女神の意思
アイシャへの態度がどんどんひどくなっていく貴族たちに対して、アイシャは言い返すことはせず、ずっと彼らの様子を見ることをしていた。
アイシャが女神の代理人であるということを、彼らは理解することがない。おそらく忘れてしまったのだろう。代理人という存在がどういった意味を持つのか、何も考えることをしない貴族に対して、アイシャは反応しない代わりに内に怒りをため込んでいた。
女神の感謝祭はもう間近だった。アイシャが国に女神の祝福を受け取るかどうかを判断する日が近づいている。
現状を見ていると、こんな貴族たちに祝福を与えたいとは思えなかった。
「アイシャ様、お茶はいかがですか?」
そんな中、アイシャを丁重に扱ってくれる侍女が側にいることを思い出す。
「ありがとう」
お茶を飲むと内に秘めた怒りが静まるのがわかった。
すべての貴族がアイシャを虐げているわけではない。一部の貴族だけがアイシャを見下している。彼らのせいで何の関係もない貴族や平民にも祝福が行かなくなることをアイシャは懸念していた。アイシャの判断ひとつで国が大きく左右される。穏やかに過ごしていた人々をどん底に落とすのはアイシャとしてもしたくないと思っている。だからと言って、アイシャを見下す貴族たちにも祝福を与えたいと思えない。
そんな葛藤がアイシャの中にあった。
「最近難しいお顔ばかりですね」
考え事をしていると、ルルネが首を傾げて声をかけてきた。感謝祭が近づいてきてアイシャは自分の判断を考えるようになっていた。
「もうすぐ女神への感謝祭だから」
「代理人であるアイシャ様にとっては重要な役目のある日ですね」
ルルネは穏やかに話をしている。アイシャが日々葛藤していることを彼女は知らないだろう。優しくしてくれるルルネのような人も巻き込んでいいのか、アイシャはそのことをずっと考えている。
「女神の祝福を受け取るのはどういう感じなのでしょう」
ルルネの疑問にアイシャは首を傾げた。
「私も今回が初めてだからよくわからないわ」
そう答えながら、アイシャはルルネの顔をじっと見た。彼女は女神の祝福をアイシャが必ず受け取ると思っているようだった。歴代の代理人たちも拒絶したことがない。受け取ることが当然だと思っているのだ。それは国にいる誰もが思っているのだろう。
虐げている貴族たちも同じ考えなのだろう。だからこそアイシャに何をしても大丈夫だと思っている。そう考えた時、アイシャの中で何か納得するようなものがあった。
女神の代理人は必ず祝福を受け取らなければいけないという決まりはない。判断はすべて代理人に任されている。どんな判断になろうと、誰も何も言えない立場だ。
そう考えると自然と気持ちが楽になった。
「当日になれば答えは自然と出るでしょうね」
「え?」
アイシャの言葉の意味がわからずルルネが聞き返してきた。だが、それに応えることなくアイシャは首を振ってからお茶を飲んだ。
「感謝祭までに私は私の役目を全うするわ」
貴族たちの態度をしっかり覚えておこうと思った。すべては感謝祭の日にわかる。
毎日悩んでも仕方がないと思い、アイシャは残りの日々をただ見守るように過ごすことを決めたのだった。




