その後の報告
書類を読み終えたアレスは、手に持っていた書類を机に置いて、盛大なため息をついた。
「やっと、決着がつけられる」
書類にはアストラル公爵家で起こったその後が書かれていた。
アレスたちが公爵家に入っている間に、庭で騎士たちが駆除してくれたゴロツキは、シーラが雇っていたのだ。アイシャが公爵家を訪れることを知って、襲うように依頼していた。公爵家に資金などないはずだったが、屋敷そのものを引き渡すと言っていたらしい。公爵の許可なくそんなことができるはずないが、雇われた者たちは住まいを確保できると引き受けたのだ。それ以外にも、城の中でアイシャに手を上げようとしたソルテイク侯爵令息を唆したのもシーラが雇った男だと判明した。
再びアイシャを陥れるためなら、今の状況など関係なく依頼をしていたようだ。
「反逆罪ですね」
先に書類に目を通していたロイナーがそんなことを呟いていたが、アレスも同感だった。処刑されてもおかしくないことをしているが、本人がどこまで自覚しているのかわからない。
ただ、公爵家の外で襲ってきたごろつきたちは雇われていなかったこともわかった。
彼らは王家の馬車を見て、高貴な人間なら金目の物が手に入ると期待して襲ってきていた全く別の集団だった。
「公爵家は完全に潰れることになるな」
公爵も公爵令嬢も処刑されることは免れない。爵位の返還という話もしていたが、それで終わりというわけにはいかない。
「女神への侮辱になりますから、誰も反対はしないでしょう」
ロイナーの言葉に素直に頷く。女神の代理人を傷つけようとしたシーラを助ける人間など誰もいない。潰れたところで同情する人間がいるとは思えなかった。公爵はとばっちりを受けているようにも見えるが、娘の悪行を止められなかったことや、この3年間引きこもりの娘を隠していたようなものだ。その責任は取らなければいけない。
「3大公爵家が1つだけになってしまいますね」
エリオの言葉に頷きかけたアレスだったが、すぐに考え直した。
「いや、すぐではないがアイシャがいる」
「アイシャ様に公爵家をついでもらうということですか?」
その考えがなかったわけではない。アイシャは女神の代理人ではあるが、正式な手続きをすれば公爵位を継ぐこともできる。だが、彼女がそれを望むとは思えなかった。平民育ちのアイシャがいきなり公爵領を任されても何もできないのが目に見えている。
アレスが言いたかったことはそういうことではなかった。
「アイシャが公爵家の人間であることを公にしたうえで、アイシャの子供が公爵位を継げばいい」
「・・・子供」
一瞬ロイナーが不穏な視線を向けてきたが、すぐに何事もなかったように視線をそらした。
アレスは気付かなかったことにして話を続けた。
「アイシャは俺の婚約者だ。すぐではないが結婚して王太子妃となる。王位継承者を生む必要があるが、複数の子供に恵まれれば、その中から公爵を引き継いでもらう子供が選ばれることになる」
こればかりは天に任せるしかない。
それに、婚約者であることはアイシャも受け入れてくれているが、今後のことをまだお互いに話していない。今は感謝祭が優先されるので、その後に結婚について話そうと考えていた。
「それなら、公爵家が復活するための準備をしなくてはいけませんね」
まだアイシャがロキサリー公爵家の人間であることを公表していないが、エリオは水面下で着実な動きをしてくれるようだ。
「アイシャにはアストラル公爵家のことは伝えるつもりですか?」
ロイナーが質問してくる。
「彼女が大きく関わっていることだ。顛末を伝えておいた方がいいだろう」
あまり気持ちのいい話ではないが、アイシャも知る権利を持っている。
彼女がどう受け止めるかはわからないが、隠すつもりはなかった。
「これに関しては感謝祭の前に話しておくべきだろうな」
アイシャが女神の祝福を受け取るべきか判断する材料になるだろう。
どんな結末になるかはアレスにはわからないが、すべてを受け入れなければいけない。
それが王家の役目であり義務なのだ。
無事に感謝祭を迎えられることを願いながら、アレスは残りの仕事に取り組むことになった。




