四十三話目
出発前、ザッドの街の領主の館内にて。
近衛騎士団団長である、スラノス・レリフは、団員達に話をしていた。
「今回のアルメリア王女の護衛に関しては、今までと違う点がある!それは、冒険者が護衛として同じ馬車に乗るという点だ!」
筋骨隆々にして短い金髪。彫が深い顔立ちで、女受けは街では密かに人気な騎士団長である。質実剛健、公明正大、等々あげればきりのない程に長所の多いこの男。デハミッシュ王国に貢献した回数は他の騎士を群を抜いて高い。だが、そんな彼は。
チヒロに嫉妬している。
スラノスの言い分はこう。
唐突に表れ、ドラゴンの群れ討伐者としてだけでなく、国王への謁見を碌に行わず、第二王女を唐突にザッドの街へと誘拐し、そのまま領主に仕立て上げた。指名手配をされた訳では無いが、国王直々に冒険者ギルドへ、討伐依頼を出される程の悪事を働いたチヒロの知名度が高すぎる。
王国への貢献度は高いスラノスは、知名度が低いということがコンプレックスなのだ。
貢献度が高すぎるスラノスは次から次へと仕事をこなす。勲章、表彰を与える時間も無いほどに。
それによって、代理の者がスラノスへの勲章、表彰を毎度受け取っている。
もはや代理の者がスラノス本人だと思われるほどに、スラノスは表舞台に出てこないのだ。
それによって民衆の関心は別のものへと移り、スラノスは余り覚えられていることは無い。
「その冒険者は、このザッドの街を拠点とするヨシダ・チヒロだ!」
半ば怒り気味にそう伝えるスラノスの姿に、若干の違和感を覚えつつも騎士達は話を聞き続けた。
「知らない者は殆どいないだろう!来て僅かにしてドラゴンの群れを討伐し、その功績を称えるはずの国王から、何故か討伐依頼を出されているヨシダ・チヒロだ!」
怒気を隠すことを諦めたのか、スラノスは腰に掛けてある剣を抜いて掲げた。
「俺は、あいつが国王に対して何らかの対抗的、もしくは反抗的な態度をとったと考えた!そんな奴を、アルメリア王女様の護衛として側に置かせるわけにはいかない!……俺の考えに賛同する者は剣を掲げろ!」
そのスラノスの言葉に、一人、また一人と剣を掲げていく。困惑する者も、周りが上げてるからと次々に掲げていく。
そして、その場にいる近衛騎士団総勢100名が剣を掲げた。
その100人の長、スラノスは満足げに一つ頷き、言った。
「……今回、機会をみてヨシダ・チヒロを殺す。」
その時のスラノスの顔は、口角が上がっていた。
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次のマスケロネ領に行く際に、見通しの悪い道に盗賊に扮した騎士団員を配置しておく。
そして、道の真ん中で1人立たせておき馬車を止める。そして護衛であることを言い訳にして盗賊をチヒロに探させ、盗賊の振りをした騎士団員に不意打ちをしてもらう。
そこから、馬車から降りてきた自分がとどめを刺す。
このような計画をスラノスは立てていた。
だが蓋を開けてみればどうだろう。
盗賊の振りをした60人の中で、9割方はチヒロに殺され残ったのは5人だけ。
そんな結果に終わってしまい、スラノスは馬車の中で団員から無視され続けていた。
「……チヒロめぇ!」
小さくだがそう呟いたスラノスは、また別の作戦を立てていた。
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「今日は、この辺りで一旦泊まることとする!明日に備えて英気を養え!……あとは各自で行動せよ!」
日が暮れかかる頃。騎士団長は馬車から降りてそう指示すると、茂みの中に消えていった。
外にいて周囲の警戒ばかりしていて、精神的な疲労のほうが大きい。……少しはアルメリアと話すか。
馬車の中に入り、アルメリアの向かいに座る。
「予定では、マスロネの街に着くはずだったのですが……。盗賊がでてきてしまったのが、原因なのでしょうか?」
「ああ、きっとそうだろうな。……あんまり大声じゃ言えないが、盗賊を討伐する為に止まったりなんかしなければ、もう少し移動ができたんだろうさ。」
「それはいけません。もしチヒロさんが盗賊を討伐していなければ、他の人に被害が出ていたのかもしれないのですから。」
「そういえば、領主様だったな。」
「そういえば!?今、そういえばって言いましたか!?」
柔らかな微笑みだった顔を、いきなり真っ赤に染め立ち上がる。
突いちゃいけないところを突いてしまったようだ………。
「外の景色とかを楽しんでいる時とか、ただの普通の女の子にしか見えないからな。始めて遠出する子供みたいな。」
「……そう…ですか。……ほんとにそうなんですね?」
「むしろここで嘘を吐いてどうする。」
「まぁ、チヒロさんが嘘を吐くとも思いませんしね。」
アルメリア……大丈夫か?チョロすぎやしないか?自分でいうのもなんだが、こんな短い期間でそこまで信頼関係を築き上げた気は一切ないんだけど?
俺の困惑とは裏腹に、アルメリアは爽やかな笑顔をしていた。
「夕日は綺麗なんですかね?」
そう呟いたアルメリアは、馬車の外に出た。




