五十八話目
へたりこんでしまった女に、レイクスは容赦ない言葉をかける。
「なぁレイジュ、いくら戦争だからって礼儀ってもんがあるだろ。相手は魔物なんかじゃなくて、人なんだ。」
「戦争に礼儀なんか必要ないでしょ!?」
「じゃあなんでチヒロは今攻撃してこないと思う?」
俺を引き合いに出すのは辞めて欲しい。正直仲間割れしてるところを襲って勝っても、なんだか後味が悪いから仕掛けないだけだ。
「…………………。」
「そういう訳だ。さて、自己紹介が遅れたな。知ってると思うが、ランクS冒険者パーティ【晴嵐の刃】のリーダーをさせてもらってるレイクスだ。説教たれたかったのは、俺の姉のレイジュだ。副リーダーなんだが、戦闘はからっきしだからな。いつも後方支援とか、ギルドとの交渉に回ってもらってる。」
「私エリナ!さっきはあなたの魔法に驚いちゃって暗かったけど、いつもはこんな感じだよ!このパーティで遠距離担当ってことになるね!」
「俺はバッケスってんだ!こいつら、攻撃ばっかで全然守りをしねぇからよぉ!俺がこいつらを守ってんだぜ!はっはっは!まぁ、こいつらに半端な攻撃なんてかすり傷にもなりやしねぇから、いっつもレイジュしか守れねぇんだがな!」
笑顔にあふれてていいパーティそうだな。
「俺もよく覚えていないが、確かランクA冒険者最短昇格記録保持者の、ヨシダ・チヒロだ。ヨシダが姓でチヒロが名であること以外は、冒険者になる前の記憶はない。あぁ、別に記憶が無いからと言って苦労してる訳じゃないから、心配しないでくれていい。」
「えー?じゃああの化物がオニって分かったのー?」
エリナももうちょっとでも身長大きかったら、ぶりっ子になって俺でも腹が立つようなキャラになってたんだろうな……。
「いつか夢で見てな。いい具合にインパクトがあったからそのまま持ってきただけだ。もしかすると、記憶を失う前に起きたことかもしれないけどな。」
「さて、自己紹介も済んだことだし、戦うとしよう。……腕相撲でな。」
「「「「…………は?」」」」
「俺はそもそも、今回の戦争の依頼で戦うことは想定しちゃいなかったんだ。エリナに大規模な魔法を打ってもらえば、それで大体戦争なんてのは片付くからな。」
俺も対人戦はなるべくしたくないので、理由も聞けたことだし承諾しようと思ったら、レイジュが復活した。
「レイクス……あのね、流石に腕相撲はふざけてるわ。」
「レイジュ……でいいよな?これは善意で教えるが、やろうと思えばお前をここで殺すことだって可能だ。というか、ちゃんとした戦闘をするなら、俺とレイクスの余波だけでもお前は死にかねないぞ。というか、周りにいる兵達は確実に死ぬ。流石に俺がデハミッシュ側な以上、こちらの兵士に損害は出せない。」
「…………最短記録保持者だからって、調子に乗ってないかしら?」
言われっぱなしも嫌なので、魔力を20万くらい叩きつけてみる。
流石はランクS。戦闘はからっきしとはいえ、顔を青ざめるだけで済んでいた。やせ我慢してるのかもしれないが。
「実績を買われてランクAになっただけだ。最短記録に関して、誰が自慢するような口調で言った。自己紹介の一番最初に言ったろ?俺もよく覚えてないが、って。そっちこそランクSだからって、調子に乗ってるんじゃないのか?言ってしまえば、ランクSなんてのはランクAの一つ上の括りになっているだけだぞ。そこにランクAとランクSに超えられない壁でもあると思ってるんじゃないのか?」
「……………………。」
反論は無いようで、ただ力なく俯くだけだった。
「はっはぁ!力があって、口も回ると来たか!俺は気に入ったぜ!チヒロォ!あとは金と女かぁ?なっはっはっは!」
「あー……金は多分、街1つ買えるくらいはあるはずだ。女は記憶が戻ってからだな。あと足りないのは知名度だけだ。」
「かーっ!金があって女に興味はない!お前本当に男かぁ?まぁどっちでもいいんだけどよ。」
「分かったから、背中を叩くのは辞めてくれ。」
いつの間に背中に回ったんだバッケスは……。
「机は障壁で作っておいたからね!さぁ、レフェリー頼むよ?」
「任せとけ!不正なんざしねぇから安心しとけよぉ?」
待てバッケス。今の一瞬でどうしてエリナの隣に行ける。バッケスも攻撃に回ってもいいだろう。
「さぁ、レイジュはほっといてやろう。」
「……冷たくないか?」
「最近レイジュもそっけないから、お返しだ。」
レイクスが腕まくりをして、机の上に肘を置く。
「エリナ、このローブ持っててくれ。」
「え?あ、はーい!」
ローブを預け、俺も机に肘を乗せ、レイクスの手を握る。
握った感じだと、苦戦しそうだ。
「さぁ、一回勝負だ!異論はあるか!?」
「「無い。」」
「それじゃあ、始め!」
軽く力を入れてみると、微動だにしなかった。
レイクスの目を見てやると、
「……こんなものか?」
挑発された。
「いきなり本気じゃつまらないだろう?」
「それもそうだ。」
腕相撲で引き延ばすって類を見ないと思う。




