女神の代理人とは
女神の代理人が王城で生活をするため、専属の侍女と騎士があてがわれた。すべて王族がアイシャのために選んだ者たちだ。
女神の代理人をしっかりサポートするために選ばれたはずの侍女と騎士だったが、態度が明らかに変わったのは数日後のことだった。
あまり会話のない侍女たちだったが、1人を除いてだんだん態度が横柄になってきたのだ。
「申し訳ございません。少し取り込んでいて遅れました」
朝の支度をするにも侍女たちの手を借りることになっていた。それなのに、ルルネだけが時間通りにやってきて、他の侍女は随分と遅れてきてはそんな言い訳をしていた。
食事も温かい物を用意してくれていたのに、わざと冷ましてから出すという嫌がらせもしてきた。
用事があって出かけることになっても、侍女が付き添うことはなく、ルルネが何とか都合をつけて付き添いをしてくれることがあったが、それ以外はアイシャ一人の時もあったのだ。
ルルネが注意をしてくれていることがあったようだが、彼女たちは聞く耳を持たず、女神の代理人であるアイシャではなく平民であるアイシャとして見下すことを続けていた。
そして、護衛騎士もアイシャの状況を見て見ぬふりを続けていた。
「我々は代理人様に危険が及ばないようにすることが仕事です」
そう言って、アイシャに危険がなければ何もしないことを決め込んでいたのだ。
「このままでいいのですか?」
今日の身支度もルルネだけが手伝ってくれながら、彼女は今まで我慢していたことを吐き出すようにアイシャに尋ねていた。
アイシャは横柄な態度を取っている者たちに対して注意したり怒りをぶつけるようなことをしていない。そのことにもどかしさを感じているようだった。女神の代理人は誰よりも上の存在になる。アイシャが侍女や騎士を替えてほしいと言えば簡単にできることだろう。
「それだと自分に都合のいいことしか見えてこないでしょう」
アイシャは専属の者たちをそのままにするつもりでいた。
女神の代理人は女神からの祝福を受ける感謝祭まで王城で過ごして国のことを知り、周囲の人々の様子を見なければいけない。それらをすべて祝福を受けるべきかの判断材料にするのだ。
だから、どんな態度を取られてもアイシャはそれを事実として受け止めている。
その話をルルネにすると彼女は不安そうな顔をした。
「そうなると、アイシャ様が祝福を受け取らないという判断をする可能性があることになりますよね」
国に祝福がなくなればどうなるのか、ルルネはその心配をしている。
「この話を聞いたら、途中で態度を改めるかもしれないわね。そうなれば祝福は続いていくかもしれないわよ」
誰かの意見を聞いて判断するわけにはいかない。アイシャは女神の代理人としての役目を全うするつもりでいた。そして、祝福の話を侍女や騎士たちが聞いて態度を改めるチャンスを与えたつもりだった。
ルルネは最初からアイシャを女神の代理人として扱ってくれている。どこで生まれどう育ってきたのか気にすることはない。
女神もどんな相手であろうと国が代理人を受け入れるのか試しているのかもしれないと、アイシャは思っている。最終判断はアイシャがすることになるが、女神もすべてを見ているのだろう。
「私は私の役目を果たすだけ」
それだけ言うとルルネはこれ以上何を言っても無駄なのだと判断したようで黙って手を動かし続けた。
ルルネと2人だけの部屋。アイシャは窓の外を見た。
城に来てひと月が経とうとしていた。侍女や騎士たちの態度もそうだが、それ以外にも接触する人々の中にはアイシャを快く思っていない者たちがいる。彼らの態度と、アイシャを受け入れてくれる人たちの心遣い。どちらも天秤にかけてアイシャは祝福を受け入れるかどうかを判断する。
いったいどちらになるのか、その時のアイシャはまだわからなかった。判断が決めるのはきっと感謝祭当日だろう。それまでにアイシャを見下す人間が心を入れ替えてくれることを願ってしまう。
「何が起きても、それは代理人と女神の判断。すべてを国は受け入れなければいけない」
そんな言葉が漏れたが、それを聞いていたルルネが背筋に冷たいものを感じていたことにアイシャは気が付くことがなかった。




