五百年後の世界
「ご主人様のお名前は?」
俺達は今ターラスという国に向かっている。
リーリアの話によるとここから1番近い国がそこらしい。
「アルベルト・ヴァルハンだ。」
「...偽名を名乗るならもっと他にあったんじゃないですか。」
「どういうことだ?」
「アルベルト・ヴァルハンって約五百年前魔神と戦って共に殉職した英雄のことですよね。」
「五百年も前の英雄が生きてるわけないじゃないですか。」
「五百年前だと!?リーリア、今は神暦何年だ?」
神暦は勇者と魔王が誕生した年を0年としている。
魔神討伐前は神暦1124年だった。
「神暦ですか?今は1628年ですよ?」
五百年も経っているのか、かつてクラール王国の王都だったこの土地が、緑に覆われているのを目にしてかなりの年月が経っているのだとは理解していたが...。
まさか五百年も経っているとは...。
「五百年か、随分と長い間閉じ込められていたんだな...。」
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。だがリーリアよ、俺の言っていることは事実だ。俺はアルベルト・ヴァルハン本人だ。」
「...そういうことで良いですよ!」
信じられないのも無理はない。
五百年も前に殉職した英雄だと言われても信じるのは無理がある。
これからターラスに行きギルドで冒険者登録もし直さなければならない。
その時に亡き英雄の名前を名乗って余計なトラブルに巻き込まれる可能性もある。
本名を名乗るのは避けたほうがいいな、ベリトとでも名乗っておこう。
「リーリア。俺のことはベリトと呼べ。」
「ベリト様ですね。わかりました。」
ターラスに向かう途中、俺はリーリアにこの時代のことを聞き、いくつか分かったことがある。
まずクラールのことだが、俺が魔王討伐に向かって数十年後、神暦1183年にクラールとその周辺国、セレーナ、マギア、ブロンドバール、ガラ、カラットの間で戦争が起きたらしい。
クラール、マギア、ブロンドバールの連合軍とセレーナ、ガラ、カラットの連合軍がぶつかり、激戦の末、ガラが禁断の兵器を用い、六つの国が滅びたらしい。
その後、他大陸の国などに吸収されたり、兵器の影響でダンジョンが発現したりと色々あって今に至るらしい。
2つ目はつい八十年程前まではキルスパイダーなどはまとめてモンスターという呼び方だったのが、今では魔物という呼び方に変わったのだという。
3つ目は冒険者ランク、魔物の危険度ランクの細分化がされたようだ。
以前は冒険者、魔物共に最高ランクがSランクだったのが、この時代は新たにSSランクが設定されたのだという。
最後は冒険者の職業についてだ。
結界師と魔術師が魔術師としてまとめられ、治癒師は祈祷師として職業名が変更されたみたいだ。
リーリアが全てを知っているわけではないので、まだこの時代にはあの時と変わったことがあるだろうが...。
「その服装だと目立つな、これに着替えろ。」
リーリアの服装は薄汚れた麻の服一枚だ。
五百年という時の流れに動揺してリーリアの格好のことを忘れていた。
ターラスに入る時薄汚れた白服一枚の少女を連れていては悪目立ちしてしまうし、少女に見窄らしい格好させたままなのは不憫だろう。
俺はリーリアに紅金魚と漆蝶と呼ばれる魔物の素材を使った服(防具)を渡した。
これは装着した者の体に合わせて変形する特性を持ち、防具としても十分に使える、並の武器では弾かれるだろう。
専用スキルの「ブラックマジック」で半径10メートル以内の全ての生物の視界を一時的に奪うこともできる。
もし俺がいない時に魔物や盗賊などに襲われても安心できる。
「ありがとうございます!可愛い服ですね!」
満足したようで何よりだ。
そんなこんなで俺達はターラスの国境にある都市、ビスケトルに着いた。




