六十六話目
二階の一室に案内された。
応接室という感じではあったが、カジノにしては調度品が少な異様に思える。カジノだからといって豪勢にする必要がないのか、この部屋は取引用の部屋ではないのか、とか色々なことを考える待ち時間だった。
なぜ待ち時間になったかと言えば、
「この部屋で待っててもらえるかしら?長い話になりそうだし、正装に着替えてくるわ。」
とのことだ。なんというか、ディーラーの時とは違ってどことなく笑みが不敵だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「待たせてしまったかしら?」
部屋に入ってくるなりそう言ってきた姿を見ると、その髪はどこに隠していたと言いたくなるくらいの、長髪だった。180はありそうな長身はすらりとしていて、腰まである金髪はポニーテイルのようにひとまとめにされている。
俺との会話が終わったらすぐ寝るのか、紫色のネグリジェを着ていた。
「考えることが多くてな、退屈はしてないさ。」
「ふふ、そう。」
なんというか、どこまでも俺を誘うような仕草だ。
一対一で話させてもらうとするか。
「ジェシカ、やっぱり自由に賭けてきていいぞ。最後に残った金額が今回の報酬だ。」
「え?…え?……いいの?私は?」
「ああ、心配するな。」
「……話が終わったら、迎えに来てよね。」
「ああ。」
不安そうに俺とオーナーの顔を、交互に見た後に部屋を出て行った。さっきの黒金貨が入ったバケツを我が子のように抱きしめていなければ、中々様になったろう。
「さて、本題に入らせてもらおう。」
「随分とお急ぎのようだけど、まずは自己紹介から始めましょう?会話をするには、名前を知るところから始めないと。私はトリルエ・アーシャリエ。貴方は?」
「そうだな。俺はヨシダ・チヒロ。ヨシダが姓で、チヒロが名だ。こんなナリだが、ランクS冒険者をやらせてもらってる。」
「あら、もしかして最近デハミッシュ王国で活躍した、【鬼神】さん?」
嫌味を込めているのかなんなのか、笑みを増してそう聞いてくる。
「そうだな。チヒロと呼んでもらった方が、職業上ありがたいが。俺はなんて呼べばいい?」
「そうね……私もお嬢様呼びには辟易してるし、呼び捨てで構わないわ。」
……演技の様子もなく、お嬢様呼びを嫌ってるってことは貴族なのか?最低掛け金が金貨なんていう、とち狂ったカジノのオーナーだし、ありえなくはないのかもな……。
「わかった、それじゃあトリルエ。俺は聞きたいのは、この国の事だ。……確認したいんだが、現時点で国王は誰だ?」
「ドルトス陛下よ。現時点っていうのは……何かしら?これから変わる予定があるとか、過去からあるいは未來からやって来たから現状把握?」
「さぞ高名な貴族の生まれなことは分かったよ。……余程発想力がぶっ飛んでるみたいだが、俺は過去、未来からいきなり飛んできた訳じゃない。ただ、変わる予定があるっていうのはあるはずなんだが……知らないのか?デハミッシュ王国とシャィオシー王国で協議した結果、ドルトスは退位してダリエスが新国王になることが決まったはずだぞ。」
トリルエから、笑みが消えた。
「…………それは、本当の話なの?……ダリエス王子は、デハミッシュ王国に暗殺されたはずよ。」
…………こういう時は、焦らずに情報を整理するのが先決だ。
俺の知っているシャィオシー王国は、ドルトス現国王が退位してダリエスが新国王となっている。
だがトリルエの話を聞く限り、ドルトスは国王を続投している。そして、ダリエスはデハミッシュ王国によって暗殺されている。
もしトリルエの話が本当だとして、デハミッシュ王国がダリエスを殺す理由なんてあるのか?
むしろ、ドルトス側のほうがダリエスを殺す理由が多いはず。
……もしかしなくても、ドルトス現国王がダリエスを殺したな。
俺に笑みを向ける余裕など無くなったようで、トリルエは真顔で話し始めた。
「……まだ私の所で情報を止めておいてよかったわ。これが事実として広まったら、今回の戦争の比じゃない国民が、また戦争に動員されることになったはず。」
「こちらの言い分を信じてくれたのは嬉しいんだが、なんで俺のほうを信用する?」
「色眼鏡をかけないで私を見てくれる人のほうが、信じるべき人のような気がしてならないのよね。実際、おばあさまもそう言っていたし。」
トリルエは窓の外を見ながらそう答えた。
「…………俺の場合その色眼鏡をかけられないんだがな。爵位は?」
「公爵よ。まあお父様がだけど。」
トリルエは、そう答えると溜息を吐いた。……これを告白する度に、態度が変わって鬱陶しくなるんだろうな。
公爵令嬢とか、どんな人だって大体色眼鏡で見るだろう。
「……トリルエの言う色眼鏡の中には、敬意も入ってると思うんだがな。」
「ならこう言えば良いのかしら?お父様以外に、素直に呼び捨てで呼んでくれる人はチヒロが初めてなのよ。」
笑みを取り戻したトリルエは、俺をまっすぐ見ながらそう言った。
「あー……うん。疲れたし、あとの話は明日にさせてもらう。都合が合えばでいいが、トリルエの父親も話し合いに参加できるなら、参加できるようにしておいてくれ。それじゃあ。」
俺はそう言いながら、部屋を退散した。
デジャヴを感じたのは確かにそうだが、それよりもファミレが赤字になって無いかが心配だった。
10万PVと総合350pt超えしていました。ありがとうございます。
それほど期待せずに次の更新をお待ちください。




