No.11世の中には知らなくてもいいことはある
こんにちは。タルトです。
この作品に出合っていただいて、そして読もうと考えてくださってありがとうございます。
いい作品に出合えたと思ってもらえるよう頑張って書いたつもりです。楽しんでいってください。
「兄ちゃん。鉄鉱石なんて買ってどうするんだよ。兄ちゃんは鍛冶ができるようにはみえねえぜ?」
「買わしてくれよー、鍛冶屋のおっちゃんー。ほんの少しでいいからさあー。」
「まあいいか、もし武器が必要ならうちで買っていきな。それで、どれぐらいほしいんだ?」
「話が分かるね!おっちゃん!そしたらその緑がかっている鉱石頂戴!」
「お前、こんな不純物ばっかりのものを選ぶなんてまだまだだな!低品質だぞ?」
なんで緑がかってて、不純物まみれの鉱石が欲しいかって?それはこれが見立てでは硫酸鉄(Ⅱ)だからだよ!硫酸鉄(Ⅱ)、またの名を緑礬。見た目は淡緑色で化学組成式はFeSO₄・7H₂O。自然界では硫化された鉱床に多く存在している。
ここまでスラスラと知識が出てくるとは驚く。あの無駄だと思っていた定期テストが役に立つなんて。実際に先生から俗称を覚えさせられたり、どこに存在するかを覚えさせられたりした人も多いのではないだろうか。いやあ、何の役に立つんだと思っていたが、異世界転移したときに使うわけね。そう言ってくれればもっと頑張ったというのに。
「違うんだよ、おっちゃんー。その不純物が何ならほしいのさ!」
「???安いからか?これはみんな嫌がるもんだぜ?そしたらほれ、もってけ。どうせ粗悪品だ、金は要らん。」
「ありがとおっちゃん!!!今度は客としてくるね!!!」
「はいよー。」
はい。硫酸鉄(Ⅱ)(多分)ゲット!!!
鍛冶屋にて無料でもらった鉄鉱石を抱えながら次の目当てのものがありそうな場所を考える。
残っているのは、強酸と強塩基だろ?うーん、もしかしたら錬金術師みたいな人がいれば扱ってそうだなあ。でもめっちゃ高そう。というか一般市民では扱えないのではないか?劇薬だし……。
いや、違う。なぜ買うことが前提なのだ。作ればいいじゃないか。
もし、もし自分が異世界転移・転生したり、地球で無人島に行っちゃったりなんかして、でも目の前の物質がシアン化カリウム(青酸カリ)かどうかを判別するために強酸と強塩基が欲しい場合、どうしますか?(そんな時あってたまるか!という話は置いておいて)
僕ならこうします。
さて、まずご用意いたしますのは、薪です。
え?何を燃やすのかって?
ちっちっちっ。甘いね。薪を使って何かを燃やすんじゃない。薪自体を燃やすんだ。
なぜかはまあ、見ていてくれ。
と、まあ。燃やしてでできた木の灰をたくさん手に入れます。
(ここで注意。灰を手に入れるときは火ばさみなどの安全なものを使ってやけどに注意するんだぞ!間違っても素手でいかないように。焼けるぜ、手が♪)
この木の灰を水に溶かして、上澄み液を得れば……はい出来上がり。
(上澄みを取る理由は水に溶けない不純物が底に集まるからそれを取らないようにってことだぞ♪)
何が出来上がったのかって?大丈夫、説明するさ。
そもそも木って、何でできているか知ってるかい?木というか植物全般なんだが……。植物の組成には主に有機物由来のものと、無機物由来のものがある。もっと詳しく言えば、有機物由来は炭素(C)や水素(H)でできている。一方の無機物由来はナトリウム(Na)やカリウム(K)でできている。ここで、植物を完全燃焼させたとしよう。そしたら有機物由来のものは二酸化炭素(CO₂)や水(H₂O)になる。また無機物由来のものはナトリウム塩やカリウム塩になる。燃やす過程で有機物由来のものは空気中に逃げていくが、無機物由来のものはその場に残る。つまり、灰というものはその主成分が無機物由来の塩になるんだ。そして、この無機物由来の塩は水に溶かすと塩基性を示す。
もうわかったと思うが、つまり今作ったのは強塩基だ。
さて、あと残っているのは強酸です。さて、強酸を作るにはどうすればいいのか……。
ここで効いてくるのが鍛冶屋のおっちゃんからもらった不純物まみれの硫酸鉄(Ⅱ)だ。これを燃やせば三酸化硫黄が出てくる。それを水に溶かせば、晴れて強酸である硫酸ができるはずだ。
(※SO₃(三酸化硫黄) + H₂O(水) → H₂SO₄(硫酸))
というか、緑礬ってそもそも硫酸の素材だしな。昔のそれこそ錬金術の時代では、硫酸のことを緑礬油って言っていたらしいし……。
いやあ、ロジカルロジカル。
では、さっそく燃やそう。
とはいかないところがややこしい。硫酸鉄(Ⅱ)は適当に燃やして終わり。とはできないのだ。
なぜか?それは、圧倒的火力不足ッ!!!!!
ただの焚火の火程度ではびくともしないだろう。硫酸鉄(Ⅱ)から三酸化硫黄を出すには超高温にしなければいけないはずだ。
正確にどこの温度なのかは忘れたんだけどね……。まあ!この世界には温度計ないし?(多分)どうせ正確な温度わかっても意味ないさ!!!
と、いうことで火力を上げる努力をしよう。せっかくの異世界なんだから火柱上がるほどの魔法を使ってみたいのだが、そうもいかない。だって覚えてないしな。あるかも知らないしな。
今から覚えることも少しだけ視野には入れたが、そうではなく、今回は王道のやり方を使ってみようと思う。
用意するのは、ただの木炭と風を発生させることが出来る魔法札のみ。これでびっくりするほど火力が伸びるはず。
物は試し、やってみよう。
薪をくべるのではなく、木炭をくべ、魔法札で風を送る。これでなんやかんやすると……。
不純物まみれの鉱石は緑色から白色に変わり……変わり……そして……。三酸化硫黄が…。三酸化硫黄が……。
目の前の物体はいくら加熱すれども三酸化硫黄が出ることはなかった。
あっれれー?おかしいぞぉ?(小学生風)
変わった点は、淡緑色から、白色になったという点だ。
これについては、理解できる。
これは不純物まみれの鉱石が、硫化鉄(Ⅱ)の水和物であったから、その水分がなくなって白色になったというわけだ。
(* FeSO₄・7H₂O(淡緑色) → FeSO₄(白色) +7H₂O(気体))
僕の求めていた反応はそのさらに先の、三酸化硫黄が出るという反応。
ふーむ。つまり実験は失敗に終わったわけだ。
失敗は初めてなのでは?まあ長い異世界生活、一回も失敗がないわけない。
しかーし、転んでもただは起きぬのがこの僕。失敗ならその原因を考える。
原因は……。
「火力不足。」
至極簡単である。
圧倒的火力不足ッ!!!!!ではなくなったとはいえ、それは火力不足!ぐらいになっただけなのであった。
では、火力を今以上に上げればいい。
ハイ解決解決♪とはいかないのだ。
さて、少し思考をしてみよう。
火力を上げるってどうする?というか火力ってなんだ?
***
長すぎるため割愛。
とりあえず長い思考はまとまった。今からすることはピット炉を作ることだ。
ピット炉?と思った人もいるだろう。ピット炉とはむかーしむかしに金属を精錬するほどの火力が欲しい時に使っていたやり方で、従来の焚火の様な型とは違い、燃料と可燃物を穴を掘った地下で燃焼させる方法である。これによって従来の方法よりもさらに高い温度で燃やすことが出来るというものだ。まあ、先人たちのありがたい知恵だ。
ということで。
穴を掘ろう。大体深さ50cmほどまで掘って……。木炭を掘った場所に並べられるようにして、魔法札も設置して……。
うん。これでいいだろう。
しかも、ただで穴を掘るわけじゃあない。穴の下層にある木炭への酸素供給ルートも欲しい。と、言うことで下層から斜めに穴をあける。地球では人間の息で酸素を供給するため結構な口径半径が必要なのだが、この世界には魔法札なんて便利なものがあるので、少しでいい。
また、出てきた三酸化硫黄を水に触れさせる必要があるので、ガラス容器から管を伸ばし、蒸留水の入ったガラス容器に流れるようにしている。水はもちろん多量に用意しているし、ガラス瓶は札でキンキンに冷やしている。理由は二つあって、一つ目は送られてくるガスがアツアツだから。もう一つは硫酸が作られる過程で多くの反応熱が生まれてしまうからだ。
もちろん、気体が通る管は水には付けていない。逆流するからね!
さて、さっさと燃やそう。
もう疲れた。異世界でそもそも慣れていないのに、こんなことやらされて……。
帰りてえーー。
というか本当に僕は何をしているのだろう。目的は汚染の原因究明だろ?いやあ、他に絶対いい方法あっただろ。まったく。やりたい実験一つでここまで時間を食われるとは。実験で使いたい薬品があればすぐに出てきた学生時代とは大違いだ。年を取ると回顧するというが、こういうことなのかもしれない。もう老害やでほんま。
ガス出ないなあ。もう結構待ってるんだけどなあ。あんまり長いとくだらないことばっか考えちゃうよ。
「プツッ。」
おやおや?来たんじゃないの?
微かに気体が発生したような音がした。すぐ近くで絶賛稼働している炉のうるささに掻き消えそうだったが、確かに聞こえたはず……!
「ポポポポポポポポ……」
きたあ!期待通り気体が発生した!
本当にうまくいくか分からなかったが、なんとかできたっぽい。あー長かった。
続けてよかった!!!化学はこれがあるからやめられない。世界のことが分かった気になれるから好きなのだ。
歴史上の人物のおかげでここまでたどり着くことが出来た。ありがとう、ありがとう。
っていうか僕は習ったからできたけど、初めてした人はどんだけすごいんだ。どんだけひま……ではなく、時間を費やしたのだろうか。歴史に名を刻むとは、こういうことなのかもしれない。
兎にも角にも、硫酸が出来た。実に簡単なお仕事だったね♪
***
なんやかんやでとりあえずすべての素材を集めきった。ここで、もう一度したいことをまとめよう。
まず、汚染の塊を特定したい、というところから多くの実験を行った。その実験を経て、この物質はシアン化カリウム(青酸カリ)ではないか。という可能性が浮上した。
と、いうことでシアン化カリウム(青酸カリ)かどうかを特定するために紺青法を行うことにした。
その紺青法を行うために様々な物質を集めた。 ← 今ココ
というわけ。いやー、ロジカルロジカル。我ながら惚れ惚れするほどきれいな思考回路である。
ということで、現在時刻は朝の10時(目測)。昨日はつかれたので、一旦自室に帰って寝てから、最後の実験をしようとしているところだ。
今からは目的に沿って作ったものたちを手順通りに加えるだけだ。
え?何をするのか忘れたって?仕方ないなあ。
今からやる実験は、紺青法だ。
紺青法とは、
まず、シアンが溶けている液体(ここでいう汚染水)に強塩基性物質を加えて強塩基性溶液にする。そのあと、硫酸鉄(Ⅱ)を加えて熱する。最後に強酸を加え、液性を酸性にする。そうすると液体が濃い紺青色に染まるというものだ。
大丈夫かい?
さて、というわけで、例の汚染水を汲み直してきました。だって前回のは捨てたからね。あそこに行けばいくらでも汲めるのだ、こんな危ないもの(仮)を部屋に保管しておく必要はない。というか普通に保管したくない。
そんなことは置いておいて、実験を始めよう。
まず汚染水を用意します。その中に、強塩基性である木灰汁を注ぐ、そのあとに硫酸鉄(Ⅱ)を加えてしばらく熱する。この時できるだけ空気に触れさせるようにゆっくりと回転させながら混ぜる。
最後に強酸である硫酸を加えて…………。
「はーい。ビンゴぉ。」
溶液の中にはきれいな紺青沈殿が生まれていた……!!!
はい。ということで汚染の塊はシアン化カリウム(青酸カリ)でした!!!
晴れてこの物質は危ないもの(仮)から危ないもの(確定)にクラスチェンジしましたー!!!パチパチパチパチ……ってなるか!!!
激ヤバすぎる。
普通に猛毒の類である。魔王軍怖すぎるでしょ。しかもこれ水源ごと汚染してかつ術師が浄化してなお検出できるんだろ?どんだけ溶かしたんだ。
というか川って一秒間に10万トン単位で流れているはずなのにそれを全部汚染するってどういうこと?さすがにおかしすぎる。世界中のシアン化カリウム(青酸カリ)集めても無理なのではないか?
ふーむ流石は魔王軍って感じ?
と、言うことで、長きにわたった成分特定は幕を閉じた。
まったくうれしい結果ではないが、しかし納得のいく結果ではあった。
教科書とかあったらこの功績は語り継いでもらおう。
さて、後書きになります。みなさん長いお付き合いありがとうございました。
どうですか?疲れたんじゃありませんか?
この作品は化学という再現性が問われる学問をメインにしています。ですから、読者の皆さん、また自分自身が書かれていることに納得をできなければダメなのです。もちろん異世界なので……で納得をさせるということもできますが、そうではなく、可能なら、理論として納得がいく、という風に感じてほしいのです。
まあ、そのおかげで作るのにすごく頭を使うわけなのですが。この話を書くだけで私論文3つは読んでますからね。
番外編として、火燃焼についてや、紺青法の詳しい解説を行おうと思っておりますので、興味があれば、ぜひ番外編を読んでみてください。
ではまた次回、お会いしましょう。




