五十二話目
まぁダリエスの望み通り山中を一歩一歩進んでいる。ほとんど国交がないので、街道はない。そもそも整備された道すらない。日本ではまず体験できるとは思ってもいなかった、濃密な自然に囲まれながら、獣道を進んで行く。
山中では魔物もたまに出るが、足元の砂を投げるだけで死んでいく。
なんというか、ランクB冒険者が5~6人位で力を合わせて戦っても、2人程犠牲が出そうな大きな熊を、楽々倒せるというのは申し訳なくなってくる。
その熊の死体をアイテムボックスにしまう。するとダリエスが話しかけてきた。
「……チヒロは、本当に強いんだな。」
「勘違いしないでほしいが……これがデハミッシュのランクA冒険者の平均的な実力だとか、思わないでくれよ?俺が強すぎるだけだからな?」
「……そうみたいだな。あんな魔物は普通、ランクA冒険者が出張って来て倒すはずだ。」
「……それで、聞きたいんだが。なぜ独りなんだ?」
「あぁ、まぁ山の中で誰も聞き耳を立てるようなやつもいないだろうし、この辺で喋るとしよう。」
そう言ったダリエスは、その場に腰を下ろして喋り始めた。
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普通親に出て行けって言われて、国ごと出て行くか?
まぁ、今後の国の将来がかかっているという風に考えれば、仕方ないのかもしれないのだろうけれど。それにしたって大胆な常識はずれにも程があるだろう。
とはいえ常識外れなんていうのは、俺がとやかく言えるようなことではないので黙っておくが。
「それで、これからどうする予定なんだ?デハミッシュ王国でひっそり暮らすのか?」
「いや、私が持つ情報をそちらに包み隠さず話す。」
………………突飛過ぎないか?何て言うべきだ?というか、負けを確信しているのに、さらに負けに持ち込もうとする理由はなんだ?
困惑で黙っている俺のためになのか、丁寧に説明を始めてくれた。
「私は、正直父上のやり方が気に食わない。大半の貴族も、そんな意見を持っていてね。中々あり得ない状況なんだよ、国王に対しての求心力が小さすぎるのは。そういう経緯もあった上で、今回の戦争はチャンスだった。」
「それって王子としてどうなんだ?」
「…………流石に、戦争を行うという事には反対はしたよ。そりゃ自分の国だからね。そして、反対していくうちに、チャンスだっていうことに気付いてね。どうしたらチャンスを活かせるか。どうやったら、現国王である父上を退かせたうえで私が王になれるのか。」
「それが、今回の戦争でのシャィオシー王国の敗北。」
「そう。できれば、戦争時点で私以外の王族と公爵家が死亡……は望みすぎだね。流石に都合が良すぎるのもある。現国王は両手の欠損ぐらいで済めばいいし、王妃達は顔にやけどの痕でも残せればいい。」
「それくらいなら、回復魔法で治るんじゃないのか?」
「そりゃあ治せるだろう、日常生活の中であれば。だがそこは戦場だ。回復魔法を使える者が先に倒れてしまえば、治療は国に帰ってからの地道な治療でしか治せない。」
…………?ということは、怪我をしてから時間が経った場合には回復魔法は効かないのか?
大抵の場合の怪我をした場合には、皮膚の下の細胞が表に出てきていて、俺の場合それを利用して回復魔法を使っているよな……。まだ一回しか使ってないが。そう考えると、一旦自己再生能力により、皮膚の細胞で覆われてしまったら、回復魔法を使うことはできないのか?
細胞に魔力を流して細胞分裂を強制的に起こしているわけで。それが怪我をしていない場合にできたなら、人体改造が可能だよな…………今深く考えるのはよそう。
「そういうものか。」
「そうだ。……お、石だ。」
ダリエスが言うように、上から小石が転がって来ていた。その小石は、段々増えていく。
「…………まずい……のか?」
「ん?何がだ?」
ダリエスは知らないだろうが、小石がいくつか転がって来るのは土砂崩れの前兆だ。だが、一切雨が降ったようには思えない。いま歩いているところだって、少しも濡れていない。地震だって起きてない。
などと悩んでいる間に、ダリエスが悲鳴を上げた。
「んなっ!?」
その悲鳴と同時に、視界がスローになる。山頂側を見ると土砂崩れが起き始めている。ダリエスを小脇に抱えて、ひとまず空へ逃げる。
その直後には、俺達がいた場所は土砂に呑み込まれていた。
「一体何が起きたんだ……?」
ダリエスは、何が起きたのか分からずに黙っている。一瞬のうちに上空に移動していることが説明できる常人などほとんどいないだろうし、当然だ。
結局何が原因か分かる訳でもないし、また土砂崩れが起きた時に同じことが出来るか分からないので、そのままフェルケス領に向かった。
次→よくて二週間後




