No.5信用取引!!!
こんにちは。タルトです。
この作品に出合っていただいて、そして読もうと考えてくださってありがとうございます。
いい作品に出合えたと思ってもらえるよう頑張って書いたつもりです。楽しんでいってください。
「はい。商売の資格ですね。銀貨10枚です。」
目の前の木で作られたトレイのような場所に銀貨を入れる。
これで一昨日のクエスト報酬のほとんどが消えたことになる。まあ、仕方がないか。そういえば日本にあったような硬貨トレイって異世界にもあるんだ。
いつか、キャッシュレス化したいものだ。できるのかな。実際やはりクレジットやQRコード決済などは莫大な富を産むらしいし…。目指せ不労所得だな。
「はい。ピッタリですね。ではこちら資格証と規約です。しっかり読んでからの商売をお願いいたします。」
「ありがとうございます。」
うわあ、重。というか規約?まあとりあえず宿に戻って読み込むか。
第一章
第一条。この資格は商売を行う人(以下商人)に対して付与するものである。
第二条。商売に関してはこの法律が定めるものとする。
といったように、規約は第一章から始まり全第十章からなるものであった。
いや、商法?
まあ、商法を見たこともない僕からすれば、始まりがこのような文なのかも第何章まであるのかもわからないので正しいツッコミなのかわからないが。
とりあえずほぼすべてを読み終えた。夜までかかってしまった。朝ギルドで資格を得てからすぐに読み始めたから大体8時間ほど読んだことになる。いやあ、達成感がすごいね。ちなみに記憶スキルは+2になった。違いはわからん。
とりあえず分かったことしては、やけにしっかりしているということだ。異世界なのだからそこら辺の広場で品物を広げれば買うのかなと考えていたがそうではないらしい。
特に驚いたのは武器類と飲食物の取り扱いの厳格さだ。何なら多少のクーリングオフまである。
うーん。僕の売ろうとしているおいしい水は飲食物に該当する。売れないかもしれない。まずは美味しさとかではなく、安全性を伝えなければいけなさそうだ。
日本でいう野菜の隣に農家さんの顔を載せて「〇〇さん家のトマト!」みたいにしたら売れた、というように僕も顔写真でも載せるか?まあ、そもそもこの世界にカメラってあるのだろうか。記憶スキルがあるから要らなそうではあるのだが。
***
私は今、火を起こしています。はい。蒸留ですね。もちろん森で火を起こしてないですよ。道から少し外れた場所で土の上で起こしてますとも。ええ。僕は学ぶことが出来ますから。
商売ができるようになった。それなら次にすることは売り物の手配だ。今回は前回の水筒のようなものを追加で3つ買い、その中に蒸留水を溜めた。うん。いい出来。
さて、では売りに行こうか!!!
と、言っても今回は売りはしない。おっと、じゃあ何のために作ったのかって?それはもちろん、試飲のためだ。いやいや、僕が試すわけじゃないよ、町の人に試してもらうんだよ。
いきなりこの世界でぽっと出の冒険者が作った水なんて売れるはずがない。僕だって買わないしな。だから、試飲をしてまずは知ってもらう。そしてそこからファンを増やしていく。この世界での主な情報交換のツールは会話であろう。さすがにケータイなんてないはず。そう。試して美味しさをわかってもらい、そのあとに口コミで広めてもらおうという魂胆だ。
「おいしいお水いかがっすかー!!!冷えてるよ!!!世界変わるよーーー!!!」
「臭くないよ!!!まずくないよ!!!安全だよ!!!」
……。反応はなし。僕の声は虚しく、空に消えていった。
売れないねえ。うーむ。何が悪いのか、いや、まあそりゃそうか。もちろん興味を持ってくれる人はいる。しかし、水と聞いてからなぜか離れていくのだ。
はあ。なんかだるくなってきた。バイトなんてしたことないしな。うん。もうめんどくさい。この冷やした蒸留水は僕が飲むとしよう。
グービグービと水を飲む。やっぱ美味いなあ、おい。
「おい兄ちゃん!!」
と、そこに一人のガタイのいい男性が話しかけながら近付いてきた。
すかさず
「お客さんも一杯どうですか?おいしい水ですよ?」
と営業をかける。我ながらたくましいな。
「…その水はちゃんと浄化してあるのか?」
…?浄化とは。もしかして知らないだけでこの世界には浄水場があるのかもしれない。
「水を浄化?たぶんしてないかな?」
「じゃあ、飲めねえや兄ちゃん。じゃあなに、兄ちゃんは不浄な水を飲めるってのかい?耐性もちかい?この町の近くの水源は軒並み汚染されてるぜ?」
「えっと。そうなの?」
これはまずい。僕ギルドで不味い水二回飲んだぞ。ええ、汚染水ってこと?日本なら保健所入るぜ、それ。
いやいや、いくら異世界でも店で提供された水を飲んだらダメなんてそんなことはないだろう。少し話を聞いてみるか。
「僕最近この町に来て…。水が汚染されているってどゆこと?」
「なるほどな。水を売ってる馬鹿がいるとは思ったが知らなかったのか。」
「実はな。おおよそ三年前のことなんだが、魔王の手先がどうやらここら辺の町の水源に何かを入れたらしくてな。そこから水は不味くなり、というか飲んだら病気になるようになった。最近は汚染能力が衰えてきて何とか神聖魔法で飲めるまでになったが…。三年前は大変だったんだぞ?」
「そこからこの町の人は水を嫌いになったって話だ。」
なるほど。理解はした。が、まずい。運が悪い。初めて手を出した商売はもう無理かもしれない。
…ん?というかなんでこの町に魔王の手先なるものがやってくるんだ。魔王軍が恐れる程の何かがあるようには思えないが。だって初心者冒険者の町なのだろう?いや、違う違う。
そもそも魔王ってなんだよ。異世界だから普通にスルーしちゃったけど。この世界魔王がいるの?
知らなかったんだけど。
おい、こら、メーティス。お前ちょっと話させろ。
***
「ゲフン!魔王というのはじゃな――」
「――今更威厳を出すなあ!!!!!」
「いや、お前何なの。この世界って魔王の脅威に脅かされてるの?知ってたら来なかったよ!!!」
「ほぼ無理矢理連れてきて、十分な説明もなしに!!!クーリングオフを希望する!!!」
「無理じゃの。クーリングオフなんて制度作っておらんしの。」
「叡智の神様が聞いて呆れるねえ。なあ、こういうことも見越しておくべきなんじゃないの?なあ、そこんとこどう考えるんですか。」
「……。話すことはないようじゃし。戻すぞ。」
「あー!!待って待って!待ってくださいお願いします。魔王について聞きたいです!!」
「ふん。最初っからそうであれば可愛いのものを。魔王というのはな、まあ俗称じゃよ。魔王と言えば、人間とは種族が異なる魔族の王、といったものを思い浮かべるのではないか?そういう類のものとは違う。魔王と呼ばれておる者はただの人間じゃよ。普通のな。」
「人間?でもたぶん敵?だよなあ?」
「まあ、一般的な人間に対しては敵じゃな。でもあるじゃろ、昔の貴様の世界でも。地球とか言ったか。一般市民とは違う考えを持っていて、ゆがんでいる人が。そういうのだと思えばいい。」
「じゃあ。絶対悪じゃないんだ。テロリストみたいなもの?」
「まあ。そう思えばいい。実際やっておることは多くの人を巻き込むテロみたいなものじゃ。」
テロねえ。テロはまあどちらかというと嫌いだ。だって関係ない人巻き込むしな。でも、多少は分かる。地球でいうテロは手段はあれでも訴えたいことがあって行動してることもあったからな。たぶん、その人にも守りたい何かがあって……
「じゃあその魔王?はさ、なんで一般市民を傷つけるの?何かそいつにも同情できるなにかが――」
「――愉快犯じゃよ。歪みすぎた。人には感情がある。あいつはそれを踏みにじることで人を知ろうとしておる。」
「人間というのはな。脆く、儚い。そもそも我の世界は愛に満ちておる。しかしな、あやつはな、そういった類の感情で心が満たされている人達から、それを奪うことが好きなのじゃ。そうするとどうじゃ、その人たちには何が残る。悲しみが、嫌悪が、怒りが、そして恐れが残るじゃろ。それが目的じゃよ。人の絶望した顔が好き、憎しみに満ちた顔が好き、怒りに飲まれている顔が好き。恐れ、慄いている顔が好き。」
「……人の感情というものは、残酷じゃな。」
「奪うって、どうやって……」
いや、聞いちゃだめだ。聞くな、聞くな聞くな聞くな。聞いてしまったらもう――
「――殺しじゃよ。親子を、兄弟を、友達を、隣人を、殺す。しかもわざと数人は見逃す。全員殺してしまっては、絶望が見れぬからな。」
「……ッ!!!!!!それは、それはダメだろう!人間の、ヒトのできることじゃないだろ!!!」
「だから言われておるのじゃよ。魔王とな。人間と考えが、心が異なっているだけの人間じゃ。だから言ったろう。俗称だと。」
「じゃあなんだよ!俺が今いる町の人たちはそんなことのために。そんなことのために!水が満足に飲めなくなったのかよ!」
「そうじゃ。あやつは水に目をつけた。水は混ざり合い、溶け合う。汚染部を切り取って終い。とはできない。さらに貴様がいる町は初心者の町。ならば、汚染を浄化できるほどの神聖魔法使いはいないし、目が肥えている人もいない。気付かぬうちに人がたくさん死んださ。あの町は膨大な屍の上に成り立っておる。」
「今は王都の神聖魔法使いが月に何度か水源に浄化魔法をかけることで何とか成り立っておる。」
「さて。どうするのじゃ?」
「……。守るさ。この世界を。教えてくれてありがとな。メーティス。」
「構わんさ。」
***
「――嫌いになったって話だ。」
おっと、いつもの世界に戻ってきたらしい。というかいつもの世界って。僕のいつもの世界は地球だろ。いつものなんて浮気者だな。18年もお世話になった星なのに。
ともかく、今は目の前の会話を終わらすとしよう。
「そうだったのか。とりあえずありがとう。教えてくれて。」
「気にすんな。」
その言葉を聞きながら僕は店仕舞いをする。まあ、店仕舞いと言ってもただ風呂敷にまとめるだけなのだが。
もう、商売をする気はない。今はそれよりもやることがある。
最後に試飲用の水を片付けようとしたその時。
「なあ、兄ちゃん。それくれよ。おいしい水なんだろ?」
そういいながらコップを取る。
「あ!おい!危ないんだろ!?」
止める手も虚しくガタイのいい男性は蒸留水を飲み干した。
「ははは……!!!美味しいじゃあねえか兄ちゃん。また売ったら教えてくれや!」
そういって離れていく。
僕はその背中を見ながら岐路についた。
***
ありえない。ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない。
なぜだ。水にはいい思い出がないのだろう?飲めないだろ!水源が浄化されているとは言え、顔も知らない安全かもわからない人間が売っている水だぞ。飲めないだろ。どうするんだ、汚染された水を飲ませようとしているかもしれないだろ。
よほどのあほなのか、それとも水源を浄化している魔法の効力を信じているのか?
いや、違う。信じているのか。町の人間を安全であると思っているのか。3年前に心無い魔王にやられたというのに、まだ人間を信じているのか。
もしかしたらこの世界は魔王を除けば優しい世界なのかもしれない。なるほど、確かに愛に満ちている。
そんなこの世界を僕は……僕が、――
「――守るんだろ。」
先ほどのメーティスに言ったことを思い出す。
「なあ。僕よ。できるのか。そんなことが。」
できないかもしれない。無理かもしれない。ホントは、普通に、平和に、安全に生きたい。
でも、でも。誓ったじゃないか、神に。守ると言ったじゃないか。
「この世界を守る!!!神に誓って!!!」
自分の決意を口に出す。やる気は……ある。ならば第二の人生は、正義に燃えてみよう。
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皆様の感想は全て読ませて頂き、今後に活かしたいと思います。
ここまで読んでくださった皆さん本当にありがとうございました。




