五十一話目
シャィオシー王国との戦争が翌日に迫った今、国境ともいえる山脈の尾根で偵察をしている。召喚自体はいつでもできるが、せめて地形を自分の目で見ておこうということで、五日前からフェルケス領にいた。
正直、することも特に見当たらないので、自分から偵察をしていた。
アルメリアとは完全に別行動だから、互いに今何をやっているかは分からない。
まぁ、そこはいいとして。
最近使っていなかったスキル【神眼】で出来ることを試すためにも、偵察をしている。
【神眼】で、偵察する前に分かっていたのは【鑑定】と【暗視】の効果があることだった。
一切邪魔するものがない環境では、【千里眼】と思わしき用途でも使うことが出来た。地平線を超えた先をも見通すことが出来たので【万里眼】と形容したほうがいいのだろうか。
視界がスローモーションになるのは、俺のステータスの問題ではなく【神眼】によって速度調整がなされていたことも分かった。
赤い髪と真っ白のローブという、葉が生い茂る緑色が主の山の中では目立つ格好ではあるが、とりあえず偵察をしていることは確かだ。口調と雰囲気でごまかしてはいるが、身長だけで言うならこの世界ではチビだろう。
さてシャィオシー王国だが、土地が足りないというのは本当らしく、山から一番近い村まで2~3キロ程しか離れていない。
しかもその村というのも、数十人程度の者ではなく数百人程度が暮らしているものだった。
その村で今日、何か騒ぎが起きていた。
「…………服装が村人とは違い過ぎるよな。貴族とかその辺なんだろうが、独りで馬に乗って来るのか?」
村に1人の青年がやってきていたのだが、ボサボサの服と髪にもかかわらず村人たちには快く受け入れられていた。あれは……受け入れられているというより、敬われていているのか?
その青年は沢山の人に囲まれながらも、馬から降りず先を急いでいる。
「ッ!?……嘘だろ?」
その青年はいきなりこちらを見たかと思えば、大きくこちらに手を振った。
……いくら俺が目立ちやすい格好をしているからとはいえ、2~3キロ離れてるんだぞ?どういう視力なんだか。
周囲の村人が怪訝そうな顔をするのも気にせずに、こちらに懸命に手を振る。文字通り命懸けの様相でもあったことから、行くことに決めた。
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空を駆けて、できるだけ力強いことを見せながら村へと向かう。
ただでさえ低い身長だ。一応敵国であるのだから舐められることは避けたい。
ただ無言で俺を見る村人たちを尻目に、向こうから自己紹介してきた。馬からは降りない。
「シャィオシー王国第一王子……元がつくだろうけど。ダリエス・グレイ・シャィオシーだ。ダリエスと呼んでくれていい。さすがに、この国の民でもないだろう。」
その発言に、村人の周囲はざわつく。元がつくというところに驚いたのか、ダリエスと呼ぶことを許可したことに驚いたのかはよく分からない。
「……ランクA冒険者のヨシダ・チヒロだ。デハミッシュ王国で主に活動している。姓がヨシダで、名前がチヒロだという事以外は、記憶喪失で何も分からずじまいだ。……しかし、何故み」
俺が質問をしようとしたところで、周囲の村人の中で頭が抜きんでていた男が、俺とダリエスの間に入る。
「……こんなガキがランクAだ?デハミッシュも落ちたもんだ。」
少し魔力を込めて睨む。
多少は強いのだろうがそれはあくまでもこの村の中だけらしく、これだけで怯んだ。
しかし、男のプライドに触れたのかなんなのか、ダリエスが止める間もなく俺に殴りかかって来る。
「くそがぁ!」
俺は避けるでもなく、殴り返すわけでもなく、障壁を張る。
当然男は障壁を思い切り殴り、声には出さなかったものの顔を思い切り歪めるだけに留めた。
「チッ」
男は、腕を押さえながら舌打ちしてどこかに消えた。
その結果に意外そうな反応をしたのが半分、納得していたのが半分だった。
ダリエスは、ただ終始微笑みを浮かべていた。
「……質問いいか?」
「あぁ、構わんよ。」
「ここから、何故見えたんだ?」
「簡単なことだ。スキルを使った。スキル【千里眼】。まぁ、遠くまで見えるだけだ。」
「なるほど、だったら納得だ。それじゃあダリエス本題だ。なぜ独りなんだ?元をつけていいのかは分からないが、第一王子なんだろう?」
「それを話すには、ちょっと長いんだ。……まぁ先を急いでいるし、山の中で話すとしよう。」
「そこまで急ぐなら、俺が運ぶぞ?」
ダリエスから微笑みが消える。
「いや、自分の足で移動させてくれ。元とはいえこれでも第一王子だ。民の命が懸かってる体なんだ。……すまないが、チヒロも山を歩いて移動してくれると助かる。」
そう言うと、ダリエスは頭を下げた。
「……頭を下げる程の事じゃない。頭を上げてくれ。むしろ山を無視して移動できる俺がおかしいんだ。正しいのはそちらだ。」
「……そうか、では僕の背中に乗るかい?」
「いや、自分の足で十分だ。俺は一応、デハミッシュの者だからな。少しでも自分を大事にしてくれ。」
「ははは、確かに。背中を刺されたくは無いしな。」
…………今までで一番早く打ち解けた気がするが、その相手が元(?)第一王子っていうのは如何なものなんだろうか。
まぁ、仲が良いに越したことは無い。そのまま二人でデハミッシュ王国を目指した。




