四十七話目
マスロネ領に入る時、そして領内での対応。
それは想定外というか、想像することができなかったというか。
アルメリア第二王女が、マスロネ領にてこんなにも嫌われているとは予想できなかった。
対応は、何もされなかった。
領内に入る時、衛兵から見向きされることなく、声掛けされることなく、何も存在していなかったかのように。
領内に入った時、領民は何も一瞥することなく、二度見されることなく、交通の邪魔になっていることを邪険にするわけでもなく、ただ普通の日常生活を送っていた。
何もされないという現実が、受け止めきれなかった。
存在や行動の一切を無視されるという現実に、対応しきれなかった。
俺は、ただ茫然と固まっていた。この光景をどうして信じられようか。
そんな茫然自失となっている俺に向かって、何でもないように装っているアルメリアが話しかけてくる。
「チヒロさん、この領では応対をしてもらえないので通り抜けましょう。」
「あぁ……うん。」
「…………この対応は、このマスロネ領でしか見られない特別なものなんですよ?」
なんて冗談めかしているアルメリアの顔は、微笑んでいる。微笑んでいる筈の目の縁には、涙が貯まっているが。
……強いな、アルメリア。そう思うと同時に納得した。
俺とアルメリアが初めて出会った時。アルメリアは勝手に自分の馬車に俺を運んでいた。
あれは、俺に嫌われてる前提で取った行動なんだと。
だからこそ、あれだけ切実に友達を欲しがったんだと。
そういや、まだだったか。
「……なぁ、アルメリア。」
「なんです?」
「なろうか。友達に。」
「え?」
「ほら、あの時って結局邪魔されて何もできなかったろ?だから改めて、だ。」
「……いいんですか?……本当に、いいんですか?」
アルメリアは困惑しながら、涙を流している。困惑というより確認だろうか。
「ああ。」
「こんなに嫌われているんですよ?」
「ここだけなんだろ?」
「ほかの領でもこんなに嫌われていたら?」
「ザッドの街はお前の事を良く思ってくれているだろ?」
「ザッドの街でも嫌われたら?」
「何のために俺がいる?」
「後悔したって知りませんよ?」
「そっくりそのまま返すよ。……いいじゃないか。俺がそれでいいって言ってるんだから。それでいいだろ。」
そう笑って返すと、アルメリアも笑った。
「そうですね。…じゃあ、改めて。友達になりませんか?」
「ああ、なろう。」
「ふふっ。これで、なれたんですかね。友達に。」
「なったんだろうさ。これで。」
「「あっははははは。」」
あまりにも手軽というか、味気なかったというか。あまりの呆気なさに、笑ってしまった。
それはアルメリアもだった。
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そんな呆気なさは、マスロネ領と一緒だった。
貴族としての責任というか面子もあるのだろうが、アルメリアはその後3つの領地で泊まった。
ザッドの街を出てから5日で、王都へと到着した。
「ふぅ、久しぶりですね王都は。」
「あぁ、やっぱり人が多いな。」
ザッドの街も中々だが、当然だが王都の方が人が多い。
王都に住む人々は、貴族の馬車が通ることなど珍しくないようで。マスロネ領とは違っているが、何事も無かったかのように生活している。
「王城に、俺も行って大丈夫なのか?」
「私が雇った者なので、大丈夫です。」
そういう事を聞きたかったわけじゃあないが、別に俺が死ぬというわけでもないのだから、あまりに気にしないことにした。
「チヒロさんは、堂々としていればいいんです。」
「そうだな。」
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近衛騎士団が本物であるかどうかなどで多少揉めはしたが、それ以外に問題はなかったようで、あっさりと国王との面会が認められた。
執事に案内された先の部屋は、大規模な謁見の間ではなく小さい部屋だった。
中に入ると、七~八人掛けの円卓に国王が座っていた。
50代後半程で、騎士程ではないが鍛えられた肉体だ。
イケメンという程でも顔はよくないが、年もあってかその渋さには惹かれるものがあった。
「最も遠い辺境の地、ザッドの街からよくぞ来てくれたな、アルメリア。」
「はい。長い道程でしたが、帰って参りました。」
「チヒロ君、アルメリアの護衛をありがとう。」
「仕事ですので。当然の事です。」
国王は俺が気絶させた時と、人が変わっているのではないかと困惑したほど、柔和な表情で俺とアルメリアに挨拶した。
「さて、本題に早速入ろう。…あの近衛騎士団は、君が召喚したのだろう?」
「…はい、そうです。」
「その力を、少し貸してはくれまいか?」
「…………といいますと?」
少し勿体ぶるように一呼吸置いた後、国王は言った。
「10日後、戦争をするのだ。」
テストがあったため遅れてしまいました。
すこし先の話をお詫び代わりに。
剣の切っ先を向けて、俺は会場内に響く声で言う。
「俺が勝ったら、お前を貰う。」
俺の言葉に、一瞬会場は騒ぎかけるが、■■の返答を待ち静かにする。
「乗った。私が勝ったら……」
少し悩んだような表情の後。
「貴方は、私が貰う。」
そう迷いない笑顔で言った。
会場は当然、沸き立った。




