四十四話目
「夕日は綺麗なんですかね?」
そう呟いたアルメリアは、馬車の外に出た。
そんなアルメリアが発した声は、
「キャッ!?」
悲鳴だった。
アルメリアの両足に矢がそれぞれ別の方向から刺さり、急な痛みと衝撃とでバランスを崩す。
「嘘だろ!?」
なんて叫びながら、頭から倒れそうだったアルメリアを、お姫様抱っこのような形で受け止める。
……馬車の床に絶対穴空いただろうけど、今は置いておこう。
俺に向かって矢が4方向から飛び出すと同時に、辺りはスローになる。
いつもだったら攻撃に転じているだろうが、今回の場合アルメリアが負傷しているのもあって、空へと逃げた。
そしてそのまま、ザッドの街へと帰った。
…………説明が面倒になりそうだな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
スラノスは茂みに消えた後、どうすればいいのかただ考えていた。
「何やってるんですか、団長。」
そこへ、盗賊役をしていた団員達が後を追う。
「…………お前達…。」
盗賊役の団員は、まだ盗賊のようなみすぼらしい服装のままだった。
「…自分達にできることはありませんか?」
「少しでも、団長の役に立ちたいんです。」
「……あいつらの為にも、やらせてください。」
「生き残った俺達が、あいつらの分も頑張らなければいけない気がするんです。」
「……弓と矢は使えるか?」
「「「「はい!」」」」
「……じゃあ急いで、アルメリア様の馬車を囲め。もちろん、弓と矢を持ってな。」
「「「「了解です。」」」」
「矢を撃つタイミングは、馬車の中からあいつが出てきた時だ。」
このようなやり取りの後、アルメリアの足は二本の矢に撃ち抜かれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
入領の手続きなどを無視し、領主の館へ直行した。門番にアルメリアを医務室に連れて行ってもらい、俺は今朝方会った執事に一通り話した。
「……把握しました。……近衛騎士団の皆さんがいないことにはどうしようもないですし、今後を考えましょうか。」
執事さんは、話を聞くと俯きがちにそう言った。アルメリアが倒れたことに、強いショックを受けているような声色をしている。
触れないほうがいいのかもしれない。
「……そうだな。まぁまず、依頼料は無しでいい。」
「いえ、そういう訳には……。」
「どうせあのぶっ飛んだ金額は、アルメリアが設定したものだろ?」
「えぇ…まぁ、そうですが…。」
「この際あなたにも言っておくが、あれははっきり言って迷惑だ。俺1人に使うよりも、領民の全員に役に立つように使ってくれ。俺としては精々、金貨10枚あれば満足だ。」
「……そのように伝えておきます。予定では、お嬢様は遅くとも明日の昼までにはマスロネ領についていることになっています。ですので、怪我は今晩中には治さなければいけません。」
……今後って予定とかのことだったか。……気にしないでおこう。
それよりもだ。
「で、その手段はあるのか?」
「えぇ、嫌われているとはいえ第二王女ですので、専属の回復魔法を使える者がいます。ですがその者は、近衛騎士団に含まれていてですね……。」
…………まぁ、考えてみれば当然か。アルメリアを守るためにいる組織なんだし。
しかし回復魔法か。……これまでの事を考えれば、十中八九できるんだろうな。
「まぁ言いたいことは分かった。…もしかしたら、どうにかできるかもしれない。」
「チヒロ殿ほどの冒険者ともなれば、回復魔法を使える者とも繋がりはもっているのは当然ですね!」
執事さんは俺の事を、夜が明ける際の朝日のような何かだとでも言いたそうな目で見る。
……どうなんだろう、ジェシカは回復魔法を使えたりするんだろうか。
「まぁ、とりあえずは俺がやってみるさ。俺が駄目だったら心当たりのある奴を呼んでくる。それでいいか?」
「……え?チヒロ殿がですか?」
「まぁ、魔法に自信はあるんだ。回復魔法だって、どうにかなるだろうさ。」
「ですが…回復魔法とは魔力を膨大に使用するものでして。一般的には、エルフの方々が回復魔法として活躍しています。その方々でも回復できる回数は、日に数回程度でしかありません。」
もしかしなくてもそのエルフより、俺の魔力のほうが多い気がする。
「それはそれ、これはこれだ。やれば分かる。」
「……その決断力と行動力…本当に記憶を失っているのですか?」
今そこ聞く?もっと優先事項あるはずだろ。
「もし失っていなかったとして、15歳の子供が決断力と行動力を持ち合わせているのか?」
「アルメリアお嬢様を御存じないでしょうか?」
折れようよ少し。従者としてもっと柔軟に動くべきだと思うぞ。
「……それはそれ、これはこれだよ。俺は平民、そっちは貴族。ましてや王族。生まれ持った才能が違うんだよ。」
「では何故、才能も記憶もない貴方が。…アルメリアお嬢様と同格か、それ以上の決断力と行動力を持ってるのですか?」
「平民の才能が、貴族…王族の才能と劣っていると誰が言ったよ。あくまでも違いがあると言ったんだ。」
「違い…ですか?」
「そう。平民はな、必死なんだよ。その日を生きていくために。だからこそ知恵を働かせて、いかに楽をできるか。いかに金を掛けずにできるか。いかに住みよく生きるか。日々成長する…成長できる才能がある。」
「貴族はそうではないと?」
「貴族が持つ才能……平民の俺には浮かばないが、強いて言うなら金を使う才能か?」
「……どうしてそう思われたのですか?」
「これは意外だ。アルメリアを知らないのか?」
執事さんは一瞬固まった後。
「これは、私の負けですね。では。チヒロ様は記憶を失っていないということで、よろしいですね?」
「あぁ。じゃ、医務室…?に案内を頼む。」
「では、私の後ろをついてきてください。」
館の廊下に明かりはついていなかったが、窓から星明かりが差し込んでいた。




