六十二話目
そこにいた群衆は、明らかに俺に怒りと憎悪を向けている。
戦争で負けた側の気持ちを考えてみれば分からないまでもない。
磔と表現したものの、十字架に無理矢理縄で括りつけられただけの状態だった俺は、縄を引きちぎった。
「その縄みたいに、簡単に俺達のことも殺すんだろ!」「この人殺し!」「なんで罪を受け入れない!
」
「黙れぇぁああ!!」
俺の一声で、広場はまた静寂に戻った。
そりゃあ、この化物じみたステータスじゃ殺すのは簡単だ。
「確かに、俺はお前らの兵士達を、騎士達を殺した!それは認めよう!それは謝ろう!悪かったと、素直にここで謝ろう!」
俺が頭を下げる。群衆は困惑でどよめく。
確かに、俺は大勢の人を殺した。
「だが!俺はこの場で人を殺しなどしない!例えお前らが俺に攻撃をしようとも!殺すことは絶対にない!ここが!戦場じゃないからだ!
お前らの家族が死んだのは!俺がお前らの家族を殺したのは!あの戦場にいたからだ!
あの戦争が、起きたからだ!」
意図的ではないのに、魔力が漏れ出て威圧してしまっているのか、単純に俺の話をちゃんと聞いてくれているのか、群衆の表情は怒りや憎悪の顔が、ポツポツと緊張や困惑に変わっていく。
「街中でいきなり、冒険者が因縁をつけてお前らの家族を殺すのか!?冒険者が、いきなり暴れまわってお前らの家族を殺すのか!?そんな奴は獣だ!
…………国と国が互いに了承して、それで始まったのがあの戦争だ!その戦争で、自分達の暮らしの為に、家族の為に、命を懸けて戦うのが!お前らの家族の兵士達や、王国の騎士達だ!
そんな戦争に!命懸けで戦う者達が集う戦場に!何の被害もでない訳が無い!!誰も死なない訳が無い!!」
山が割れた。
人が死んだ。
鬼が生まれた。
人が死んだ。
簡単に言えば四行で済む戦争の、戦死者は六万人を超えた。
その大多数は俺が生み出した鬼兵によるものだった。なら、これ以上死者を増やすわけには行かないだろう。
「もう一度言おう!俺はこの場で人を殺すことは無い!ここが!戦場じゃないからだ!!」
そう宣言した後には、静寂が広がった。群衆は俯いていて、よく見えない。
空を飛んで逃げるのも卑怯に思われるだろうし、かといってこの場にずっと立っているのも不思議に思われるだろう。…………どうすべきだ?
数十秒悩んで、磔にされていた場所から降り、そのまま群衆の真ん中を歩いて王都を出た。
俺が歩こうとすると、モーゼの大海のように人がどいてくれたので、歩くのには苦労しなかった。
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「というわけで、シャィオシー王国の様子がどこかおかしい。王都しか行ってないからよく分からないが。」
「おかしいのはチヒロさんですよ!!なんでいきなり三階の窓から入って来るんですか!私は今執務中なんです!そもそも、それは陛下に直々に言って下さいよ!なんで私に言うんですか!」
とりあえず、ザッドの街に戻ってアルメリアに相談してみた。そうしたら怒り始めたが。
「いきなり国王に説明するのもまずいと思ったからな。」
「なんで今回に限って学習したんですか!今までもそうしてくださいよ!いいですか!?ここは、デハミッシュ王国で王都から一番遠い辺境、ザッドなんです!チヒロさんなら一日以内に往復すらできちゃうんでしょうけど、普通であれば頑張っても二週間はかかるんです!」
王女の気品はどこへやら、机をバンバンと叩きながら俺に説教じみた話をする。
「そこは、なんとかならないのか?通信用の魔道具みたいなやつとか、魔法とかあるんじゃないのか!?」
「ありますけど!緊急時にしか使えないんです!今回みたいな、チヒロさん一人の証言だけではできないんです!」
「あるにはあるのか。まぁ、冒険者ギルドが持ってて王家が持ってない訳ないだろうしな。……冒険者ギルドに顔を出してから、王都に行くとしよう。」
「今度は気絶させないでくださいね!」
終始怒り気味のアルメリアの執務室から出て、冒険者ギルドに向かった。
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「あれ?チヒロ君依頼は?昨日の今日でもう終わらせてきたの?」
「あの依頼は、俺をおびき寄せるための嘘だった。完全に嵌められたな。」
「えぇ!?何!?どういうこと!?」
「ランクS冒険者の専属受付は、驚かないんじゃなかったのか?……俺に実害は無かったが、相当不味い何かが起きてるかもしれない。そういう訳で、少し王都に行ってくる。恐らく明日には帰って来るから、ジェシカを呼んでおいてくれ。」
「王都に行くことは分かったけど、なんでジェシカなの?」
「よく思い出してみたんだが、俺と親しい冒険者がジェシカしか浮かばなくてな。」
「…………きっとチヒロ君にも友達は増えるわよ。」
「よせ、そんな目で見るな。」
そんな会話をした後、王都に向かった。
300ポイント超えてますね。評価とブックマーク頂きありがたく思います。
ジェシカ――二章ででてきたので、是非読んでみてください。




