はあ!? お前、触ってただろ!」

「触っただけだ」

 カイルが言葉に詰まる。リネが口を開く。

「……それより問題は別だ」

 視線が、こちらに向く。

「お前、まだ入っているな」


 否定はしない。

「禁止区域だ。理解しているのか」

 説教だ。最近、増えた。

「……問題はない。それに、迷うからだろ。俺は迷わない」

 そう答えると、リネの眉がわずかに寄る。

「問題があるかどうかは、お前が決めることではない」

 正論だ。だがそれ以上は言わない。

「分かっている」

 

「なんで好き好んで禁止されてるトコに行くんだよ。お 前そーいう所だぞ」 

 リネも、カイルもそれ以上は踏み込まなかった。理由は分かっている。ブリュムに知られれば、面倒になるからだ。だから、黙っている。もっとも、(……もう、知られているだろう)そう思っている。だが、何故か追及はない。それだけだ。

 

 話題が変わる。

「そういえば」

 カイルが椅子にもたれながら言う。

「もうすぐ査定だな」

 冬休み前の評価。つまり、成績が出る頃だ。リネが頷く。

「長期休暇にも入る。各自の成果が、そのまま反映される」

 カイルが顔をしかめる。

「うわ、やだなそれ! 俺、今回微妙かも」

「自覚があるなら対策しろ」

 リネが淡々と言う。

「いやお前な……」

 軽口が続く。変わらないやり取り。カイルが、椅子にもたれたまま言う。

「二人は実家に帰るのか?」

 リネが、少しだけ肩をすくめる。

「一応な、母に呼ばれている。顔を見せないと、面倒なことになる」

 言い方は淡々としているが、少しだけ嫌そうだ。(……元気な人間だ)そんな印象が浮かぶ。俺は、答えない。帰る場所はある。だが、(……帰る意味はない)父がいるかどうかも分からない。いても、会話はないし、独断話すこともないしな。それだけだ。


 リネが、カイルを見る。

「そういうお前こそどうなんだ」

「俺の家も似たようなもんだよ」

 軽く言う。

「兄ちゃん達もいるのにさ」

 どこか、投げるような口調。だが、完全に軽いわけでもない。(……家が強い)そんな空気を感じる。


 カイルが、こちらを見る。

「ディオン、お前も暇なら来いよな」

 気軽な調子。冗談のようで、半分は、本気だろう。リネは何も言わない。否定もしなかった。カイルが、すぐに話題を変える。

「そういえばさ、査定が終わったら――星降りの祭典、もうすぐだよな」

「星降りの祭典?」

 思わず聞き返す。二人の視線が揃う。

「あ?」

 呆れた声。リネが、ため息をつく。

「ディオン。国の行事くらい、頭に入れておけ」

 カイルが引いた顔をする。

「え、マジで知らねえの? 何年この国にいるんだよ」

「……知らない」

 事実だ。

「はあ……」

 カイルが頭を抱える。

「冬の祭りだよ。星が一番きれいに見える時期にやるやつな。願い事とかするんだよ」

 リネが補足する。

「王都では特に大規模だ。騎士学院の生徒も、警備や補助で動員される。要は任務だな」

「へえ……」


 俺はそれだけ返した。興味がないわけではない。ただ、実感がない。立ち上がり、湯を沸かす。紅茶を淹れようと自然と手が動き、カップを二つ差し出す。二人が、少しだけ驚いた顔をする。


「……お前、そんなことできんの?」

カイルが言う。

「できる」

 それだけだ。なぜできるのかは、分からない。(……覚えていない)カイルが一口飲む。

「……うまい」

 素直な感想。リネも、静かに頷く。

「……悪くない」

 それで十分だ。


 しばらく、静かな時間が流れる。やがて、カイルが立ち上がる。

「なんにせよ。まずは査定だな」

 リネも続く。

「そこで評価は決まる。気を抜くな」

 二人は、そのまま帰っていった。パタンと扉が閉まる。急に静かになった部屋で俺は、窓の外を見る。

冬の空(……星)。冬の空は、低い。空気は澄んでおり、森が、遠くに見える。(……まだ、足りない)分かっている。あの場所も、あの木もすべて--理解には、届いていない。


 それでも、また、行くそれだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ