五十五話目
シャィオシー王国の国王、ドルトスは戦場を俯瞰できる本陣で笑っていた。
「ふははははは!いくらデハミッシュの兵が強くとも!いくらデハミッシュの魔法が強くとも!圧倒的な数の前では意味が無い!質よりも量だ!量こそが全てだ!ふはははは!」
夜明けの山崩しが開戦の合図となった戦争は、両陣営ともに冒険者が参加しないまま昼を迎えた。
シャィオシー王国の宣戦理由ともなった「人口過多による国土が足りない」という現象は本当に起きており、デハミッシュ王国の国土の半分しか無いものの、人口は二倍に迫る。
デハミッシュ王国の軍は全員が精鋭とは言わないまでも、きちんと鍛錬を積んだ正規兵が半分以上であり、それこそ戦争の為に駆り出された農民を相手に負けるようなことは無い。疲れていない限り。
「大方デハミッシュが動員できる人員など2万人程度であろう!我が軍は6万だ!ふはははは!」
シャィオシー王国は豊富な人口を活かして、一人を人としてみなすのではなく、数として考えられる程度には兵士が集まった。
その結果はどうだろう。
疲れが出てきたデハミッシュの兵士を、戦闘のせの字も知らない農民達が訳も分からず囲んで武器を振るう。すると兵士は攻撃を避けて、農民に攻撃する。すると休む間もなく別の農民から攻撃が来る。
そんな終わりが見えない戦闘にデハミッシュの兵士は疲れ、一人、また一人と数を減らしていった。
そうして日が昇り切った今では、デハミッシュ王国の兵士は1万人。対してシャィオシー王国の兵士は3万人。
互いに半分減った。数字を見ればそれだけだ。
デハミッシュ側は、襲い掛かって来る農民を倒しに倒してようやく、半分もの犠牲を払って、相手の戦力を半分まで減らした。
だがシャィオシー側から見れば、まだ戦闘に参加できてない兵士や農民が大勢いる。
「っはっはっはっはっは!!これでは勝ちも決まったようなものではないか!見ろ!デハミッシュの兵が引いて行くぞ!ふーはっはっはっは!!【晴嵐の刃】ぁ!!もう帰ってもいいぞぉ!!報酬はあとで渡そう!」
デハミッシュの兵が後ろに二手に分かれながら下がっていくのを俯瞰していたドルトスは、勝ちを確信した。【晴嵐の刃】も、確信した。
副リーダーのレイジュを除いて。
「…………中央に…………子供?」
しっかりと、見えていた。
デハミッシュ王国側に立つ、たった一人の姿が。
背が低くて赤髪で、白いローブを着て、たった一人で戦場に立つチヒロが。
チヒロが手を挙げると、兵が退き空白地帯となった場所に、魔方陣が何百個と並ぶ。
その場所にいる全員が戦闘を辞め、足を止め、その魔方陣に注目する。
何秒かの静寂が訪れた後、チヒロが手を下ろす。
全ての魔方陣の上には、身長3メートルを超し、角を生やし、棍棒を持ち、甲冑を着た、赤鬼がいた。
「ドルトスゥ!!!いい気になってんじゃぁねぇぞぉ!!!戦争が量だって言うならぁ!!!この鬼どもをぉ倒して見せろぉ!!!!」
チヒロはドルトスに剣を向け、思いっきり叫んだ。
「…………シャィオシー王国に属する我が国民よ!!必ずオニとやらを殲滅し、そのガキをここに連れてこぉい!!!!金ならある!!土地ならある!!欲しいものならくれてやる!!必ず殺せぇえ!!!!!」
本陣のドルトスは、接敵している場所まで届く大音声で味方を鼓舞した。
「……なぁレイジュ、あのオニってのを見たことあるか?」
「無いわ。……あれがヨシダ・チヒロ……随分と規格外じゃない。」
「…………えー、私あんなに一度に召喚なんてできるかなぁ……」
「うわっはっは!あの冒険者がチヒロかぁ!?随分と派手なことしたなぁ!」
【晴嵐の刃】は様々な反応を示しつつも、
「まぁ、オニとやらは兵士に任せる。俺達は、チヒロの相手だ。」
「ええ」「はーいっ!」「おうっ!」
リーダーのレイクスの一声でまとまり、本陣から去った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時は戻る。
「…………チヒロさん。心なしか、王宮で食べていた時のご飯よりも美味しい気がするんですが。」
頭と体が冷えたアルメリアは、冷めたテンションのままチヒロの作った朝ごはんを食べて喋った。
「これでも料理は得意でな。とはいえまともに料理をしたのなんて初めてだが。」
小麦と水だけのスパゲティ、トマトのような赤い野菜、魔物の肉を、適当に混ぜて炒めただけの簡単なナポリタン。
適当に切った野菜を、どんな味かよく分からない調味料と一緒に煮込んだだけのスープ。
たったこれだけだが、きちんと朝食だった。
料理が死因のチヒロにとっては、少しトラウマがよみがえりそうになる時もあり、(トマトを切る時、パスタをゆでる時)苦戦しながらの調理となった。
「初めてなのに得意って、たまたまうまくいっただけなんじゃないですか?」
「そうか。じゃあお前もやってみればいい。何処に何があるか分からない厨房で、どんな味がするか分からない食材を相手に料理を作ってみればいい。」
「…………そんなに言わなくたって。」
厨房に入ろうとしていたコックに、「仲がよろしいんですね」と通りすがりに言われた時に、アルメリアの顔は赤かったが、本人曰くナポリタンの赤らしい。
二度と戦争なんて書きたくない。まだ続くけど。




